『バーチャル渋谷』仕掛け人・KDDI“革新担当部長”三浦伊知郎が考える「エンタメ×通信会社の組織論」

『バーチャル渋谷』仕掛け人を直撃

「クリエイターと真剣に付き合っていくと、面白い結末が待っている」

ーー「渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト」では、テクノロジーをエンタメに活用することで街の一極集中化を避けて、渋谷を周遊させることにも取り組んできました。その中で「バーチャル渋谷 au 5G ハロウィーンフェス」では、コロナ禍で人が集まることを避けるという側面もありましたが、こういった街の発展において、バーチャルを駆使したエンタメは今後、どのように関わっていくことができるとお考えですか?

三浦:渋谷区がリアルのハロウィーンに来ないでほしい、と明確にメッセージを出していたこともあり、今回、僕らはバーチャル空間でハロウィーンを楽しめるコンテンツを作りました。でも、個人的にはバーチャルとリアルは分けるものではないし、どこかでこの2つが融合するタイミングが来るべきだと考えています。例えば、家でスマホをいじってバーチャル空間に入り、そこで何か疑似体験をやって、次はリアルに行くという流れのように、今後はリアルの渋谷の街とバーチャル空間にあるものがどうやったらシームレスに繋がるかを考えていく必要があります。

 コロナ禍収束後は、リアルとバーチャルがシームレスに重なることで世界が2層になり、例えば、自分が見ていた屋外広告がリアル以外にもバナー広告のような形で、スマートグラス上に表示されたりと、レイヤーが”2層”になったものが浸透していくはずです。渋谷区と組んだのはプロジェクトを通して、消費喚起させて街を活性化し、かつ文化を作るという文脈なので、そこは絶対に外したくない。そういったリアルとバーチャルをつなげるテクノロジーを作ったうえで、それを使ったクリエーターが自然発生的に出てくるのを面白がれる存在でありたいですね。

ハロウィン当日のバーチャル渋谷

ーー「バーチャル渋谷 au 5G ハロウィーンフェス」でいえば、それに近い発想が「DJ IN THE MIRROR WORLD」ですが、これはどういったことがきっかけで生まれた企画なのでしょうか?

三浦:僕がまず宇川さんにお願いしたのは、”バーチャル渋谷と世界が繋がるものをやりたい”ということでした。宇川さんにも面白がっていただいてスタートしたものの、準備段階では紆余曲折あり、開催まで時間がなくなってきたことで、僕自身は「バーチャル空間内でDJがプレイする動画を流しましょう」と提案しました。でも、宇川さんは「それだとバーチャルをやっている意味がないから、今からアバターを作る」と言い出し、本当に4体分作ったうえ、アバターを3Dキャプチャーで操作する専門家の方まで連れてきました。その結果、アバターのDJの後ろでその動きと連動したリアルのDJがプレイする映像が出来上がったんです。

 ただ、アバターができたからといって、すぐにああいった映像を世に出せるわけではなく、実際にはバーチャル空間を用意しないといけないので、裏ではヘビーな作業がありました。でも、KDDIの社員はそこはちゃんと理解していて、宇川さんがそこまで言ってくれるなら、という気持ちで頑張ったところもあります。バーチャルでやっている意味を問うためにあれだけのものを作ってくれたことで、あらためて宇川さんのようなクリエイターと真剣に向き合って取り組むことの意義を再確認しました。その意味では非常に大きなチャレンジでしたし、結果的にかなり画期的なものが出来上がったと自負しています。

ーーイベントの参加者もステージ前方だけでなく、脇のモニター越しにライブを見たり、リアルのフェスと同じように自分たちの好きな場所で見ることができたのが印象的で、そこに現実を追体験しているかのような感覚を覚えました。

三浦:あのイベントの最後には、ステージ上にいるDJのエレン・エイリアンのアバターが、宇川さんの指示で客席に降りて参加者と交流するという面白い場面もありました。エレン・エイリアン本人がアバター操作していたわけではありませんが、これを本人がリアルタイムでできるようになったらヤバいねって話も出てきたし、今回はできませんでしたが、アバターで会話ができるようになれば、海外にいるDJがスクランブル交差点で会話をしているようなことも、バーチャルの世界の中で実現します。次はそういったことにも挑戦したいし、どこまで技術的に実現できるかわかりませんが、近い将来、アバターでモノに触る感覚も実現させたいです。

