『ファミリージョッキー』から『ウマ娘 プリティーダービー』まで――“ウマのゲームミュージック史”を振り返る

『ウマ娘 プリティーダービー』

 Cygamesから2021年2月にスマートフォン版、3月にPC版が配信された『ウマ娘 プリティーダービー』は、耳と尻尾の生えた、人間とは少しだけ異なる種族「ウマ娘」(実在の競走馬をモチーフとした擬人化)の育成シミュレーションゲーム。2016年に始動したクロスメディアコンテンツ「ウマ娘プロジェクト」のゲームとして当初は2018年冬の配信を予定していたが、クオリティ向上のためさらに3年の開発期間を費やし、満を持してのリリースとなった。音楽はCygamesのサウンドプロデューサーである本田晃弘と内田哲也を中心とするチームのもとに緻密に制作されている。ゲーム内BGM全体をプロデュースする本田はコナミデジタルエンタテインメント在籍時代に『メタルギア』シリーズや『ZONE OF THE ENDERS』シリーズなどの音楽制作、BEMANIシリーズへの楽曲提供(Dr.Honda、Dp.Honda名義)を手がけ、ヴォーカル曲全体をプロデュースする内田はバンダイナムコゲームス在籍時代に『ビューティフル塊魂』などの音楽制作や、『アイドルマスター』シリーズのサウンドプロデュースを手がけた経歴を持つ。ゲームアプリ開発の長期化とクオリティ向上にともない、本田は一度制作したBGMをほぼすべて作り直し、並々ならぬ熱意を注ぎ込んだ。カントリー、アイリッシュ、フュージョン、シンフォニックの要素が散りばめられ、前半と後半で2曲に分かれた構成を持つ各レースBGMのしなやかさや力強さにも要注目だ。サントラの発売にも期待したい。

 アニメ版の主題歌・挿入歌や劇伴・ファンファーレ、キャラクターソングのインストアレンジも数多くゲーム内BGMに使用されており、クロスメディアコンテンツの強みもフルに活かされている。ちなみに、アニメ版の劇伴を手がけるUTAMARO movementのサウンドプロデュースを務める岩代太郎は世界的な作曲家として知られているが、1996年にアニメ『みどりのマキバオー』の劇伴を手がけ、2010年にはJRAの本馬場入場曲を作曲を手がけるなど、以前よりウマとの縁が深い。また、ファンファーレの作編曲は元バンダイナムコゲームスの高田龍一(『鉄拳』『ソウルキャリバー』シリーズなど)と小林啓樹(『エースコンバット』シリーズなど)が手がけている。

『プリンセスコネクト!Re:Dive』楽曲はなぜ充実?サウンドプロデューサー本田晃弘に聞く【Real Sound|2018年9月26日掲載】
https://realsound.jp/2018/09/post-255740.html

ゲーム『ウマ娘』で制作済みの音楽をほぼ全曲作り直すことになった理由とは? まるで”ウマ娘2″を作るように──「うまぴょい伝説」から始まった楽曲制作5年間の歩み【ニコニコニュースORIGINAL|2021年3月12日掲載】
https://originalnews.nico/300674

umamusume WINNING LIVE 01
umamusume WINNING LIVE 01

 2021年3月にリリースされた『WINNING LIVE 01』は、ゲーム中のヴォーカル曲(レース後に行われる「ウイニングライブ」で歌われる楽曲)を収録したアルバム第1弾。「ウマ娘」プロジェクト全体を象徴する楽曲でもある「うまぴょい伝説」(作詞・作編曲:本田晃弘)は、電波ソングのオーダーを受けた本田が、数多ある電波ソングを聴き込んで研究し、ワインを2本空けてパンツ一丁で作曲したという衝撃のエピソードも語り草となった。ヴォーカルの掛け合いやめまぐるしい転調を盛り込み、コミックソングや電波ソングのエッセンスをこれでもかと振りまきつつ、ストレートなメロディとメッセージを伝えるBメロやサビで爽やかな感動を呼び起こす。絶妙なバランスに唸らされるウルトラハッピーな一曲だ。

 その「うまぴょい伝説」の正統進化を意識して作られたゲーム版メインテーマ「GIRLS' LEGEND U」(作詞:五十嵐萌[Cygames]/作曲:本田晃弘/編曲:東大路憲太)は、華やかなホーンセクションとストリングス、川口千里のパワフルなドラムが楽曲を牽引していく。畳みかけるような歌詞もエモーショナルなアンセムだ。アニメソングやアイドル/声優ソングを数多く手がけるPOPHOLICのクリエイター陣(山口朗彦・濱田幹浩・永井正道・うらん)による「NEXT FRONTIER」「本能スピード」「はじまりのSignal」もツボを心得た仕上がり。抜群の疾走感を誇るアッパーチューン「本能スピード」(作詞:うらん/作曲:濱田幹浩)では、AJURIKA(遠山明孝/元バンダイナムコゲームス)が編曲とミキシングを手がけ、得意のトランシーなアレンジをフルスロットルで炸裂させている。

■糸田 屯(いとだ・とん)
ライター/ゲーム音楽ディガー。執筆参加『ゲーム音楽ディスクガイド Diggin' In The Discs』『ゲーム音楽ディスクガイド2 Diggin' Beyond The Discs』(ele-king books)、『新蒸気波要点ガイド ヴェイパーウェイヴ・アーカイブス2009-2019』『ニューエイジ・ミュージック・ディスクガイド』(DU BOOKS)。「ミステリマガジン」(早川書房)にてコラム「ミステリ・ディスク道を往く」連載中。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる