山田裕貴が『頼田朝日の方程式。』で話題となった“怪演”のルーツ 過去作から見えてくる限界突破のカギは?

山田裕貴『頼田朝日の方程式。』限界突破の方程式は……?

 こうした姿勢は主演から脇役まで様々なポジションを演じる中で磨かれたものだろう。映画『ストロボ・エッジ』や『あゝ、荒野』では主人公のライバルとして存在感を放ち、『あの頃、君を追いかけた』では、齋藤飛鳥(乃木坂46)演じるヒロインに憧れる浩介の感情のほとばしりがストーリーを貫いていた。爪痕を残そうとして寒い演技をするのはありがちな失敗例だが、山田の場合、どんなに暴走しても悪目立ちせず、作品を壊すこともない。作品をよく咀嚼し血肉化している証拠だ。

 作品を深く理解することは、逆説的に、演者の自由度を広げる結果にもなる。ドラマに決定的な1ピースを加える山田の個性は、頼田朝日というキャラクターを得て過去最高に解き放たれた。生徒を裏から操り、数学教師の義澤(田中圭)を消そうとする副担任の朝日はラスボスと狂言回しを兼ねており、ルールを無視した超展開が売りの『せんけす』、『頼田朝日』は、朝日の暗い情念が全編を貫いている。一見、無軌道に狂っているようにも見えるが、アドリブを織り交ぜながら、ストーリー展開に合わせて狂気を出し入れしているのだ。

 田中が「気を使わずにぶつかり合いができる関係」(参考:田中圭が語る、『先生を消す方程式。』脚本家・鈴木おさむへの信頼 「僕にとって本当に貴重な人」)と話すように、同じ意識を共有する山田は主演俳優にとって心強いパートナー。毎話、膨大なセリフ量と格闘しながら、並外れた集中力で俳優としての限界を突破した『せんけす』、『頼田朝日』は山田の新たな代表作となった。

 2021年1月からは『ここは今から倫理です。』(NHK総合)で主役の高校教師・高柳役、また『青のSP―学校内警察・嶋田隆平―』(カンテレ・フジテレビ系)でメインキャストを張るなど、ようやく世間が山田に追いついてきた感がある。俳優として未踏の領域を開拓する山田裕貴。その名は作品とともに記憶に刻まれていくだろう。

■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。ブログTwitter

■『先生を消す方程式。』
https://abema.tv/video/title/87-388

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