ーーバーチャル空間内での触覚に関しても今後、テレイグジスタンスのテクノロジーが発展していけば実現しそうで、そうなればまさに未来のエンタメを感じるものになりそうですね。

三浦:クリエイターと真剣に付き合っていくと面白い結末が待っていることを改めて実感しました。「DJ IN THE MIRROR WORLD」以外のライブでもKDDIの社員は全部ちゃんと現場に行っていますし、そういうところにもKDDIの「アーティストやクリエイターと一緒に良いものを作っていく姿勢」が表れていると思っています。

ーーこれまでにKDDIが『uP!!!』をはじめとしたライブイベントを実際にやってきたことも関係あるのでしょうか。

三浦:そうですね。モノを作る人の気持ちがわかっているメンバーが揃ったのが今の僕らのチームで、逆にいうとそういう人がいくつかの部署から寄り集まってきたという感じです。KDDIにはそういう人が集まっているのを良しとする風潮があって、僕としてもそこは良い部分だと思っていますし、言われたからやるのではなく、自分で仕事を取りに行く人が揃っているのも大きいです。良いモノを作ろうというマインドでやってたら、ハロウィーンフェスのようなことができたというのは、会社にとってもチームにとっても良い例ですね。

ーーチームは有志で集まって組み立てられたということなのでしょうか? 

三浦:いえ、タスクフォース的なもので、そこを僕がリードしているという感じです。KDDIには上司に言われたこと以外に「これは面白いのでやるべきだ」ということを社員が考えて集まることを良しとしているところがあるので、そこに僕みたいな異物を混入させたことでシナジーが生まれたんだろうなと。もし、そうでなければとっくにKDDIをやめていたと思いますし、その意味では居心地は良いです。

ーーそのほか、組織としてのKDDIの居心地の良さはどういったところにあるのでしょうか? 

三浦:やっぱり大きな会社なので、中にいても会社がどこを向いてるか、すぐにはわかりずらいのですが、今年4年目を迎えても僕のやることは否定されていないので、自分が向かっている方向は基本的に問題ないと思っています。それが最近になってわかってきたの、は1年目の頃との大きな違いですね。最初はやっぱり、「これがこの会社にとって正しい」に「?」が付いてしまうところがありましたが、今はそういうこともなく、会社の居心地もさらに良くなりました。

 1年目の時は「何をやるんだっけ?」から始まっていましたが、今の段階だとそれについては例えば、渋谷のことやバーチャルのこと、さらなるエンタメの進化だったり、やること自体は明確化されているので、後は「誰とやるか、どうやるか」にフォーカスすれば良いだけという感じです。ある程度の成果を出すと今度は「あの人がやってることは多分、会社にマッチしていることだから」と会社が援軍や資金を用意してくれたり、味方してくれるようなことも実際に起きている気がしています。

 それと、プロパー社員と違い、僕は「いつかこの会社からいなくなる」という立場だからこそ、人事的の出世ゲームでライバルにならないという点では、様々な部署の部長ともやりやすいところがあると思いますし「僕を使って実験すればいいんですよ」と彼らには言っています。

ーーそういう立ち位置だからこそ、先ほどの話に出たようなオルタナティヴな立ち位置での選択肢をとっていけるということですか。

三浦:KDDIに限らず、当然ですが結果を出せば会社に文句を言われません。ただ、結果を出すまでが難しかったり大変なだけ。でも、KDDIでの仕事で言えば、取り組んだことがメディアに取り上げられたり、世の中で話題になることが直近のゴールだったので、ある程度の結果は事実としてすでに出せたと思っています。

 でも、僕の場合は雇用の契約形態的に、巨大プロジェクトを動かす時に「失敗したらクビだ」と毎回覚悟を決めてやっているし、他の社員たちと覚悟の度合いはやっぱり違うと思っています。ハロウィーンフェスも「散々な結果だったら辞職する」というくらい腹を括ってやりました。だからこそ、プロパー社員の方々とは僕みたいな立場の人間を使うことで持ちつ持たれつの関係になっているなというのはありますね。

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