話題の“文明が滅んだ世界”描く2分間動画はどのようにして作られた? リモートフィルムコンテストGP『viewers:1』制作陣に聞く

『viewers:1』制作陣インタビュー

 昨今話題となるものはTwitter、Instagram、TikTokなどのSNSの拡散によって生まれるといっても過言ではない。そんなバイラルヒットコンテンツを作り出したクリエイターに話を聞く連載企画「Viral Hit Creator」がスタートする。(編集部)

 先日、『viewers:1』という約2分の短編映像がSNSで話題となった。

グランプリ作品『viewers:1』「リモートフィルムコンテスト」【GEMSTONE】 第6回

 ぐっちゃんと名乗る青年が元気に動画を配信している。どうやら文明が滅んでいるようだ。誰が見ているかもわからない世界で延々と配信を続ける姿を捉えたこの作品は、わずか2分ながら驚くべきスケール感とエモーショナルな結末を届けてくれる作品だ。

 本作は、東宝とALPHABOATによる才能発掘プロジェクト「GEMSTONE(ジェムストーン)」第6弾企画「リモートフィルムコンテスト」のグランプリを受賞した。


 この短編を制作したのは、映像ディレクター小林洋介氏と編集者の針谷大吾氏の2人。彼らのこれまでのキャリアや制作秘話など、バズ動画の裏側について話を聞いた。(杉本穂高)

大学時代からSFアクションを自主製作していた

――これまでお2人はどんな仕事をされてきたのですか。

小林洋介(以下、小林):僕は普段、CMやウェブ動画などの映像ディレクターをやっています。元々制作をやっていましたが、一昨年ぐらいから専業のディレクターになりました。針谷さんとは編集のお仕事をお願いしつつ、自主製作を一緒に作ったりしています。

針谷大吾(以下、針谷):僕は主にバラエティなどのテレビ番組の編集の仕事をしています。

――お2人は共同で「Brain Online Video Award(BOVA)」で受賞した『スカイツリーの惑星』や『博士と助手 瞬間移動装置編』などの作品を制作されていますね。

小林:その2つは趣味で作った自主製作です。

東武タワースカイツリー「スカイツリーの惑星」
博士と助手 瞬間移動装置編

――2本とも『viewers:1』と同じく橋口勇輝さんが主演していますね。みなさん、同じ大学の映像サークルだとお聞きしています。

針谷:僕の2学年下に(小林)洋介くんがいて、さらに2つ下に橋口くんがいました。

――大学時代から自主製作を一緒に作っていたのですか。


針谷:そうですね。大学の頃に一緒にやっていて、その後お互いプロで仕事をしていたら、2015年に洋介くんが監督した『MUSIC』(浜端ヨウヘイ)というMVをやることになったんです。それから2人でちょくちょく作品を作るようになりました。

――大学時代はどんな自主映画を作っていたのですか。

針谷:長編のSFアクションでした。

小林:当時の早稲田の自主映画界隈では結構話題になりましたよね。ガッツリ2時間ある長編を針谷さんは1年半くらいかけて作ったんです。高崎の廃工場とかに撮影の手伝いに行きましたね。

――自主映画で長編SFはすごいですね。『viewers:1』も、『スカイツリーの惑星』や『博士と助手』の作品もどれも発想が大胆というか、SF的な内容ですよね。

小林:僕らは放っておくとSFの話ばっかり考えてます(笑)。せっかく自主製作なので、仕事ではできないネタをやりたかったんです。

香川はSF的な町?

――『viewers:1』はやはり低予算で作っているんですよね。

針谷:衣装は洋介くんのものだよね。眼鏡を買ったくらい?

