デジタルシフトやTikTokの流行で変化する「盛りの技術」 久保友香と考える“シンデレラテクノロジー”の現在と未来

変化する「盛り」のテクノロジー

若い人たちはバーチャル空間で「複数の自己を持つこと」が当たり前

ーー“動画を盛る”文化が今後大きくスケールするとして、具体的にはどういうものになるのでしょう?

久保:「シーン盛り」から、「ライフスタイル盛り」になってくるのではないかと思います。コロナの自粛もあって、どこかインスタ映えする場所を見つけてそこに行くのではなく、家の中の生活や、モーニングルーティーン、模様替えなどの様子を撮影するようになりましたよね。TikTokの動画もそうですが、家の中を映すことが当たり前になるなかで、どういう生活をしているか、どんなインテリアがあるのか、さらにはどんなライフスタイル哲学を持っているかのようなことまで気にする人が増えてくるというか。

ーーなるほど。ほかに著書を拝読していてテクノロジーの観点から面白いと思ったのは、「盛れすぎの坂」という概念です。盛ることを大事にはしつつ「人間として気持ち悪く見えないかどうか」というピークポイントを超えないからこそ、人間の加工のままでいられるという考え方は、バーチャルヒューマンにおける「不気味の谷」ともリンクしていて面白いなと思いました。

久保:その言葉を意識して付けた名前なので、そう思ってもらえて嬉しいです。バーチャルの話でいえば、次というよりもう少し先に定着する概念かもしれませんが、「バーチャル・ビジュアルアイデンティティ」の3D化という流れも見逃せません。コロナ禍で『あつまれ どうぶつの森』などのゲームが流行り、人はバーチャルにおいても、3次元空間の中でのコミュニケーションに慣れていきました。ゲームではなくても、VR Chatなどの3D空間で会議をする会社なども出てきています。

――デジタル上のアバターを、自分の姿に近づけることで「バーチャル・ビジュアルアイデンティティ」を形成する、ということでしょうか。

久保:今のところ、3Dに関してはアニメ調のものが多いですが、人間に近い写実的なアバターを小規模なスタジオでも作れるようになってきていたり、海外でもそういった分野の論文が多く出てくるようになったので、みなさんのスマホ一台で簡単に自分の写実的な3Dのバーチャル・ビジュアルアイデンティティを作ることができる未来は、そう遠くないと思います。

 女の子は新しい技術をすぐに取り入れますが、とはいえ、自分を写実的に表現したアバターを欲しがるかというと、少し疑問ではあります。私が教えている学生さんたちにアンケートをとってみたことがあるのですが、ほとんどの子は「ある程度別人にはなりたいけど、なりすぎたくない」と答えていました。なかには「自分にそっくりだけど、ちょっと目が大きいとか、足が長いならいい」という子もいましたね。

ーーそのアンケート結果は面白いですね。

久保:そこから考えてみたんですが、若い人たちはTwitterのアカウントを何個も持つようにバーチャル空間で「複数の自己を持つこと」が当たり前なので、写実的でちょっと盛れているアバターと、自分の姿とはかけ離れたアバターを兼用するように、デジタル上での複数の自己を持つことが前提になるのかもしれません。かつての渋谷のギャルも、ギャルのコミュニティに入りたいからギャルの恰好をしていたわけですから、自分の入りたいコミュニティごとにそれに合わせたアバターを持つ可能性もあります。

――表現したいものによって自己を変える、という考え方ですか。

久保:その考え方は、ここ数年でもっと強くなっていくかもしれません。古くから、親や先生が反対しても「自分はこれがいい」というスタイルをするファッションが、若い世代にとって自分らしさの発露としてありました。その中で盛りというサブカルチャーは、世間の「ありのままの自分を好きであるべきだ」という価値観へのカウンターのようなところがあると思うんです。かつてはリアル空間で若者は大人と戦っていましたが、ここ10年くらいは若者がバーチャル空間という大人にじゃまされない場を手に入れて、盛りも控えめになっていたんです。しかし、これからは、親や先生もバーチャル空間にいる世代になってきます。バーチャル空間での若者と大人の戦いの中で、“盛り”も再び加速するのかなと考えています。10年くらい前に「デカ目」が “盛り”のアイコンだったように、なにか奇抜なライフスタイルが“盛り”のアイコンとしてネット上に登場するかもしれません。

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