『バーチャル渋谷』仕掛け人・KDDI“革新担当部長”三浦伊知郎が考える「エンタメ×通信会社の組織論」
渋谷区と組むことで生み出される“抑止力”
ーーこの先「渋谷5Gエンタメプロジェクト」で三浦さんが実行してみたいのはどんなことでしょうか?
三浦:「渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト」は、50社以上が集まるコンソーシアムで、KDDIはそこをリードさせてもらっています。そんな中で「バーチャル渋谷」がひとつのアウトプットになったので、今後はまた何か別の話題になるコンテンツを作ることが求められていると思っています。
個人的にはクラブミュージックが好きなこともあって、音楽周辺をどうやって巻き込んでいけるか、というところもまだまだ考えていきたいです。クラブミュージックは、言語がなくてもコミュニケーションができるし、学生の頃からバックパッカーで海外を回ってきましたが、言語は違えどどこの国のクラブに行っても音を聴いていれば大体同じことが起こっているので、当時からそれが面白いと感じていました。今はコロナ禍で断絶していますが、グローバル化やボーダレス化が叫ばれているのであれば、クラブミュージックがもう少しメインストリームになってもいいと思います。DJが電子音だけで人をアゲたり、喜ばしたりする雰囲気をユニバーサルに作るのってすごいじゃないですか。今後はこの部分をもっと深掘りしていきたいし、もしかしたらそこに次のチャレンジの発想が生まれるきっかけがあるのかもしれません。
DJカルチャーでは最初がレコード、次にCDJときて、今はラップトップというようにハードが変わっていくにつれ、DJのやり方も多様になっていきました。そういった視点からみても、「クラウド上に音源を置いておく」ことは5Gが関われる部分だし、そうなればDJは世界中どこからでもネット上から音源にアクセスすることができるようになるでしょうし、ロンドンのクラブイベントの音を同時に渋谷のクラブで聴けるなど、5G回線ならではの強みも出てくるはずです。渋谷にはクラブも沢山あるし、バーチャル渋谷自体がそもそもデジタル空間なので、クラブミュージックのような電子音楽と相性が悪いわけがない。だから、個人的にはそういった電子音楽文化の発展に貢献していきたいです。
ーー実際にすでにBeatportなどがDJ用のサブスクリプションサービスも開始しており、オンラインでサブスク音源を使う従来とは違うDJのやり方も浸透しつつあります。今後、5Gが普及すれば、そういった新しいDJのやり方も一気に普及するのでしょうか?
三浦:回線の安定と、あとは音圧や音質に関わるデータの容量面がクリアできれば、おそらくスマホを置いてクラブでDJをする、なんならスマートグラスでDJをするみたいな世界が実現するだろうし、そういうことになれば、渋谷らしい新しいカルチャーにもなっていくはずです。渋谷には元々、弾き語りがいたり、原宿のホコ天、渋谷系などストリートミュージックの歴史もあるので、そこにフォーカスしてもいいのですが、個人的には5Gでデジタルだというのであれば、そちらに注目した方が面白いんじゃないかと思っています。
ーー「バーチャル渋谷」は渋谷区公認のプラットフォームですが、今後、渋谷区と組んだ別のイベント開催予定はあるのでしょうか?
三浦:近々の話ですが、まず「バーチャルクリスマス」を計画しています。リアル世界でのクリスマスは街が活気付くし、それによって消費喚起を促します。ただ、リアルとバーチャルではっきり分かれていたら何の意味もないので、バーチャルの渋谷に行ったからこそ余計にリアルの渋谷に行きたくなる、という仕組みを考えています。
例えば、バーチャルにクーポンを置くことでリアルの街に人を呼び込むような仕組みを考えていくことは、今後の課題であると、同時にバーチャル渋谷にとってもそれが発展する伸び代になってくると考えています。
もうひとつは、バーチャル上に人が集まり出すとおそらく広告ビジネスが生まれるはずなので、そこをどうやって発展させていくかを考えています。それと人がコミュニケーションできる環境になるとおそらくSNS的な話が出てくるはず。それも今後の伸び代の部分ですね。
ーーハロウィーンフェスでもコメント機能を使って、リアルタイムでライブの感想を投稿することで自分の感想を他の参加者と共有する人がいたりと、SNS的な要素が見受けられました。
三浦:その辺りがもう少し無理なくできるようになったりすると、コミュニケーションツールとして浸透していくはずです。その一方でユーザーが安心して使うためにもまだ法整備が充分ではないので、そこはしっかりと整えていく必要があります。何かおかしなことが起きないように渋谷区とルール作りを進めていくのも、今後の課題だと捉えています。
ーールールメイキングに関しては、行政と一緒に取り組んでいることで、今後はそういった事例を区から都へシフトしていくことも考えられますね。