小林:予算はかかってないですね。眼鏡を割りたかったので、眼鏡は買いました。後は移動代ぐらいでしょうか。ちなみに、主人公が海で釣りあげるアンドロイドの手みたいなものは、針谷さんの大学時代の自主映画で使ったものです。昔の資産は活用しています。3本脚のロボットの鳴き声みたいな音は『スカイツリーの惑星』の時に使わなかったものを再利用しています。

針谷:何度も引っ越してるのに意外と物持ちが良い(笑)。実景も友人に頼んで香川で撮ってもらったものを送ってもらったので、実質コストはあんまりかかってないです。

小林:でも、針谷さんの稼働を計算に入れたら結構かかっていると言えるかもしれません。ずっと合成やってましたもんね。

――あのロボットは3DCGかと思っていたんですけど、違うそうですね。


小林:3Dでモデリングするようなことは僕らはできないので、引きの画で見せるから写真のコラージュでいけるだろうと、切り絵アニメみたいな感じでその辺にあるものを組み合わせて作りました。イメージ的には『ハウルの動く城』みたいな感じですね。パーツごとにバラバラに動くような。

――実質の制作期間はどれくらいだったのですか。

小林:企画を考え始めたのは10月に入ってからです。橋口くんの撮影は1日で、香川の素材撮りは脚本書いている段階から動いてもらうようにお願いしていました。

針谷:元々の締切が10月末日で、橋口くんの撮影が10月18日でした。締切に合わせて一度仕上げたんですが、締切が一カ月延びたので、その期間で合成の精度を上げていきました。

――合成のパートはロボット、基地局ドローン、それから一部の背景ですか。

針谷:最初の方であの街に行ってみようと思いますと言っているカットの、奥に映っている廃墟の街は全て合成です。

小林:あれは実際にはただの森です。針谷さんが10日間ほど苦しんでるなと思っていたら、あの画が上がってきたのでびっくりしましたね。あと機械の手に汚しを入れたりなど、地味な修正もしています。

針谷:そうですね。最後の携帯の画面を割ってみたりとか。その携帯を持っている人の手も合成です。撮影の時にはあそこに人はいません。

――本当の廃墟も映っていますよね。

針谷:橋口くんが映ってない映像はほぼ香川です。なぜ香川かというと、僕らと同じ映画サークルの友人が香川にいるんですが、以前一緒に香川の変な風景を見て回ろうと旅行したんです。その時の記憶があって、香川の風景を活かしたいというとこから企画が始まった面もあるんです。

小林:作中に出てくる草木の生えたアーケード商店街も、あれは普通に今も稼働している商店街で別に廃墟ではないんです。普通にSFチックに見えてすごいなと思いました。

小林:ちょっと言いにくいですが、香川はSF的に良い感じに年を重ねている街ですね(笑)。住んでいる方からすればあまりいいことではないでしょうけど。

――痩せた野良犬がワンカット登場しますが、あれも香川ですか。

小林:あれは、僕が台湾で仕事に行った時に偶然撮ったものです。台湾には野良犬がやたら多かったんです。今の日本には野良犬ってあまりいないじゃないですか。日本の日常にはない感じが出るので、使ってみました。

――あの犬の痩せぐあいがすごくリアルで、あのワンカットで文明が滅んだ感じが一気にリアルに感じられました。ところで、文明が滅んだ世界に設定したのは何か理由があるのですか。

小林:文明崩壊は低予算の味方ですから(笑)。ただ、なんでこのネタにしたのかというのは、僕が『渚にて(スタンリー・クレイマー監督)』を観たからというのもあります。

――『渚にて』は北半球は滅んでいるけど、南半球はまだ無事という設定ですね。

小林:そうですね。オーストラリアで普通に生活しているけど、いつ滅ぶかわからないという状況で日常が続いているんです。今回も『渚にて』くらいのフワっとした感じに終わるかなと思っていたんですけど、意外とエモーショナルな結末になりました。それが結果的に良かったと思います。

――今回の作品作りにあたって『渚にて』以外にも影響を受けた作品はありますか。

小林:数えきれないくらい影響は受けています。例えば、スウェーデンのシモン・ストーレンハーグというイラストレーターの『エレクトリック・ステイト』という本があるんですけど、日常の中にやばい機械がいるみたいなイメージのイラストがすごく格好いいんです。終末世界の静かな風景という点で『オブリビオン』とか、それから『宇宙戦争』のイメージも入っていると思います。短い作品なので、ある程度多くの人が持っているイメージを借りないと伝わらないだろうと思っていました。

針谷:他にもギャレス・エドワーズの『モンスターズ』とか。

小林:あと、主人公の割れている眼鏡はマイケル・ダグラスの『フォーリング・ダウン』のイメージだったりします。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる