『ネトフリシネマinバーチャル渋谷』、バーチャル世界での現実の追体験が示す5G時代のエンタメの姿

『ネトフリシネマinバーチャル渋谷』の可能性

 渋谷区が推進する創造文化都市事業への貢献を目的とした『渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト』が新展開を迎えている。KDDI (au 5G)とNetflixが提携し、渋谷区公認の配信プラットフォーム「バーチャル渋谷」にて、新たな視聴体験を提供する『ネトフリシネマinバーチャル渋谷』が10月9日よりスタートした。

 『バーチャル渋谷』内で行われる“仮想のNetflix作品上映会”となった「ネトフリシネマ」では、10月28日までの間に毎週末、『日本沈没2020』、『バキ』、『アグレッシブ烈子』、『攻殻機動隊 SAC_2045』といったNetflixオリジナルアニメシリーズ4作品を上映。Netflix作品をバーチャル空間内で鑑賞できる珍しいイベントとなる。

 バーチャルイベントプラットフォーム『cluster』からアクセスできる『バーチャル渋谷』では、今年5月のオープン時にも『攻殻機動隊 SAC_2045』のトークセッションを実施。その際には、バーチャルの世界に現れた仮想の渋谷スクランブル交差点周辺にアバター化した作品のファンが集合し、白熱したトークセッションに耳を傾けたことも記憶に新しい。

 今回のイベントでは、現実の世界でもビジネスパートナーであるKDDIとNetflixがタッグを組んでいる。そのことから現在のエンタメ業界では、バーチャルの世界も重要なビジネスの市場になっているという印象を受ける。

 バーチャル空間での上映会は、オンラインゲーム『フォートナイト』内で、今年9月に日本でも公開された話題の映画『TENET』の予告編のプレミアや関連作品を上映する『Movie Nite』が行われるなど、バーチャル空間は新しいプロモーションの場として、大きな注目を集めている。

 また、コロナ禍においては、感染リスクがあるため現実世界で多くの人が集まるイベントの開催は難しい。しかし、こういった形であれば制限なくエンタメを楽しめるため、バーチャルイベントは、ウィズ・コロナ時代の新たなエンタメ体験の在り方として、急速に普及しつつある。

 今回の「ネトフリシネマ」は、そういった社会情勢を反映したエンタメイベントとしても注目に値する。しかし、実際に体験して感じたのは、「バーチャル世界で現実世界を追体験すること」に、大きな価値があるということだ。

 例えば、今回の「ネトフリシネマ」で上映される4作品は、Netflixを契約していれば、自宅で好きな時間に1人で鑑賞することができる。また「Teleparty」のようなサードパーティのアプリを使えば、自宅にいても友人同士で同じ作品を共有しながら視聴可能だ。これは利便性という面ではメリットと言える部分ではあるが、体験としてはあくまで自宅でできることの域をでない。

 しかし、同じように自宅にいながらでも体験できるネトフリシネマは、あらかじめ上映時間が決まっており、それにあわせて仮想の渋谷に向かうというユーザー側の行動が必須になってくる。またバーチャル渋谷に入った瞬間から上映会が始まるわけではなく、作品を観賞するには仮想のスクランブル交差点に設置されたスクリーンに向かう必要がある。そういった行動体験は、現実世界で映画を観賞する場合に起こる”映画館に向かい、シアタールームの扉を開き、席に着く”という一連の行動に通じるものであり、現実の追体験といえるものだ。

 現実の追体験ということであれば、友人と誘い合わせて、ネトフリシネマを観賞することもそれにあたるだろう。ネトフリシネマでは、VRワールドのリンクを友人と共有することで、同じ作品を観賞することができる。こういった同じ作品を共有しながら視聴することは先述の「Teleparty」でも可能だが、友人同士で時間を合わせて渋谷に出かけるという点で、ネトフリシネマはより現実に近い体験だと言える。

 現実世界と同じようにバーチャル渋谷で待ち合わせて、上映時間になったら一緒にスクリーン前に向かえば、バーチャルでありながらもユーザーはこれまでに自分が体験として知っている感覚を味わうことができる。そういった現実の追体験ができることは「Teleparty」にはないネトフリシネマならではの特徴だと言えるが、特にリアルの世界でも見慣れた場所である渋谷を忠実に再現したバーチャル渋谷であれば、より感情移入しやすくイマーシヴな体験になるはずだ。

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