連載:クリス・ブロードの「ガイドブックに載ってない日本」(第0回)
連載:クリス・ブロードの「ガイドブックに載っていない日本」(第0回) 外国人YouTuberである僕が「日本人が見落としている日本の魅力」を伝えるためにできること
東北の片隅から、世界に向けて日本の魅力を発信し続けている外国人YouTuberがいる。国内外問わず多くのファンを抱え、チャンネル登録者数が200万人に迫る『Abroad in Japan』の運営者、クリス・ブロードだ。東日本大震災の直後、2012年に英国から来日し、8年余り。独自の視点で日本の姿を伝えながら、映像作家として飛躍してきたクリスが今回、リアルサウンドテックで連載『ガイドブックに載っていない日本』をスタートさせる。
コロナ禍により世界の状況が一変したなかで、彼はいまの日本をどう捉えているのか。本連載でどんなことを伝えたいのか。まずは読者に向けて、自己紹介とともに展望を語ってもらった。
“野心家”クリス、英語教師として日本へ
イギリスからやってきた、東北愛に溢れるクリス・ブロードです。私が来日したのは、2012年。山形県に英語教師として赴任しました。『Abroad in Japan』という、日本の魅力を海外に向けて発信する分野では最大級規模のYouTubeチャンネルを運営しており、現在は登録者192万人、総再生回数は約2億回に上ります。
自分を一言で表すなら“野心家”です。ジョークも沢山言いますが、基本的に真面目です(笑)。そして、常に死を意識しています。死を意識するなんて、ずいぶんとシニカルな感じもしますが、生きる上で時間が有限であるということを知るのは重要なことだと思っています。
ラテン語に「メメント・モリ」(「死を忘れるなかれ」の意)という言葉があります。50歳で生涯を終えるかもしれない、と考えると1日も無駄に過ごせる日はなくなるでしょう。今は映像作家として大きな期待も背負っていますし、将来的には起業も考えています。日本に来たのも、映像制作に勤しんでいるのも、時間の有限さに突き動かされてきた結果です。
福島への偏見をなくすために
『Abroad in Japan』は、外国人に向けて日本の知られざる魅力を伝えるYouTubeチャンネルです。YouTubeといえば若年層の視聴者が多いというイメージもあると思いますが、ターゲットは大人で、みなさんのリテラシーを信頼して、動画のなかでは乱暴な言葉も使っています。その頻度はかつてよりは減りましたが、伝えたい内容を印象付けるのに効果的なんです。もともとイギリス人はアメリカ人ほどFワードやSワードをタブー視しない傾向があり、アメリカ人には驚かれますね。
チャンネルでは、日本の魅力だけでなく、福島への偏見を少しでもなくそうと真剣なドキュメンタリーも作ってきました。私が英語教師として東北に配属されたというと、外国に住む友人が「東北といえば、震災があった福島だろ? 大丈夫なのか?」と言って心配してきました。しかし、私がこの目で見て、知っている福島は、美しく穏やかな場所です。危険な地域はほんの一部で、ほとんどが安全なのです。なので、福島のマイナスのイメージを払拭するために、福島の現状と、そこに住むあたたかい人々のことを伝えるドキュメンタリーを作りました。
『Abroad in Japan』は外国人向けと言いましたが、日本人にも見てもらえるように日本語のサブタイトルをつけた動画も配信しています。主に、旅や食べ物、場所に関する動画です。サブタイトルをつけていないものは、英国ならではの皮肉が飛び交うような作品です。ジョークや皮肉を日本語訳すると、あまりにも直接的すぎて人間性を疑われかねませんので、気になる方は覚悟してご覧ください(笑)。
日本人/外国人にそれぞれ伝えたいこと
これまで幾度となく、さまざまなメディアでインタビューを受けてきましたが、それは外国人向けがほとんどでした。日本の人たちは、日本に住む外国人が日本に対してどんな印象を持っているのか、どんな思いで過ごしているのか……ということに深い関心を寄せているようなので、日本に住んで8年、これまでに40の都道府県を訪れた私が、その経験を通して感じたことを日本の人たちに伝えられるのではないかと思い、連載を引き受けました。
動画と違い、視覚と聴覚に直接訴えることのできない文章では、想像力を駆使しながら伝えなくてはなりません。これまで200本以上動画を作ってきた経験から考えると、動画の方が得意なのは間違いありませんが、文章も好きです。動画と同じように、裏表なくありのままの自分を伝えていきたいと思っています。
また、この連載では日本に住む外国人のキャリアパスについても語っていきたいと思います。
もともとフィルムメーカーになりたかった外国人が日本に来て、日本人すら滅多に行かないような田舎に住んだ経験。そして、外国人英語教師として子どもたちに英語を教えたこと、日本を旅して感じたこと、日本のおすすめスポットや、YouTuberとして働くこと、YouTuberとしての生き方。また、2020東京オリンピックが開催延期とされたなかで、COVID-19(新型コロナウイルス)が日本に、また私の活動にどう影響を与えたのか、ということにも触れていきます。