凛として時雨・ピエール中野などJ-POPアーティストの“原音”を届ける唯一の存在 AVIOTが「日本人のための」イヤホンを作る理由

AVIOT「日本人向け」イヤホン作る理由

 音楽、映像などのエンタメコンテンツを楽しむ際にかかせないオーディオ製品。イヤホンやスピーカーなど、数ある製品にはどのような企画立ち上げの思いや開発者らの努力が詰まっているのだろうか。連載「エンタメを支えるメーカーの裏側」ではオーディオライター・折原一也がメーカーの裏側に迫り、開発ストーリーを紐解いていく。

 「アーティストの声をデバイスに取り入れる」をコンセプトに完全ワイヤレスイヤホンに(TWS)注力し、製品を展開するAVIOT。凛として時雨のピエール中野、木村カエラ、Awesome City Club、モーニング娘。’21など、J-POPシーンを支えるアーティストたちの協力を得ながらイヤホンを音楽ファンに届け続けている。

 なぜTWSに注力し、製品を作り続けているのか。欧米、中国メーカーなどの競合がひしめくなか、AVIOTが提供する日本メーカーならではの価値とは。ブランド立ち上げの経緯から製品の開発のこだわりまで開発・販売を行うプレシードジャパンに話を聞いた。

<インタビューイー>
プレシードジャパン 制作開発本部長:岩崎顕悟氏
開発チームメンバー:生永壮太氏

「音の出口の直前までデジタル処理できる」ことからTWSに注力

折原:AVIOTはオーディオ機器メーカーのなかでは新興ブランドのイメージがあります。まずはAVIOTや発売元であるプレシードジャパンについて教えてください。

岩崎顕悟(以下、岩崎):プレシードジャパンはワイヤレスオーディオメーカーです。最初は企画会社として設立し、その後、2018年にクラウドファンディングで初めての自社製品『TE-D01b』を発売しました。

 バックグラウンドについてお話しますと、私はもともと日本のオーディオメーカーの社員として、中国、ドイツ、イギリスと各国に駐在していました。そこで感じたのが、日本のオーディオが売れる国と売れない国があるということです。ドイツでの売れ行きは上々で、お客さまからも「音質がいい」「多機能」「値段が安い」といった評価をいただいていたのですが、イギリスでは全く売れないんですよ。

 ドイツに4、5年駐在した後に、イギリスの立て直しを任されました。そのときに、現地のスタッフに日本から持ち込んだオーディオ製品を聴いてもらったのですが、ドイツでは高く評価されている製品がまったく評価されない。これはまずいということで現地の大学院に通い、音響機器や言語、音声に関わる科目を片っ端から勉強しました。

 そこで見えてきたのが、言語ごとの音の周波数の違いです。日本語の周波数(パスバンド)は諸説ありますが、150ヘルツ〜2,000ヘルツくらい、ドイツ語は200〜3,500ヘルツくらいと、オーバーラップしている周波数が近いのですが、イギリス英語の場合は2,000〜12,000ヘルツ程度でかなり違うのです。

 そこでプロジェクト立ち上げて、何が英国人の耳にとって最も聴こえがいいのかということを研究し、結果的にイギリスでも高く評価される製品を開発することができました。

 その経験で、国や言語(母国語)によって心地のいいサウンドは違うということがわかったため、日本でも日本語を母国語とする人々にとって最も心地良くはっきり聴こえる音を届けたいという想いから「Japan Tuned」を開発し、AVIOT製品で再現しています。

折原:AVIOTは他メーカーと比べても早い段階でTWS市場に参入したようですが、どのような経緯だったのでしょうか?

プレシードジャパン 制作開発本部長:岩崎顕悟氏
プレシードジャパン 制作開発本部長:岩崎顕悟氏

岩崎:TWS市場への参入を考えるようになったのは2016年です。AppleのAirPods発売前後の時期で、マーケティングのキャズム理論でいうところのイノベーターの人たちがTWSに飛びついているという段階でした。高価ながら飛ぶように売れていて、これからはTWSの時代が来るなと感じていました。

 しかし同時に価格を考えると普及するかどうかはわからないという懸念もありました。そこで、私たちが製品を作るときは、価格を抑えてシェアを一気にとる戦略をとろうと当時から計画していたのです。

 そこで、まずはTWSメーカーの販売代理店としてスタートして市場を構築することにしました。それが2016年の10月です。自分たちで製品を作りたいという夢は持っていたものの、資金力もなければ会社も小さい、エンジニアもいないという状況でしたので、まずは代理店として足場を固めようという戦略です。

