『グノーシア』:「多重化したインタラクション」に見るアドベンチャーゲームの新たな形
インタラクション Lv.99:物語
『グノーシア』の物語は、「人狼ゲーム」の結果によって変化する。したがってプレイヤーが体験できるイベントの数は「人狼ゲーム」の展開の数によって変化するが、その数は計り知れない。
というのも、ループが発生するたびに参加人数と役職は増えていき、最終的に人数は15人、役職の数は8種類にも及ぶ。その組み合わせは、ターン数も含めるとまさに無数に存在する。
例えば「主人公が乗員(一般の人狼ゲームでいう「村人」)、SQがグノーシアとして二人が生き残った場合」「主人公がエンジニア(いわゆる「占い師」)、セツが乗員として生き残った場合」「主人公がグノーシア、SQがエンジニアとして生き残った場合」……といった組み合わせを、15人のキャラクターと8種の役職の分だけ考えていけば、その数の膨大さに驚くだろう。
もちろんすべての組み合わせに固有のイベントが用意されているわけではなく、メインシナリオをクリアするのに体験しなければならない組み合わせは、全体の一部に過ぎない。しかし、もし仮に「すべての会話パターンを体験したい」という狂気じみたコレクター欲を満たしたいのであれば、それこそ何百回・何千回と「人狼ゲーム」をループしなければならないだろう。作中のキャラクターたちと同じように。
そこまでやり込むプレイヤーはさすがにいないだろうが(いるかもしれないが)、いずれにしろメインシナリオをクリアするにはある程度のパターンを体験しなければならない。
つまり、一般的なアドベンチャーゲームにおいて物語を完成させるには、プレイヤーは複数の選択肢から特定のルートを「選ぶ」だけでいい。まさに「ボタンを押す」だけでいいのだ。
ところが『グノーシア』において特定のルートを「選ぶ」には、「人狼ゲーム」を攻略しなければならない。一つのルートを選択する前に、「人狼ゲーム」のインタラクションが挟まるわけだ。しかし、当然「人狼ゲーム」の展開をすべてコントロールするには実力だけではどうにもならないところがあり、往々にして失敗する。
「じゃあループしてもう一回挑戦しよう」と繰り返し遊んでいるうちに、気がつけば自分も「人狼ゲーム」の「ループ」に巻き込まれている……、そんな中毒性の高い作品だ。そしてそのプレイヤーのループ体験自体が、『グノーシア』のメインシナリオそのものである。
ループする物語から抜け出すために、ループする「人狼ゲーム」をプレイせずにはいられないのである。
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まとめるとこういうことになる。『グノーシア』のプレイヤーは、物語を進めるために「人狼ゲーム」を攻略する必要があり、「人狼ゲーム」の攻略のためにRPG的なキャラクターの育成を行う。
すなわち短期的には「人狼ゲーム」自体のインタラクションを楽しみ、中期的な「育成」によって人狼ゲームの展開を操作できる範囲を拡大する。そしてそのことが長期的な「物語」として返ってくる。
このような「インタラクションの多重構造」を、『グノーシア』はアドベンチャーゲームの枠内で示すことに成功した。「ボタンを押すと反応する」。その快楽が洪水のように押し寄せてくる傑作である。
参考書籍:さやわか『僕たちのゲーム史』(星海社新書、2012)
■徳田要太
フリー(ほぼゲーム)ライター。『スマブラ』ではクロム使いで日課はカラオケ。NiziUのリク推し。Twitter