劇団ノーミーツ×HKT48が切り拓く“アイドルとリモート演劇、それぞれの新たな可能性” 『劇はじ』旗揚げ公演を見て

劇団ノーミーツ×HKT48『劇はじ』旗揚げ公演を見て

 劇団ノーミーツがサポートし、HKT48のメンバーが企画、プロデュースや脚本、演出等すべてを担うオンライン演劇プロジェクト『HKT48、劇団はじめます。』(通称:#劇はじ)の」旗揚げ公演が、2月20日に開幕した(2月28日千穐楽)。

 アイドルグループが舞台演劇にアプローチしながら、パフォーマーとしての選択肢を広げていく事例は数多くある。その中で『#劇はじ』のユニークさは、演者のみならず制作・技術スタッフまで、各役割をことごとくHKT48メンバーが担当する点にあるだろう。

 そして、この試みにうかがえるきわめて今日的な特徴は、2020年春に誕生し特有のインパクトを示した「劇団ノーミーツ」に監修を託している点である。

 あらためて振り返れば、劇団ノーミーツのブレイクは、新型コロナウィルスの存在が広く認知され、急速に感染拡大を始めた一年前の社会状況と不可分だった。

 昨春、社会全体が生活スタイルを根本から変える必要に迫られるなかで、ライブ型エンターテインメントとしての性格を強く持つ演劇や音楽などのジャンルは、アウトプットの場を一気に失い、自らの存在意義を揺るがされた。ライブハウスや劇場を使用する目処も立たない環境下で、代替の策として増えていったのが、過去のコンサートや舞台公演をインターネット配信することだった。

 そして、同時に模索されたのが、新作をどのようにアウトプットしていくか、すなわち現在形のエンターテインメントとして、各ジャンルの灯をいかにつないでいくかであった。

 演劇において早くから試みられたのは、Web会議アプリ『Zoom』の活用である。近藤芳正や吉田羊らが参加し、三谷幸喜の初期代表作のリーディング配信を行なった『12人の優しい日本人を読む会』(2020年5月6日)では、キャストを遠隔で繋ぎながらも、登場人物たちが空間を共有しているような、演劇が本来的に持っている見立ての想像力を、新鮮な形で喚起させた。

 一方、三浦直之率いるロロや根本宗子らがそれぞれ4~5月頃に連続的に行なったオンライン演劇では、人々がリモートでコミュニケーションしているメディア環境それ自体を、あらかじめ物語の前提として作劇していた。そこではすでに、リモート通話への入退室やPC上のディスプレイの性格など、昨春以降によく見られるようになった風景を内包した会話劇が展開される。クリエイターたちは、世界を覆った非常事態に即応しながら、自らの存在意義と可能性を模索していった。

 そして、この系譜をさらに貫徹させたスタイルで注目を集めたのが、劇団ノーミーツだった。

 フルリモートによって制作された旗揚げ公演『門外不出モラトリアム』(2020年5月23、24、31日)は、リモートを介したコミュニケーションを生きる2020年春の空気感を捉えた上で、それらの環境下でいかに希望を託しうるかを体現し話題を呼ぶ。とりわけ、平素の演劇シーンとは異なる層にビビッドな反応を呼び起こし、一種独特の立ち位置で存在感を得ていった。

 この特異な波及の仕方は、新型コロナウィルスをめぐる認識や展望が現在よりも遥かに不透明で手探りだった、2020年春の絶望感と密接に関わっている。有観客のライブや舞台公演のみならず、ドラマなど映像メディアさえ通常の制作を進めることが難しく、人と人とが交差することへの困難が社会を覆うなかで、劇団ノーミーツは新鮮な驚きをもって迎えられた。それは個別ジャンル内のトピックというよりは、コロナ禍におけるエンターテインメント全般に思いがけない角度で可能性をみせるものだったといえよう。

 ひとくちにコロナ禍といっても、感染状況も社会の規範も刻々と変わってゆく。昨春に我々を覆っていた緊迫感を仔細に思い起こすことは、すでにして困難である。だからこそ、劇団ノーミーツが見せたインパクトや希望のありかは、細かな時代状況とともに記録されねばならない。

 一方、状況が短いスパンで変わっていくからこそ、劇団ノーミーツの存在意義も当時と同一ではありえない。テレビドラマ等がコロナウィルス拡大以降の世相を採り入れた作品を制作し、すでにライブ会場や劇場も有観客での稼働を始めた今日、リモート画面を主体にするタイプのオンライン演劇の役割は、かつてとは異なる。

 他方で、ライブや演劇のオンライン配信が身近になったことで、パフォーミングアート全体にとっての配信の意義が、あらためて認知された側面もあるはずだ。この点で、オンライン演劇に特化した模索を続ける劇団ノーミーツにはさらなる期待がかかる。2月前半にサンリオピューロランドとコラボし上演されたオンライン演劇『VIVA LA VALENTINE』などの企画は、同劇団がこれから担う役割の一端を垣間見せた。

 そしてHKT48とのコラボとなる今回の『#劇はじ』も、劇団ノーミーツが長期的なブランドを築く上での蓄積のひとつといえるだろう。

 今回企画された2本の作品『不本意アンロック』『水色アルタイル』はいずれも、リモート画面主体のオンライン演劇を志向している。先述のように、各種エンタメにおいて対面でのものづくりが再開している現在、Web会議アプリ画面を前提にした表現形式は、絶対的な選択肢ではない。しかし、『不本意アンロック』ではリモートコミュニケーションがより社会に浸透したと思われる未来との関わりを、『水色アルタイル』ではリモート授業が行なわれる2021年現在の学校をそれぞれ物語の軸に置いたことで、リモート画面であることがごくナチュラルに必然性を持った。

 これら二者のストーリーからは、表現手法としてリモートで繋ぐことの面白さ以上に、2020年代初頭という時代のリアリティを描くための舞台設定として、〈リモート画面のある日常〉という道具立てが機能していることがみえてくる。もちろん、劇団ノーミーツの元々の武器であるリモート画面を駆使することで、HKT48が同劇団とコラボしていることがトレードマーク的に示される効果もあるはずだ。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる