“ゲームのサブスク”の勝者はマイクロソフトに? 「Xbox Game Pass」好調の要因を考える

“ゲームのサブスク”の勝者はマイクロソフトに?

 今やNetflixやSpotifyといったサービスは完全に地位を確立し、業界や我々の生活において当たり前の存在となっている。では、映画や音楽のように、ビデオゲームにおいてもサブスクリプション型のサービスが定着する日が来るのだろうか?

 少なくとも日本ではそもそも大部分のサービスが国内展開されていないため、今ひとつ実感しづらい部分があるが、海外ではGoogleの「Stadia」やAmazonの「Amazon Luna」といったサービスが続々とローンチされ、まさに大企業同士によるシェア争いが繰り広げられている。

 この中で一際目立つ成長を見せているのがマイクロソフトによる「Xbox Game Pass」だ。2017年にローンチされたこのサービスは現在急激にシェアを拡大しており、2020年4月には約1,000万人という契約者数から、1年後の2021年4月には2倍以上となる約2,300万人という規模にまで人気を拡大している(*1)。

 この人気の要因として挙げられるのは、「ダウンロード / ストリーミングのどちらでもゲームを遊ぶことが可能」、「家庭用機(Xbox) / PC / スマートフォン と様々な環境で利用可能」、そして何より「会員料金を払う価値のある充実したソフトラインナップ」の3点だろう。他のサブスクリプション型のサービスでも一部の特徴を持ったものはあるが、全てを満たしているのは現状ではこのサービスしか存在しないと言っていい。

 特にソフトラインナップの充実度については競合他社を圧倒している。マイクロソフトのファースト・パーティタイトルとなる『Minecraft』や『Halo: The Master Chief Collection』、『The Elder Scrolls V: Skyrim』に『DOOM Eternal』といった作品は勿論のこと、『Grand Theft Auto V』(*)や『ARK: Survival Evolved』に『Among Us』(**)といった人気のマルチプレイ作品も揃っており、最近では『NieR:Automata』や『ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて S』、『龍が如くシリーズ』(なんと最新作以外の全ナンバリング作品が揃っている)といった日本発のタイトルも充実してきている。また、2020年末にはElectronic Artsによる定額制サービス「EA Play」と合流し、同社が提供する『FIFA』や『Need for Speed』、『Battlefield』といった人気シリーズもそのまま遊べるようになった。筆者個人としては『Hollow Knight』や『Celeste』、『Enter the Gungeon』に『Undertale』といった良質なインディータイトルが充実していることも強調しておきたい。

 最近では非Xboxユーザ側からも本サービスが注目を集めるようになってきたが、その背景にはラインナップの充実度に加えて、マイクロソフト側が「発売日同時配信」を強く推し進めるようになったことが挙げられる。このような定額制サービスは、例えば映画のように「作品がリリースされてから数ヶ月後に定額制サービスで配信する」という流れが定番のパターンとなるわけだが、マイクロソフトの場合は全てのファースト・パーティ作品について発売日と同時にXbox Game Passでの配信を実施するという方針を定めている。そのため、近作としては『Ori and the Will of the Wisps』や『Microsoft Flight Simulator』(**)といったタイトルが発売日と同時にXbox Game Passでも遊ぶことが出来るようになっていた。

 そして最近ではサード・パーティが手掛けた作品についてもこの「発売日同時配信」を実現するようになっており、3月には『OUTRIDERS』(*)、4月には『MLB The Show 21』(*)といったタイトルが発売日と同時に配信されている。特に『MLB The Show 21』については(ライセンス元であるMLBの意向とはいえ)本来は競合であるはずのソニーのファースト・パーティ作品であることから大きな話題となった。ソニーが提供するサブスクリプション型サービスである「PS Now」では現在も同作は配信されておらず、ソニーとマイクロソフトの方針の違いが如実に表れた出来事だったとも言えるだろう。

 非加入者がフルプライスで作品を予約して購入する一方で、サービス加入者は(フルプライスよりも遥かに安い金額の)月額料金のみで作品を楽しめることから、Xbox Game Passは非Xboxユーザからも大きな関心を寄せるようになったのである。

コンテンツを制作する側の利益はどうなるのか?

