樋口楓が伝える、インターネットカルチャーの“ドキュメンタリー性” 多彩な活動をあらためて分析してみた
樋口楓を語るうえで、欠かせない要素が“音楽”だ。活動当初から彼女に注目が集まったのは「歌ってみた」動画がきっかけだったことは間違いない。多くの楽曲をカバーし、ファンメイドのイメージソングの数はにじさんじでも随一。デビューから約1年後となった2019年1月には、彼女が「絶対に大阪の会場でライブがやりたかった」と公言していたまさにその場所、Zepp Osaka Baysideにて『Kaede Higuchi 1st Live “KANA-DERO”』を開催するに至った。
このライブが生みだした影響は計り知れなかった。当時YouTubeチャンネル登録者数100万人以上を持っていたキズナアイが2018年12月にライブ公演をした会場で、1か月後にはデビューわずか1年の新人VTuberがライブを開催したのは当時としては異例のことであり、にじさんじにとっても本格的な音楽ライブを催すのは初めてだった。そのうえ、この時のライブを見聞きし、にじさんじのオーディションへ応募、戌亥とこ、雪城眞尋、メリッサ・キンレンカらが活動を開始するきっかけとなったといえば、その重大さがわかるだろうか。
2019年12月に〈Lantis(バンダイナムコアーツ)〉からアーティストデビューを発表。2020年3月にデビューシングルを、同年12月にはファーストアルバム『AIM』をそれぞれリリースし、今年7月から公開中のアニメ『100万の命の上に俺は立っている』第2シーズンのOPテーマ「Baddest」を歌い、自身初のアニメタイアップ楽曲となった。
「樋口楓を通じて、VTuberという存在を知ってもらいたい」
「二次元でも三次元でもないVTuberって存在だからこそ伝えられることってあると思ってるんです。キャラクターの姿をしていても、私たちにはそれぞれのパーソナリティがある」
いくつかのインタビューでこう答えている彼女。その人間味やリアリティは、配信のいたるところに見受けられる。2020年3月には「VTuberってどうやってお金稼いでるの?月収は?」というタイトルで、自身の年収ひいては「どのように稼いでいるのか?」という部分まで公開したのだ。これに留まらず、先に述べた雑談配信では「そこまでオープンに話すのか」という部分まで、赤裸々に語ることも数多い。
「VTuberは設定やキャラクターを演じている」という先入観を持たれがちだが、ゲームに夢中になって楽しくゲーム配信をし、時には丁寧かつ赤裸々に自分が感じていることや考えを届けようとする姿は、ファンタジーでもなければフェイクでもない。
樋口楓が示し続けているのは、動画配信だけに留まらず、インターネットのカルチャーはフィクションな描かれ方こそすれど、その実はノンフィクションのドキュメンタリーであるということ。だからこそ、彼女は明日もその先も、既存のネットカルチャー内から抜け出し、現実世界とも地続きな“次のステージ”を示し続けるのだろう。