『グノーシア』:「多重化したインタラクション」に見るアドベンチャーゲームの新たな形

 ビデオゲームの本質は「ボタンを押すと反応すること」にある(さやわか『僕たちのゲーム史』より)。要するに、インタラクション(相互作用)があるということだ。

 一見当たり前すぎて何も言っていないように思えるかもしれない。しかし、映画やアニメと違って、ゲームはプレイヤーが操作しなければ作動しないメディアであるという意味において、的を得た定義である。

 このインタラクションという視点から、『グノーシア』という傑作を紹介したい。2019年にPlayStation Vita専用ソフトとして発売され、先月(2020年12月)にはNintenndo Switch用にパッケージ版が発売された、「SF人狼系シミュレーションアドベンチャー」である(不思議なジャンル名の由来は、本文を読み進めていくうちに理解していただけるのではないかと思う)。

 物語は、主人公(=プレイヤー)がとある宇宙船で目を覚ます場面から始まる。そこで、五人の搭乗員のうち一人が「グノーシア」(人間を消滅させる謎の生命体)に感染していることが知らされる。このグノーシアが誰なのかを「人狼ゲーム」の要領で議論して突き止める、というのが大まかな設定だ。

 ところが、初回の議論でグノーシアが誰なのかを特定すると、人数と役職が少し変更された状態で再び「人狼ゲーム」が始まる。つまり、初めて「人狼ゲーム」を行ったときまで時間が巻き戻っているのだ。そして(初回とは異なる)新たに感染したグノーシアを特定すると、再び「人狼ゲーム」が始まる……、というように、何度も時間がループしていくのだ(このときループの記憶を引き継いでいるのは主人公と、そのパートナー的存在のセツだけである)。

 このループの謎を、「人狼ゲーム」を通じた会話の中で探っていくというのが、本作の主題だ。「なぜ時間がループするのか?」「誰がグノーシアなのか?」「なぜループした記憶を引き継げるのは自分とセツだけなのか?」という問いを議論の中で特定するのだ。このように「人狼ゲームを攻略するための情報」と「ループを攻略するための情報」を、駆け引きに満ちた議論の中で探っていく、多重化した構造が特徴的な作品である。

 そしてゲームを進めていく中で、プレイヤーは様々な「インタラクション」を体験する。3段階に分けて解説しよう。

インタラクション Lv.1:人狼ゲーム

 本作は、あえて一言でジャンル分けすれば「アドベンチャーゲーム」だ。アドベンチャーゲームとはテキストを中心として物語が進み、選択肢によって分岐するシナリオを体験するジャンルである。分岐の結果は物語として現れるので、ある程度時間をかけてジックリ楽しむ作品群だ(一般に「アクションアドベンチャー」と類される作品群は、今回は除外する)。

 ところが「アドベンチャーゲーム」に「人狼ゲーム」が合わさるといささか事情は変わってくる。プレイヤーの選択結果は、シナリオの分岐を待たずとも人狼ゲームの結果としてすぐに現れるからだ。

 これはいわば、(テキストの)インタラクションが強化されたアドベンチャーゲームである。一般的なアドベンチャーゲームでは、プレイヤーは単に選択肢から一つの行動を選び、その結果として現れる物語を黙って待つほかない。しかし、『グノーシア』においては会話のほとんどが人狼ゲームとして進行するため、プレイヤーの選択によって作中の展開は目まぐるしく変わる。

 例えば「○○を疑う」「××を弁護する」といった選択を取れば、その結果は人狼ゲームの展開として瞬時に現れる。そして選択によって変化した会話内容から、ループの謎を解き明かすヒントとなり得るものを探ることで、物語を進めていくというわけだ。

 さらにいえば、「グノーシアが誰なのかはとりあえず度外視して、このキャラクターから情報を引き出したいから贔屓して弁護しておこう」といった極端な選択を取ることも可能だ(というより、そうしなければ物語を進められない場面がある)。

 例えばSQという女性キャラクター(パッケージに描かれている女の子だ)と主人公が、ある特定の条件下で「人狼ゲーム」の最後の二人になるまで生き残ると、ちょっとした恋愛イベントのようなものが発生する。そしてそこでしか得られない情報をもとに、ループの謎の真相へと近づいていくのだ。

 こうして人狼ゲームのインタラクションに夢中になっているうちに、プレイヤーは知らず知らずのうちに物語に引き込まれていってしまうのである。

インタラクション Lv.2:RPG

 本作には一部RPGの要素も組み込まれていて、一度「人狼ゲーム」が終了すると主人公には経験値が与えられる。そして経験値を「カリスマ」「ロジカル」「かわいげ」といったパラメータに振り分けることで、様々な能力が手に入る。

 例えば「カリスマ」を高めれば、主人公の意見に他のキャラクターを同調させやすくなったり、「かわいげ」を高めれば他のキャラクターに協力をお願いできるようになったり、自分が疑われた際に「哀しむ」ことで他のキャラクターからかばってもらいやすくなったりする。

 このように、RPGにおける主人公を好みのスキル・性格を持つキャラクターに育成するのと同じような楽しみ方ができるわけだ。

 そして、手に入れた能力が「人狼ゲーム」の展開を左右する。例えば先ほど挙げたSQとのイベントにしても、「自分の他に特定のキャラクターを生き残らせる」には、ある程度「人狼ゲーム」の展開をプレイヤーがコントロールしなければならない。

 そのためには「カリスマ」を高めて発言力を強化したり、「ロジック」を高めて、会話内容から論理的に考えると確実に正体を特定できる相手を指摘したり、といった行動が必要だ。

 このように、RPG的に主人公の能力値を高めていくことで「人狼ゲーム」の展開を支配していく。本作におけるRPG要素は、いわば「人狼ゲームのインタラクションに影響を与えるインタラクション」である。

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