 一方で、サブスクリプション型サービスとなるとどうしても気になるのが、開発者側の利益である。音楽業界では様々なアーティストがSpotifyなどのストリーミング・サービスにおけるロイヤリティの少なさに対して苦言を呈しており、これがゲーム業界にも当てはまるのであれば、それはあまり喜ばしいことではない。

 だが、少なくとも現時点では、意外にもXbox Game Passに対して開発者側から肯定的な意見を聞くことができる。

 『DiRT 5』などの開発で知られるCodemasters社のジョナサン・バニー氏はXbox Game Passに対して「ゲームの寿命を延ばし、そのゲームを必ずしも購入しないプレイヤーを呼び込むことができる手段だと捉えている。今まで知らなかったゲームや、聞いたことはあっても60ドルも出せないようなゲームを発見するきっかけになる」と前向きに語り、ラインナップへの提供が米国市場における成功や全体的な売上の増加に繋がったことも認めている(*2)。

 また、『Hypnospace Outlaw』や『Yes, Your Grace』などの尖った作品を手掛けるパブリッシャーであるNo More Robots社のマイク・ローズ氏は初めてXbox Game Passに『Descenders』を提供した際にこれまでにないほどの記録的な成功を実現できたことを語っている(*3)。サービスに登録したことで作品が埋もれず多くの人々がプレイして話題となり、結果としてサービスに加入していない人も作品を手に取るようになるという流れが生まれていたのだ。また、同氏はマイクロソフトとの契約についても言及しており、その公平さについても称賛を贈っている。

 多くの場合、Xbox Game Passに契約する際には、まずその契約料が前払い金として支払われる。さらに、ゲームのダウンロード回数やプレイ時間に応じて、ボーナスが加算されるという仕組みになっている。Spotifyなどのサービスと大きく異なる点はこの前払い金の存在にあり、制作サイドは遊ばれないことで利益が入らないことを恐れる必要がなく、むしろ契約料をゲーム開発の資金に充てることができるのだ。

 また、今やゲームの利益はソフト単体だけではない。追加コンテンツを収録したDLCや、コスメティックアイテムなどの有料コンテンツによる利益も莫大だ。Xbox Game Passの場合、基本的に配信されるのはソフト単体のみであり、有料コンテンツについては別途購入が必要となるため、まずは大量のユーザを確保し、これらの課金によって利益を得るというパターンも大いにあり得るだろう。

 そして重要なのは(少なくとも現時点では)Xbox Game Passのラインナップは極めて流動的ということだ。現状、毎月10本近くの作品が追加されているが、同じくらいの数の作品がラインナップから外れていく。もし続けて遊びたい場合は割引料金で作品を購入することができるようになっており、配信されているからといって完全に購入機会が失われるというわけではない。また、これはラインナップ全体をユーザが把握できる程度の量(200~300本程度)となっているため、大作以外の作品が埋もれてしまう危険性を回避することにも寄与している。

 少なくとも現状では、Xbox Game Passはフェアな契約を行っており、開発者側は作品が多くの人々の目に触れるきっかけを手に入れ、実際に利益を生んでいるようだ。その背景にはマイクロソフトという巨大企業であるが故の膨大な資産があるだろうが、少なくとも現時点ではそれはポジティブな方向に機能しているようである。

 とはいえ、例えばビデオゲーム業界においてサブスクリプション型モデルが完全に主流となる日が来た時、同じように楽観的にいられるかと考えると、断定することはできないだろう。ソニーのジム・ライアン氏が次のように語っている。「私たちは新作タイトルをサブスクリプション型モデルにする道を歩むつもりはありません。これらのゲームの開発には、何百万ドル、あるいは1億ドル以上もの費用がかかっているのです。私たちは、それが持続可能だとは思いません」(*4)

 今のXbox Game Passは、まだユーザを獲得してサービス自体を市場に定着させる段階にあり、だからこそ開発者側にとってメリットの大きい状態となっている可能性も高い。とはいえ、少なくとも現時点で将来的な可能性を否定するのは時期尚早であると言っても良いのかもしれない。

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