三浦:将来的にはこの事例を日本発で作って海外に持ち込むことも考えられます。でも、そうなってくるとおそらく「ルールはどうなっているんだっけ?」と言ってくる人もいるはず。例えば、バーチャル渋谷のようなものを一民間企業だけで勝手にやって色々動き出すと、行政からの制約がかかってくることも考えられます。渋谷区と一緒にやることはそういう制限への良い意味での抑止力になるし、「渋谷区と一緒にやっているのであれば参加してみよう」という流れも生まれてきます。そういったことは元々考えていたことなので、僕なりの戦略がハマった結果だと考えています。
ただ、「渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト」も結局、バーチャルだなんだと言っても人同士の繋がりが大切なんです。このプロジェクトに関しては渋谷未来デザインの長田( 新子)さんの尽力が非常に大きく、僕らと真剣に向き合ってくれた上での成果物だと思っていますし、僕らとしては人々が交わる機会を提供することが一番大切だと考えています。スマホがコミュニケーションのための“ツール”だとしたらバーチャルは“場”。そういう機会を増やすことによって、生身の人間と人間のコミュニケーションの価値を上げていきたいですね。
コミュニケーションは、仮にスマホを使ってデジタル上のやりとりをしていてもそこだけでは絶対に終わらないし、コロナ禍で会うことの価値が上がったのはすごく良いラーニングだと捉えています。結局、バーチャルの機会は僕らで増やすことはできますが、KDDIとしては本物のコミュニケーションの価値も同時に上げていく必要性があると考えているので、その課題を提起して場を作るところまではやりたいなと思っています。
ーーリアルの世界で人に会うという価値がコロナ禍でドライブされた部分はありますね。
三浦:会いたいけど会えない状況によって、人に会う一回の価値が上がっていくのは必然なので、僕らのような通信会社としては、それを後押ししていきたいですし、僕自身も人に会う価値を高めたくてこの会社に入社しているんですよ。
ーー働き方の面でいえば、最近KDDIが「ジョブ型人事制度」を導入したことも話題になりました。
三浦:結果的に、僕は雇用形態が「ジョブ型」の実験台的なところもあるので、なんとなく「ジョブ型」社員を今後、率いていく立場になっていく気がしています。だから、会社もどうせなら僕を使ってもっと色々実験してほしいと思っています。
一緒に働く人に僕自身の価値観を押し付けることはしませんが、プロジェクトにおける価値感を共有した上で一緒に進めていかないと上手くいかないので、そういう感覚が合う人と一緒にやっていきたいですね。これから「ジョブ型」を選択する社員はおそらくそういった考えの人でしょうし、今後はそういう人が集まってきて、制度が洗練されていくと思います。
ーー最後に、三浦さんは仕事に関する発想や取り組みも非常に柔軟な印象を受けましたが、そのスタンスのルーツはどんなところにあるとお考えですか?
三浦:バックパッカーで世界を見て回っていたことは、間違いなく影響しています。それと僕は自分で替えがきかない状況を毎回作って、その都度全力で生きているんですよ。そのうえ、暇な週末があれば、ふらっと旅行に行ってみたりと、何もしない時間があることをもったいないと思ってしまう人間なんです。
人生は一度きりだし、貪欲に色々なものを見ておきたいというのが根底にあるからこそ、仕事にしてもプライベートにしても「考えているだけでは何も始まらないから、まずはやってみる」ということを大切にしています。それで失敗してもいいやと思っているし、そういう失敗の中に成功のヒントもあるはずなので、とにかく何でもやってみるのは大事だと思います。
■イベント情報
『バーチャル渋谷 au 5G X’mas OPENING TALK SHOW』
日時:12月20日(日)17:00~ 18:00
参加方法:YouTubeLive(https://youtu.be/QvkUBK-W7X0)
12月20日〜25日まで渋谷区公認配信プラットフォーム「バーチャル渋谷」でクリスマスイベント「バーチャル渋谷 au 5G X’mas」を実施。自宅にいながらもクリスマスの思い出をつくれるよう“バーチャル渋谷からのクリスマスプレゼント”をコンセプトとした、本物のサンタクロースからのフィンランド行きチケットプレゼントや賛同企業約25社より集まった「渋谷からの贈り物」、NETFLIXオリジナルシリーズ『今際の国のアリス』、NHKとのコラボイベントなど盛りだくさん。
12月25日(金)21:00-22:30はFPM田中知之氏によるスペシャルなDJセット「Very Merry X'mas from FPM」をお届けします。また期間中は、バーチャル渋谷内の各所で幻想的なイルミネーションが点灯され、スクランブル交差点には高さ42.8mの大きなクリスマスツリーも登場します。
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