『news zero』制作陣に聞く、ネット生番組『Update the world』に込めた思い 「ニュースを“じぶんごと”にするきっかけに」

 毎週月曜日から金曜日の深夜に生放送されているニュース番組『news zero』(日本テレビ系)が、配信分野への本格参入を発表した。月1回のネット「生」番組『Update the world』が1月31日よりスタートする。

 当番組は「社会と一人ひとりの価値観のアップデート」を行うべく、多彩な出演者が繰り広げる本音トークを通じて、やさしい社会のヒントを、日本と世界のこれからを創る「未来世代」の視聴者と一緒に探していくというもの。「コンダクター=旗振り役」には、『news zero』水曜パートナーである辻愛沙子を起用する。国連が提案する2030年に向けた世界の羅針盤『SDGs 17の提言』を手がかりに、身近な現代社会の課題をとりあげていくという内容だ。

 今回は『news zero』統括プロデューサーである日本テレビの井上幸昌氏と、『Update the world』企画・演出を手掛ける同社の白川大介氏にインタビューを実施。番組立ち上げの経緯、制作の裏側や、ニュース番組がネット進出するうえで気をつけた点などについて話を聞いた。(編集部)

井上幸昌(写真左)
1997年入社。政治部記者、政治部本社キャップ、『news zero』『news every.』のデスク、『zero×選挙』の総合演出を経て2016年末からはワシントン支局長に就任。2019年末より『news zero』のプロデューサーを務めている。

白川大介(写真右)
2004年入社。バラエティー番組、情報番組、ドキュメンタリー番組などを経て、2017年に報道局へ。社会部記者時代にゲイであることをカミングアウトし、LGBT当事者取材などを行う。2018年より『news zero』プロデューサーとしてカルチャー分野を主に担当、『Update the world』では企画・演出を手掛けている。第1回目では当事者・解説として出演予定。

『Update the world』で、ニュースを「じぶんごと」にする手助けをしたい

ーー初の試みとなるネット配信番組『Update the world』の立ち上げは、いつ頃から計画されていたんですか?

井上幸昌(以下、井上):昨年の夏頃ですね。若い世代がテレビから、特にニュース番組から離れていて、元から見ない世代も増えてきたことに危機感がありました。なんとか『news zero』と接してもらう機会を作りたい、というところから『Update the world』の企画がはじまりました。

ーー昨年の夏頃と言うと、緊急事態宣言が解除されたタイミングですね。新型コロナウイルスの感染拡大に伴う社会の変化も、番組を始める契機の一つだったのでしょうか。

井上:直接的ではありませんが、当然影響も受けています。リモートワークの普及によって在宅率が上がり、視聴者の生活サイクルが変わったことで、日中のニュースが以前よりも見てもらえるようになった一方、23時台にはテレビから離れる人が増えたんです。こういった人たちに、もう一度テレビに戻ってきてもらうためのアプローチの一つでもあります。

ーー番組の内容を検討する上で、どんなことを重視しましたか?

白川大介(以下、白川):若い方がテレビを見なくなっている中で、そういう人たちと繋がる場を作ることを意識しました。なぜ見ないかを考えると、ニュースを「じぶんごと」として捉えられないからなんじゃないかと思うんです。自分の暮らしや将来にどう関係してくるのか、実感が持てていない。そういう人たちに、自分の将来に関わってくることだという感覚を持ってほしかった、というのもあります。

 若い世代の人たちって、自分たちの価値観と、それより上の世代や社会との差に対して、もやもやした気持ちを抱えているんじゃないかと思うんです。その違和感を解消するアイデアとして、トーク型のコンテンツだったら興味を持ってもらえるのではないかと考えました。

 たとえば、初回のテーマであるLGBTQに関して言えば、「ある自治体に新たな制度がつくられた」というニュースをお伝えした時、それを見た人が、LGBTQについて周りの人と話したり、自分で調べてみたりと自発的に行動をとるなど、番組が「ニュースで伝えられている出来事」を「じぶんごと」にできるきっかけになればと思っています。

ーー自分がニュースとなっている出来事の当事者ではない場合、どうしても自分ごととして捉えにくいですよね。

白川:そうなんです。当事者じゃない方は、ニュースを見ても「ふーん」で終わってしまうこともあるので。

 番組『Update the world』の制作をするにあたって心がけていることは、見ている人全員が「じぶんごと」と感じられるようなテーマやきっかけを提示することです。たとえば初回放送では、LGBTQについて考える入り口として「初対面の人に『彼氏・彼女いるの?』って聞いてませんか?」というテーマで話すのですが、これだと当事者でない人も「じぶんごと」として捉えることができますよね。「もしかしたら誰かを傷つけたりする質問かもしれないので、話し合って価値観をアップデートしていこう」という趣旨なので、単に「LGBTQについて勉強しましょう」と言われるよりも身近に感じられると思います。

ーー『Update the world』を設計するにあたって、影響を受けた番組やコンテンツはありますか?

白川:近いジャンルのものはあまり参考にしないようにしていて、インターネットコンテンツ全体を逆の意味で参考にした部分はありますね。

 インターネットの世界で流通しているコンテンツって、僕らが目指す「みんなにとってやさしい世界」のコンセプトの逆をいく、分断を深めるためにあえて投入されたものもあるなと感じることが多くて。過激な内容がある程度コントロールされている地上波テレビよりも、分断を深めるようなコンテンツも多く、ずっと刺激的な世界だと感じます。

 『zero』がネットの世界に出ていくからには、コンテンツそれ自体もやさしい社会を実現するコンセプトに沿ったものでありたいと思っています。多くの人に見てもらうために悪い意味で刺激的なものにしないようにという意味で、反面教師的に参考としました。

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