“VRDJのパイオニア”GRIMECRAFTが語る、バーチャル・クラブ×NFTの好相性と可能性
VRDJのパイオニアであるGRIMECRAFTが4月3日にVRChatで行われたGRIME CANYONのデビュー・ショー「SPOILER ROOM」に出演したアーティストのために、非代替性トークンのNFTで「MEMORY CARD 001」をオークションを出品。
MEMORYCARDシリーズに入札したファンは、各バーチャルショーの価値を決定し、アーティストを直接サポートできるというものだ。
落札者には、VRChat上で自分のアバターに追加することもできるデジタルコレクションとセットになったバーチャルコンサートの録音データ、デジタルポスター、VRChat内でプライベートなバーチャル会場を自由に探索できるアクセスキーなどの特典が用意された。今回はGRIME CANYONの運営者であり、VRDJのパイオニア・GRIMECRAFTと、某レコード会社で海外アライアンスを担当するほか、音楽ディレクター業務を行なっており、今回のコーディネーターを務めたHiroki Ueda氏にインタビューを行なった。(Jun Fukunaga)
音楽における“VRChatシーン”の活況
ーーまずは、音楽における“VRChatシーン”を、GRIMECRAFTさんの視点から解説いただいてもよろしいでしょうか。
GRIMECRAFT:みんながそれぞれアバターだったり、ワールドだったり自分が表現したいもの自由に作っています。その意味では初期のインターネットに通じるものがありますね。音楽シーンで言えば、2010年代初頭のSoundCloudみたいな感じかもしれません。すごくお互いに助け合っている感じがしますし、本当に良いコミュニティが出来上がっていると思います。
Hiroki Ueda:コミュニティの点でいうと日本でもたくさんのクラブが作られており、毎日のようにイベントが開催されています。DJ DAIFUKUさんの「Club Magenta」や0b4k3さんの「GHOSTCLUB」、xiriyaさん主催の「MONDAY_RELIEF」などは国外からもたくさんの方が遊びに来ています。4月に開催された「VRChat Developer Stream」では、VRChat内での日本人比率は3.6%にもかかわらず、日本サーバー実装が発表され話題になりました。これはVRDJコミュニティのみならず日本でのVRchatの盛り上がりがよくわかるニュースだと思います。
ーーVRChatの中のクラブにはどのような魅力があるのでしょうか。
GRIMECRAFT:VRChatの魅力のひとつとして、リアルのクラブと違った体験ができるということが挙げられます。自分たちでワールドをデザインできるので、実際のクラブと違った体験ができるんです。あと何より魅力的なのがその空間の中で起きていることに立ち会える点ですね。それとみんながアバターを使っていることもあって、リアルと比べて壁が少ない感じがします。
例えば、リアルのクラブだとセキュリティがいるので、アーティストと話したくても難しいのですが、VRChatのクラブだとそういうことはありません。みんなが気軽にアーティストに話しかけにいっています。それとまだ比較的に新しいサービスで、ユーザーが少ないこともあって、あまり変な人もいないというかリテラシーが高いユーザーが多い印象があります。
ユーザー自体もみんなでVRChatのクラブを良くしていこうというスタンスだし、なによりアーティストに対してリスペクトもがあります。だから、遊びに来るユーザーとの関係もすごく良いですね。
Hiroki Ueda:あと他の魅力のひとつとしては、先ほども触れましたが海外の人たちと有機的なコミュニティの形成ができる点ですね。自分も最初に行ったクラブはオーストラリアのVelatixが運営する「Club Loner」でしたが、各国のクラブに色々な国の人たちが毎日行き来しているのはとても面白い現象だと思いますし、そこは世界共通言語であるクラブミュージックの素晴らしいさならではだと思います。
その他にも最近ではMUST DIE!,MUZZなどの有名DJをブッキングしている2TONEDISCOの「Shelter」が有名です。それと常にエッジの効いたイベント、アーティストとしてのブランディングを確立しているOM3の「HOM3」も信じられないクオリティです。
時差の関係などはありますが、アーティストが気楽に海外のイベントに出演できるだけでなく、海外ツアーを行うハードルも低く、時間と場所に縛られずにアーティストが活動できるのもVRの大きな魅力だと思います。
ーー「GRIME CANYON」にはどうすれば遊びにいけるのでしょうか?
