ノルウェー“写真加工=違法”の新法律から考える、世界と日本で異なる「盛り」の価値観

世界と日本で異なる「盛り」の考え方

 「テクノロジー」という言葉はここ数年、ファッションやティーンカルチャーともより深く結びついている。これは新型コロナウイルスの感染拡大によってコミュニケーションがデジタルへと大幅にシフトし、バーチャルアバターが広く普及、SNSではTikTokが派遣を握ったした2020年〜2021年における前提条件といえるだろう。

 写真や端末を通して自身のビジュアルを変化させる「バーチャル・ビジュアルアイデンティティ」に詳しく、現代の女性がなりたい自分になることを叶える技術「シンデレラテクノロジー」を研究し、著書に『「盛り」の誕生 女の子とテクノロジーが生んだ日本の美意識』を持つ、メディア環境学者の久保友香氏による連載「カルチュラル・シンデレラ・テクノロジー」がスタート。毎回、国内外で注目すべき「バーチャル・ビジュアルアイデンティティ」に関するニュースをピックアップし、専門的な視点から解説・考察していく。

 第一回はノルウェーで法律として可決されて話題を呼んだ「広告主とSNSのインフルエンサーが、写真を加工について開示せずにオンライン上に掲載した場合、違法になる」という法案について、世界と日本の「盛り」の比較から考えていく。

参考:https://www.bbc.com/news/newsbeat-57721080

「盛っている」ことが標準の日本 欧米諸国とは明らかに違うカルチャー観

 先日ノルウェーで、広告主やインフルエンサーがSNSに投稿する写真に加工が施されている場合、それを開示することを義務付ける法律が可決されました。同様の規制がイギリスやフランスなどでも行われています。この法律が制定された背景として、ノルウェーの若い女性の死因第3位が「拒食症」であることがあげられます。そしてそれを促進してるのが、広告やSNSで見られる細い体型のモデルさんたちだと。彼女たちの理想的な体型を見て、自分の体型も見ると大きなズレがあるから、それを埋めようとしてしまうということでしょうね。

 一方で日本では、あまり大きな問題にはなっていないように思います。なぜかというと、日本の女の子たちは細いモデルさんを見たときに、「加工してるな」って思うから。当然のようにみんなしてますから。むしろ自分の加工とのズレが気になるくらいでしょうね。だからまず写真を見たときの認識に違いがあるんじゃないでしょうか。今日本のSNSでは、「修正なし」という言葉を目にすることが増えています。インスタグラムでも「# 無修正」ってタグがありますね。ノルウェーの法律は修正をしたときに「修正してます」ということを開示するものですが、日本ではしてないときに「無修正です」ということを開示するという、興味深い文化の違いが現れています。要するに、ノルウェーでは修正をしていないのが標準、日本では修正をしているのが標準だということ。

 日本の加工文化は歴史にも現れているので、簡単に振り返ってみましょう。

 まず広告ポスターや雑誌の表紙のモデルさんや芸能人の写真を加工する文化は、世界的にも古くからありました。日本でも昭和40年代にはあって、鉛筆や刷毛や針を使って手作業でレタッチをしていたようです。体型は大きく変えられませんが、目鼻立ちをはっきりさせたり肌をきれいにしたりして、1枚のポスターをレタッチするのに10日かかっていたとか。それから昭和50年代になると徐々にデジタル化が進み、体型なども加工できるようになりましたが、それは他の国も似たような歴史だと思います。

 ただ日本は、一般の人の写真への加工が日常的に行われるようになったのがかなり早いんです。その先駆けとなったのが「プリクラ(プリントシール機)」ですね。撮影した写真を加工するには、デジタルカメラにコンピューター、そして出力するデバイスが必要ですが、それがまだ一般人にはなかなかハードルが高かった時期にセットになってゲームセンター向けにリリースされたのがプリクラなんです。

 1995年に誕生した“プリント倶楽部”は、「加工してる感」は全くなかったのですが、メーカーさんに聞いてみるとその時点でもちょっと細くするくらいの加工はしていたようです。プリクラが大流行して、1997年頃には急ごしらえで作ったようなものもゲームセンターに登場しました。それはカメラや照明が剥き出しになっていたので、ユーザーはそれを勝手にいじって、斜め上から白飛びするように撮影するなど、手作業での加工するようなハッキングも行われていたようです。それを見たメーカーさんは「ユーザーはありのままじゃなく、加工をしてほしいんだ」とわかって、1998年頃には、正式にデジタル画像処理による加工が行われるようになりました。

 2003年くらいからは目を強調する加工が取り入れられて人気になり、各社競争する中で、どんどんデカ目になっていきました。2009〜2010年がデカ目のピークなんですが、この時点でもまだ一般の人が顔写真を日常的に加工するなんて日本だけだったんですよ。

 2013年頃に、日本で働いていたプリクラ大好きのイギリス人の方に取材させてもらったことがあるんですが、イギリスに帰って家族や友人にプリクラを見せると、すごく不可解な反応をされたそうです。「子どものおもちゃでしょ? 20代の女性がなぜそんなことしてるの?」と。2014年には海外向けのプリクラ機「PURIBOOTH(プリブース)」がリリースされましたが、外国の方の意見を取り入れながら開発を進めた結果、顕著な加工はかなり抑えた製品になったそうです。それくらい日本と海外では加工の受け入れ方に温度差があったということ。

 2016年にはフランス有数の化粧品会社の方が、日本とフランスの状況が大きく違うことに興味をもって、私のところに取材に来たことがありました。2010年にiPhoneがインカメラを搭載して、カメラ、コンピューター、ディスプレイがセットになったデバイスが手に入り、誰でも自撮りをして加工できるようになりました。2013年末に英語で「自撮り」を意味する「Selfie」がイギリスのオックスフォード辞典の「今年の言葉」に選ばれるほど、ヨーロッパでも自撮りは広がりましたが、加工することは広がっていなかった。だから日本の女の子たちの自撮り文化が、進んでいるのか、特殊なのかと気になったそうです。

 その方は「なぜ日本の女の子たちは顔写真を加工するのか」と、どうしても理解できない様子でした。「外見を変えても内面は変わらないのに、なぜ外見を変えるんですか?」って聞かれたときは、私はそういう考え方をできなかったので、驚きましたね。外見と内面の二元論なのかと。その言葉の背後には、「日本の女の子は外見重視で内面を無視している」ってことが感じ取れたので、たしかに外見重視ではあるけど、決して内面無視ではないということと、日本の女の子が重視している外見は、その方がおっしゃる外見とは少し違うということを伝えたくて、頑張りました。

 たしかに私も女の子たちが目をとても大きく加工し始めた頃は、若い子たちがなぜ加工したがるのか不思議でした。加工している外見と、していない外見の折り合いをどのようにつけているのかがわからなくて。それがわかるきっかけとなったのが、2012年にフリューさんが開催した「ヒロインフェイスコンテスト」でした。



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