『New ポケモンスナップ』は、なぜ「不自由なゲームシステム」を継承しても高評価を得たのか? その意義を考察する

『New ポケモンスナップ』好調の理由を考察

 2021年4月30日に発売されたNintendo Switch用ソフト『New ポケモンスナップ』が、セールス、ユーザーの評価ともに好調だ。

【公式】『New ポケモンスナップ』PV “ようこそ!レンティル地方”篇

 本作は1999年発売のNINTENDO64用ソフト『ポケモンスナップ』の、22年越しの続編にあたる作品。ゲームシステムも、前作のものを踏襲している。

 プレイヤーは「ネオワン号」という乗り物に乗って、決められたルートをスタート地点からゴール地点までゆっくりと自動的に移動していく。その中で、周囲に広がるフィールドにいる野生のポケモンたちを、カメラで写真に収めていくことになるのだ。

 基本的に、ポケモンがより大きく、正面を向いた状態で、中央に収められているほど写真の評価は高くなる。また写真は捉えた瞬間の希少性によってポケモンごとに星1つ~4つのうちのどれかにカテゴライズされ、コンプリートするにはこの4パターンすべてを撮影しなければならない。そのために食べ物を投げたり、音楽を鳴らしたりしてポケモンの珍しい行動を引き出すというのがちょっとした謎解き要素としても機能しており、狙った反応や予想外の反応を写真に収めたときの喜びはひとしおだ。


 『ポケットモンスター』シリーズ本編では、ポケモンは捕獲対象であり、捕まえたあとは育てたり、戦わせたりする、ある種の主従関係が成立していた。対して『ポケモンスナップ』シリーズは、野生のポケモンの生態を調べるために、必要以上に介入することなくその行動を記録する、という意味付けがなされている。

 この「野生のポケモンの生態を調べるため、彼らの行動を写真に収める」というのが『ポケモンスナップ』シリーズの根幹をなす設定なのだ。

 そう考えてみると、ひとつの疑問が生じる。それは、上記の設定を引き継いでさえいれば、『New ポケモンスナップ』は前作のゲームシステムをまるごと踏襲する必要はなかったのではないか? ということだ。

 いまの時代、自由に広大なフィールドを走り回れるゲームはたくさんあるし、そうしたゲームの多くに「フォトモード」と呼ばれる、通常プレイでは撮影が難しいスクリーンショットを自由に撮影できるモードすら備わっている。

 ハード性能の制約もあって不自由なものにせざるを得なかったであろう前作のゲームシステムを踏襲することなく、『New ポケモンスナップ』もオープンワールドなどの自由な探索の中で撮影を楽しむゲームにすることだってできたのではないだろうか?

 ファンに前作の懐かしい体験に近いものを提供したいという意図は大きいと思う。けれど、本作に対するユーザーの高評価は、懐古的な感情だけで説明が付くものではないように感じられる。現に筆者も、前作は友人が所持していたものを数回遊んだ程度で、シリーズにそこまで強い愛着があるわけではないにも関わらず、本作を夢中で楽しんでいるのだ。

“レールシューター”のストイックさを誰もが楽しめる形式へと換骨奪胎

 本作のシステムの特徴を既存のゲームジャンルに当てはめるならば、“レールシューター”と呼ばれるものの一種になるだろう。“レールシューター”とは、定められたルートを半ば自動的に移動して、その中で遭遇する敵を銃撃などで仕留めていき、生き残りを目指したり、ハイスコアを追求するというゲームジャンルだ。

 ゲームセンターでプレイできる『タイムクライシス』シリーズや『ザ・ハウス・オブ・ザ・デッド』シリーズなどの流れを汲む作品群や、近年の家庭用ゲーム機向けのタイトルならば『ぎゃる☆がん』シリーズなどを想像してもらえば分かり易いことと思う。

 『ポケモンスナップ』シリーズは「銃の引き金を引く」のではなく「カメラのシャッターを押す」、「敵の弱点を射貫く」のではなく「より良い1枚を撮る」といった違いはあれど、“レールシューター”というジャンルの特徴を継承していると言える。

 このジャンルの魅力のひとつには、繰り返しプレイして行動を最適化、より良いプレイを目指すという遊びが、移動ルートが決まっているからこそ純度の高いものとなっている点が挙げられるだろう。ちなみにこれは2Dのシューティングゲームなどにも同様のことが言える。

 しかしこの遊びはとかくストイックで玄人向けなものになりがちだ。1ステージ、あるいは1ゲームを通してのハイスコアを意識しはじめると、常に集中力を切らさずプレイする必要があり、ひとたび最適なパターンの再現をミスすれば、そこまでの頑張りが水の泡になることもある。そうした徒労感すらも乗り越えて、自分の限界を超えて行くことに喜びを見い出せる人のための遊びであることは否めない。

 同時に、ハードルが高いからこそ目標を達成したときの喜びは大きい、魅力的な遊び方とも言える。それは自由な楽しみ方が推奨されるオープンワールドなどのゲームでは再現するのが難しいものだろう。

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