エンタメを支えるメーカーの裏側(第1回)
凛として時雨・ピエール中野などJ-POPアーティストの“原音”を届ける唯一の存在 AVIOTが「日本人のための」イヤホンを作る理由
アーティストとのコラボは彼らの「本当の原音」を届けるため
折原:ピエール中野氏をはじめ、様々なアーティストとタイアップされていますが、その理由について教えてください。
岩崎:AVIOTのイヤホンでは、今では音響工学的にも理論に基づいて日本語を母国語とする人々の聴覚特性に合った音を実現することができるようになりました。でも、音響工学的にOKでも、それだけではだめなのです。本当にこれがアーティストが聞いて彼らが表現したい音になっているのかを確かめなければいけない。
そこでAVIOTでは、アーティストとの距離をつめて、音楽のなかに含まれているソウルを、どう伝えるかというところを実現したいと考えました。
最初はレコーディングスタジオを回って製品を使っていただいていました。でも、レコーディングスタジオにいる方はミックスやマスタリングをするプロ。本当の原音を知っているのはアーティストです。そこで、アーティストの皆さんにアプローチをして、「これはあなたが演奏している通りの音ですか?」ということを聞いて、音を再現していくことにしました。
折原:様々なアーティストさんの原音を再現することはとても骨が折れる作業のように感じます。通常モデルのほかに、アーティストと全面的にタッグを組んだ「コラボモデル」も発売していますが、両モデルを開発するなかで見えてきたことなどありますか?
生永:アーティストコラボモデルはその他の製品とチューニング方法が異なってきます。通常モデルはAVIOTオリジナルの「Japan Tuned」を行っているため、主にはJ-POPを何百曲も聴いてチューニングします。J-POPはジャズだったりファンクだったり様々なジャンルをベースに楽曲が制作されているので、どんな曲でも破綻のない音作りを目指さなくてはなりません。
一方アーティストコラボモデルの場合は、アーティストさんの世界感が求められるため、一人ひとりに寄り添った細かなチューニングが必要となります。より理想の音を追求していただくために、演奏では出せないような「原音以上の音」も表現できるように、しっかりと意図を汲み取ったチューニングを心がけています。
折原:ピエール中野氏とコラボした“ピヤホン”こと『TE-BD21f-pnk』『TE-D01d-pnk』『TE-BD21j-pnk』『WE-BD21d-pnk』をはじめ、多数のアーティストコラボモデルがありますが、これらは具体的にはどのように作られているのでしょうか?
岩崎:先ほどお話ししたように、オーディオには音響工学的な理論だけでは到達できない領域があります。それは、“味”の面であったり、リアリズムであったり、スピード感であったりします。
とくに中野さんは名ドラマーですから、たとえばバスドラムを叩いたときに、それが他の音とどうリンクするのかという点まで緻密に計算して叩いているはずです。だから、わずかでもズレがあってはいけない。そのズレを無くすためにはどうしたらいいのかを突き詰める必要があります。そのため音のパターンをいくつも作って、何度も聴いてもらうという極めてアナログ的な方法でチューニングを行なっています。
中野さんにはブランド設立初期からTWSの音作りに関わっていただいているので、専用のイコライザを作って済ませるようなレベルではありません。イヤホン内部のユニットの素材や、イヤホンの音響構造の段階から、音作りに参加していただいています。
折原:ピエール中野さんコラボモデルは、これまでTWSのみを出されていましたが、最近のコラボモデル『WE-BD21d-pnk』はセミワイヤレスです。なぜ突然セミワイヤレスを作られたのでしょう。
岩崎:音声SNSのClubhouseが流行り始めたときに中野さんから連絡があり、「マイク性能の良いイヤホンはないの?」と聞かれたことが出発点です。
TWSは構造上マイクが口元から遠くなってしまいますが、セミワイヤレスにすればケーブルのリモコン部分にマイクを置けるので、口元に近づけることができます。テレワークやゲーム用のヘッドセットとしても使えるものが作れるのではと考え、開発を手がけることにしました。
既存モデルである『WE-BD21d』派生モデルとして作ることを中野さんに提案すると、「それならマイクとリモコンを変えてほしい」とリクエストがありました。「タッチノイズ軽減のためケーブルの被膜を変えよう」「OFCケーブルを使おう」など、セミワイヤレスに変化することでも中野さんはさまざまな意見を挙げてくださったので、それらを取り入れて設計しています。
生永:マイクの配置にもこだわっていて、日本人が使ったときに最も口元に近づけやすい長さを計算した設計になっています。マイクも新設計の高感度マイクで、『WE-BD21d』とは別モデルという程に、あらゆる所が変わっています。また、マグネットが付いているので使わないときは首にかけておくことができ、テレワークにも適した製品です。
岩崎:中野さんからは予想外のリクエストをいただくことが多いですが、中野さんはSNSをはじめとする市場の声をすごく読み込んでいらっしゃいます。だから、お客さまからのリクエストをもっとも知っておられる。中野さんのリクエストはお客さまのリクエストと同義だと考えています。
将来はヘルスケア分野のIoT製品を作りたい
折原:AVIOTが今後作りたい製品についてお聞かせください。
岩崎:私たちのブランド名であるAVIOTは、「Internet of Things」と「Audio Visual」の頭文字を組み合わせたものです。この名前にも思いが込められているのですが、将来的にはヘルスケア分野のIoT製品を作りたいと考えています。
イヤホンは耳の穴に入れるものですが、頭には人間の感覚機能の多くが集まっています。その事実と考えると、イヤホンはウェアラブルとして最も多くのデータを取得できる可能性を持つデバイスになりうるのではと思っています。
生永:ヘルスケアは目的ではなく自然に行き着く未来だと思っていて、人間の身体能力の拡張を目的とした製品の開発もすでに進めています。そのため長時間でも着けていられるようなフィッティング、自分をより美しく見せられるデザイン、聴き疲れのない音質など、可能限り身体にフィットするデバイスの開発にこれからも尽力していきます。