 その後、メーカーとして独立することができたので、2018年にクラウドファンディングで『TE-D01b』を発表しました。その頃は、AppleのAirPodsも普及しつつある段階でTWSが根付き始めている状況でしたが、我々はオーディオメーカーとしてのプライスリーダーになろうと考えました。

折原:AVIOTでは、例えばワイヤード(有線)イヤホンなども作らずワイヤレスのTWSにかなり注力していますよね。これに理由などあるのでしょうか。

岩崎:「音の出口の直前までデジタル処理できる」という点に尽きます。ワイヤードでは音楽を再生するプレイヤーも音質に関わってきますよね。その点、TWSはシンプルに出口まで音を届けられるので、内部のSoCの集積度をいかに高めるか、オーディオの基本でもある信号経路をどれだけ短縮して音の純度を上げていくかにこだわることができます。

 我々は小さい会社なので、大手メーカーと総合力で戦っても太刀打ちできませんし、低価格を売りにしている中国メーカーと真っ向で勝負しても勝ち目はありません。そこで、ニッチに絞り込んで、TWSに集中投資し、そのなかで戦っていくことにしました。

 また、参入当時から、今後5〜10年で音楽ファイルはハイレゾ化し、それをワイヤレスで聴く時代が来るだろうということも予測していました。そのためワイヤードの製品は手がけないと決めていました。

折原:AVIOTのTWSでは、当初からクアルコムの最新SoCを採用するなど、最新テクノロジーの導入で他メーカーに先行しているように思います。なぜ、それが可能なのでしょうか?

岩崎:2016年の黎明期からクアルコムのSoCを採用していたERATO社と組んで仕事をしていたこともあり、早い時期から情報は入ってきていました。

 そのため、当初からクアルコムのSoCを使って設計ができるエンジニア、生産ができる工場を探し、見つかった会社とチームを組んで現在に至ります。

「質感」を重視するためには、電波を通しにくい素材も使用

折原:先ほど中国メーカーと価格面で勝負はできないとおっしゃっていましたが、近年はネット通販などで高性能かつ低価格のものが増えてきています。それらの製品とAVIOTのイヤホンは、どのような差別化をはかっているのでしょうか。

岩崎:まず、先にお話した日本語を母国語とする人々聴覚特性に合わせたチューニングを行っている点が最大の違いです。さらに、技術的面だけではなく、プロダクトとしての質感、思わず手に取りたくなる所有感にもこだわっています。価格面では中国メーカーなどには太刀打ちできないので、塗装技術などを研究して作り込みのよさで勝負しています。

『TE-D01gv』

 『TE-D01gv』を例に挙げさせていただきますと、低価格帯製品の場合、ケースはプラスチックに塗装しただけというものが多いのですが、この製品は車の塗装にも使われる雲母を塗料に混ぜ込みキラキラしたデザインに仕上げています。さらに、製品下部はマットな仕上げをしながら、汚れが付着しにくいかつ手に持って滑りにくいような加工も施しています。

 また、イヤホン本体にはメタリックパーツを使用しています。こういった素材は電波を通しにくいので、受信感度を優先するなら避けたい素材ですが、私たちの製品は手に取った瞬間に伝わる質感がないといけない。そのために、電波を通しにくい素材を使いながら受信感度を上げる工夫をしています。

折原:デザインと機能のバランスを緻密に取りながら開発を進めていたことが伝わってきます。実際に開発段階でこだわった部分はありましたか?

開発チームメンバー:生永壮太氏
開発チームメンバー:生永壮太氏

生永壮太(以下、生永):デザインに関しては音質と同じレベルで手をかけている領域なので、塗装や手ざわり、光沢の出方、光に当てた時の色の変化など、さまざまな面を考慮して仕上げています。音質の場合は設計してチューニングを行えば、あとは量産するだけですが、塗装の場合ロットによって仕上がりがまったく違ってくるので、生産が始まってからも目標とする色からずれていないか等、常に追いかけながら生産をしています。

折原:『TE-D01i』は女性向けの製品ですが、男性の耳にもかなりフィットします。そして独特な形状ですよね。この形はどういう経緯で作られたのでしょう。

『TE-D01i』

岩崎:『TE-D01i』は、弊社のスタッフが全国のイヤホン専門店で働く方々の耳型を測定してまわって作った特別な形状です。イヤホン本体のノズルを細くしながら外耳におさまるように、おしりのへこみは耳のふくらみにフィットするように設計しています。おっしゃっていただいた通り、この日本人に合わせた独自の設計が男性のお客様からも反響がありました。

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