「アカデミー賞のクソッたれ!」と叫ぶ映画監督による、“映画を越えたゲーム”はなぜ泣けるのか

“映画を越えたゲーム”を作る映画監督とは

ストーリーは単純でも、協力という過程が楽しめるゲーム

▲『It Takes Two』 画像は公式サイトより
▲『It Takes Two』 画像は公式サイトより

 2021年にリリースされた最新作『It Takes Two』も非常に評価が高い作品で、全世界でのセールスが200万本を突破している。はっきりいって、筆者は2021年のベストゲームになるのではないかと考えているほどである。

 『It Takes Two』は最初から最後まで“完全にふたりで遊ぶゲーム”だ。テレビの前で隣に座って遊ぶのが理想だが、インターネット越しにフレンドと遊ぶことも可能。本作の主人公は離婚寸前の夫婦なので、できればパートナーと遊ぶのがベストかもしれない。

 このゲームでは夫婦がなぜか人形になってしまうため、元に戻るため家中を冒険するといった内容になっている。どの場面でも必ず“協力”が必要になっており、これがポイントだ。たとえばあるステージでは片方が釘を、もう片方がトンカチを持っている。となれば、一方のプレイヤーが釘を木の板に投げつけて、もう片方のプレイヤーはトンカチでそれにひっかけて移動するなどして障害を乗り越えていくわけだ。

 つまり、ほとんどすべてに協力の要素が含まれており、愛を失った夫婦が共同作業を重ねるうちにふたりでいることの重要性を思い出すというゲームなのである。協力していく要素は盛りだくさん、シチュエーションや対戦できるミニゲームもすべて違うものが用意されており、約15時間のボリュームがあるのにまったく飽きさせない豪華な作りになっている。

 ただし、『It Takes Two』は『ブラザーズ : 2人の息子の物語』とは少し方向性が違う。後者はゲームデザインと物語が融合して感動を生むわけだが、前者は割とあっさりとしたストーリーになっている。しかし、夫婦で協力プレイを続けていると、現実にいるふたりのプレイヤーの絆も深まっていく作りになっているのだ。

『It Takes Two』 画像は公式サイトより
▲『It Takes Two』 画像は公式サイトより

 そもそも単純に、誰かと協力して何かを達成すれば距離が縮まるだろう。合唱でもスポーツでも仕事でも、協力すれば大きな力が出せるうえに達成感まである。そう、『It Takes Two』は楽しいゲームを遊んでいると、いつの間にか協力の喜びも得られる作品なのだ。

 まさしく、『It Takes Two』も映画では表現できない物語である。実際に手を動かして協力するからこそ、パートナーとの絆が深まる。ストーリーそのものは単純でそれだけでは泣きづらいが、ゲームの世界を見ているのに自分たちの過去を振り返りたくなるような感情が押し寄せてくる作品なのだ。

少なくとも「ゲームは映画にまったく劣っていない」

 『ブラザーズ : 2人の息子の物語』や『It Takes Two』を遊ぶと、ジョセフ・ファレスの過激な発言も納得できてしまう。ここまでの作品を出されたのならば、あれだけのことを言える自信があってもおかしくないと思えるのだ。

 もっとも、言い方というものがある。映画とゲームのどちらが優れているかなんてことを決めるのは不毛だろう。しかし、ゲームには可能性があり、進歩し続けているのも事実である。少なくともゲームは軽んじられていいものではなく、もはや映画と肩を並べるほどの優れた文化になっている。ジョセフ・ファレスの作品を遊ぶと、本当にそうだと実感できるのだ。

(表紙画像は『It Takes Two』公式サイトより)

■ライター:渡邉卓也
いわゆるテレビゲームを専門に記事を書くライター。インサイド、IGN JAPANなどのゲームメディア、現代ビジネスや文春オンラインでもゲーム関連の記事を執筆。
Twitter:@SSSSSDM

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