GRIMECRAFT:VRChatのワールドには、プライベートや友達のみが入れるものなど色々なものがあります。その中でGRIME CANYONは、プライベート設定になっているので遊びに行きたい人はまず、VRChatに登録してもらう必要があります。その次に僕にVRChatのフレンドリクエストを送ってもらうとイベントに参加できるようになります。それとこれはWindowsに限った話ですが、フレンドリクエストを送ってもらっていれば、VRChatのデスクトップモードのリンクからもアクセスすることができます。
ーー招待制にしているのはなぜなのでしょうか?
GRIMECRAFT:GRIME CANYONは、友人のネットワークを大事にしていることもあって、招待制にしています。
ーーVRChatのクラブではリアルのクラブで見られるようなその場の熱気を再現するためにどのような工夫をされているのでしょうか?
GRIMECRAFT:クラブのスペースデザインにはすごく力を入れています。GRIME CANYONではリアルのクラブと同じようにダンスミュージックを聴いてダンスするフロアがまずありますが、他にも友達と会話したり、遊び回れるようなスペースも設けています。
それとGRIME CANYONではBOILER ROOMのようにDJブースがあって、その後ろに観客がいる"SPOILER ROOM"という形式にしています。その形だとDJと観客の距離が物理的にも近いため、VR空間の中でお互いに話しかけることもできます。そのような形で同じ空間で起こっていることをそこにいる人全員できっちりシェアできることを意識しています。
ーーGRIME CANYONでは宇宙のような現実ではありえないバーチャルならではの要素を取り入れる一方、演出面ではリアルのクラブで見られるような要素も取り入れています。なぜ、リアルの要素も取り入れることにされたのでしょうか?
GRIMECRAFT:リアルのクラブでも見られるレーザーやスモークのような演出を取り入れることで、"クラブに遊びに来た"ことを意識してもらいたいと思っています。そのように意識してもらえれば、その体験が遊びに来た人の記憶に残るはずです。そのような理由からGRIME CANYONではリアルのクラブに則した部分も大事にしています。
ーー元々エンジニアとのことですが、GRIME CANYONはどのような設計思想になっているのでしょうか?
GRIMECRAFT:元々ゲームのデベロッパーとして、空間デザインをやっていたことはGRIME CANYONの設計にすごく大きな影響を与えています。ワールド内にはダンスフロアとは違う別のスペースもいくつかありますが、最終的には遊びに来た人がダンスフロアに帰ってこられるような導線を考えた上でデザインしています。
ーーDJとして活動されていますが、その経験もGRIME CANYONを設計する上では活かされているのでしょうか?
GRIMECRAFT:リアルのクラブでDJをする時に友達がブースの後ろにいて、僕がプレイした曲でみんなで盛り上がるのが好きなので、さっきの話にも出てきた「SPOILER ROOM」は、そういった個人的なDJとしての経験を活かした上で設計したものです。
ーーVRChatは無料同時参加型のオンラインVR SNSですが、マネタイズについてはどのようにお考えですか?
GRIMECRAFT:VRChatは、無料ということもあって多くの人が集まりやすいため、そこに集まった人にNFTオークションに参加してもらうことで収益を生み出し、それをアーティストに分配することを考えていました。それとDJ配信では投げ銭機能がよく使われていますが、そういった方法は個人的にどこかアーティストが過小評価されている気がしなくもありません。だから、何かそれに変わるものを考える必要があると思っていました。今回、NFTとVRChatを組み合わせたマネタイズ方法を導入してみましたが、こういった方法は今後、アーティストにとって、マネタイズ方法の選択肢のひとつになっていくと思います。
NFTに関してですが、ブロックチェーンを使ったスマートコントラクトによるロイヤリティの支払いシステムは、DJやアーティストにとってはすごく魅力的です。それとデジタルアートだけでなく今回のGRIME CANYONのNFTのように、VRのクラブ経験も含め、どんな形のメディアパッケージでもマネタイズできるのは大きなポイントですね。あと二次販売市場でリセールした時にもそこでまた価値が生まれて、転売による収益がアーティストに還元されるようにできる仕組みにも魅力を感じています。