にじさんじ元一期生の自由さは無二の宝物だーー『initial step in NIJISANJI』が示した“家族みたいな”8人の絆

にじさんじ元一期生公演に感じた“絆”

 ライブ最後のMC、順々に最後の挨拶をしていく。モイラ、える、樋口と挨拶し、元一期生の中心でもある月ノ美兎にマイクが渡る。色々と言葉を重ねていくが、感情がかなり先走っていることもあってか「本当に……」を連発しまい、どうしてもうまく言葉にすることができない。

 勇気ちひろは一言「終わりたくない」とポツリとつぶやく。それまで和やかに進んできたショーが、一気にトーンチェンジしていく。促されるように「みんな!楽しかった!?」と会場に聞くと、拍手で会場も答える、勇気はおもむろに鈴谷のほうに体を向けて、こう言葉をかける。

 「アキ、楽しかった?」と。

 この日、3Dを初めてお披露目した鈴谷アキは、この日もっとも多く歌っており、8人全体での歌唱を含めれば7曲で歌を披露した。YOASOBI「怪物」をどこか素朴で優しげなトーンで歌い、原曲に漲る怒りの感情ではなく、己の無力さを憂うようなニュアンスを感じさせるカバーへと仕上げ、本人と原曲のイメージ・ギャップを突きつつ、丁寧に感情を拾い上げるようなボーカルだった。

 そのほかにも、3年前にファンから制作されていた「Brand New Day's」や、アニメ『みつどもえ』の「みっつ数えて大集合!」をモイラ・勇気らと3人で歌うなど、ニュアンスもサウンドも別々な曲を歌い上げ、初めてとなるライブを心行くまで楽しんだだろう。

 元一期生全員での初ライブであり、もっともスポットライトを当てるべきでもあろう彼に、長年共に頑張ってきた勇気が声をかける。声を詰まらせ、視線を落とすのもムリもない。2人はそのまま静かに泣き出してしまう。

 湿っぽいムードのなか、2人の間に挟まっていた静凛がオーバーなアクションでカラっとした笑いを取ろうとし、「泣いて良いよ! もう、泣こう?」と声をかけはじめるほかのメンバー。「にじさんじは家族みたいなものだから」と以前から口にしていた渋谷にマイクが渡ると、落語家のように正座し「8人で3Dで並んで、一層絆が深まった。ありがとうございます」とキレイに締めてみせた。

 

 意を決して始まったラストの曲は、8人歌唱として初めてのオリジナル曲「1∞color」だ。ライブの締めくくりということで、途中のセリフが8人それぞれの配信終了時にする挨拶へとなる、8人でのダンスもピタリと揃って統一感も抜群。この日のライブを鮮やかに締めくくった。「次は配信で会いましょう!」と声にして、8人はステージから去っていった。

 8人の言葉やコミカルさに僕らは気を取られがちだが、根源にあるのは「自由に振る舞おう」というマインドだろう。それは時にワガママだと言われ、時にそれは個性だと誉めそやされる。場を弁えなければ非難の対象になり、場所を選べば最高の武器になる。

 「向かう先がそれぞれでも進んでいこう」と歩んできた8人にとって、自身が自由に振る舞いたいとき、それぞれのスタンスで受け止めてくれるメンバーがいなければここまでこれなかった。別々に歩みながらもそこにある一体感は、紛れもなく彼らだけの生みだせる空気であり、にじさんじにしか持ちえない“無二の宝物”なのだ。

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