クリエイター&アーティスト・佐藤詩織の創作への想いと愛用品「企画書も香盤表も、全部イラレで作るんです」

佐藤詩織の創作への想いと愛用品

 いまや、だれもがガジェットを使いこなす時代。スマートフォンを使って情報を取り入れ、SNSで発信するなど、新しいテクノロジーをいち早く生活に取り入れてきた世代のクリエイターたちは、どのような感覚でモノを選び、創造しているのだろうか。インタビュー連載「わたしたちのガジェット」では、さまざまな分野で活躍するクリエイターの、ガジェットやデバイス、ツールを活用した創作活動にフォーカスする。

 記念すべき第一回は、元欅坂46のクリエイター&アーティスト・佐藤詩織。2020年10月にアイドルグループを卒業し、クリエイターとして独立した佐藤はどのようにガジェットやツールを活用して制作を進めているのだろうか。アイドルから独立した際の葛藤や、フリーになってからの仕事術について話を聞いた。(山本勇磨)

“そういうマインドに変わったときに「あ、いまこの瞬間を映像に残しておきたいな」と” 

――欅坂46を卒業されてから1年間がたちました。卒業されてから、いままでどういうことをやってきたのか教えていただけますか?

佐藤詩織(以下、佐藤):2020年10月13日のラストライブをもって、欅坂46のお仕事を終了しました。それ以降は、こうしてメディアに出ることを一旦やめようとしていたのもあって、休める時間ができたんですけど、1カ月も経たないうちになにかしなきゃいけない、という気持ちになってきました。そういうマインドに変わったときに「あ、いまこの瞬間を映像に残しておきたいな」と思ったんです。

 それが11月の終わりぐらいですね。それから一気に映像のイメージがぐわーと湧いてきたので、12月には企画書や絵コンテを書いて、12月中旬ぐらいから衣装作りを始めました。日暮里の繊維街に布を買いにいって、イチからパターンを引いたりして。2月にそれを「Be true to yourself」という作品として公開しました。…いや、あれは4月に発表したのかな? すみません、もう本当に私、日付の感覚が無いんですよ(笑)。

――あとで調べておきます(笑)。*4月15日公開でした。

佐藤:卒業してから大きな夢を2つ決めていて、その1個が映像を完璧に作ること。それと個展をすることだったんですね。個展は大学時代からの夢でもあったので、会場をイチから調べたり配置を考えたり、自分の手で開催しました。8月の…25でしたっけ? 駄目だ!(笑)。

――8月の27日から30日ですね(笑)。

佐藤:そうだ! それでいまに至る、という感じですね。

これから現実的に叶えられない夢が増えていくかもしれない。だから区切りを決めた 

――ずっといたグループや組織から離れると、その看板が自分から外れることの危機感に襲われることは一般的に多いと思います。佐藤さんはアイドルグループを離れてみていかがでしたか?

佐藤:そうですね。私も次の目標や夢がないとすごく焦る性格なんです。

 たとえば中学生まで11年間クラシックバレエをやっていてプロを目指していたんですが、けがで辞めることになってしまったんですね。そのころは自分にとってバレエしかなかったから「あぁ、夢が一気に無くなってしまった……」とすごく焦りました。

 そんな性格なはずなんですが、欅坂を辞めるときは、次に進む方向が本当になにも決まっていなかったけど「いまだ」みたいな感じがすごくて。辞めたあとは案の定、焦りはすごかったです。いままでの5年間の生活が目まぐるしいし、刺激にあふれてたし濃かったぶん、いきなり「無」になったことに心が追いつけなくて。だって、10月13日まではライブしてたんですよ(笑)。

――グループにいるときは、あえて次のことはあまり考えないようにしていたんですか? あるいはグループ活動を打ち込んでいたら、ふとそういうタイミングに直面したのですか?

佐藤:24歳は自分にとってちょうど人生の分かれ道の年でもあったんですよね。私はアイドルを5年間させていただいて、グループも次に進んでいく時期でもありました。新しいグループになって、すぐに「卒業します」と言うのは迷惑がかかるもしれない。だから、次に進むならいまかもしれないと感じたんです。

 もともとはデザインのお仕事に就くことを目指していたので、高校で美術予備校に通って、美大にも入りました。社会に出たら広告代理店にも入りたかったので、制作や表現する道もやっぱり捨て切れなかったんですよね。自分のやりたいことともう一回向き合って、30歳までの間になにをしたいのか考えたときにアイドルを卒業することを決めました。

――ぼんやりと「30歳」というボーダーがあるのは感覚的なものですか?

佐藤:感覚なんですかね…?(笑)。

――社会にでると「組織から評価される自分」が自分になっていくこともあり、社会に出て5年くらい経つと自分のルーツを辿りたくなる感覚はわかります。やはりそういった感覚に近いんですかね。

佐藤:そうですね。アイドルの5年間は本当にありがたい時間で、多感な時期にこの5年間を過ごせたから、いまの自分が形成された部分も大きくあります。でもやっぱり、たとえば結婚して出産してステージが変わると、現実的に叶えられない夢が増えていくかもしれない。線引きはしたくないんですけど、30歳をひとつ自分の中で大きな区切りとして考えるようになりました。たぶん決めないでいるとノロノロと過ごしていく気もするので(笑)。

――広告代理店のキャリアを積んでいく可能性もあったかもしれませんが、グループにいたからこそ活きていることはありますか?

佐藤:それはもうすごくありますね。自分が演者として体験していたからこそ理解できる部分が多いです。細かいところでいえば、香盤や絵コンテ、企画書にはなにが必要なのかとか、見せ方も見られ方も分かるじゃないですけど、演じ手と作り手を両側から理解できることの強みはあります。

――グループにいた頃は楽曲を頂いて、それを表現する活動だったと思います。そういった表現をしていた頃と、フリーになったいまとのモチベーションや難しさの違いはありますか?

佐藤:いやー、両方難しいと思いますね。まず、アイドルだったときは「こういうものを歌ってもらいたい」という作り手のイメージがあって私たちが表現しますが、最初はやっぱり、自分の想いとは違うわけじゃないですか。

――違うんですね。

佐藤:だから、いったん入り込んで、その気持ちになって届けることはある意味で大変だと思うんです。一方で、もちろんプロの方たちが練りに練って最高の形で渡してくれているので、自分たちが頑張れば頑張るほど良いものになる。そういう表現活動ではあるなと思っていました。

 でもいまは、自分の伝えたい想いと、受け取ってくれる人の想いの違いもしっかり想定しないといけない。グループにいたときもそれは同じではあったんですが、その思考が増えました。

――ひとつの物事に集中していると、全体を見たときに伝わらなかったりすることがあるわけですね。

佐藤:そうですね。

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