誰でも主人公になれる『ウォッチドッグス レギオン』は、大量告発に揺れるUbisoftの現在ともリンクする

『ウォッチドッグス レギオン』とUbisoftの現在

作り込みの不足を「妄想」で補う

 だが、「誰でも主人公になれる」ということは、裏を返せば「特定の主人公が存在しない=主人公の物語が存在しない」ということでもある。スカウトを通して集められたメンバーは、物語のきっかけとなる大事故を生き延びて現在は離れた場所に避難しているデッドセック・ロンドンのリーダーであるザビーネと、デッドセック・ロンドンが保有するAIのバグリー、そして様々な登場人物の指示に従って行動することになるが、これらの登場人物側の感情表現や言葉使い(特にブラックユーモア全開のバグリー)は魅力的ではあるものの、主人公側はどのキャラクターを選んだとしても、物語に沿った、ある程度決まったパターンの会話のみを行い、個々人で異なる感情の起伏や深いバックストーリーが描かれるということはない。各キャラクターに割り当てられた情報は、あくまで「情報」にすぎず、固有能力以外についてはゲームプレイへ与える影響は皆無である。また、物語においても、デッドセックが「寄せ集めの集団」と揶揄される場面こそあるものの、自分が集めたチームであることを意識するのはその程度であり、ゲームシステムや個々のメンバーを踏まえた物語が展開されるわけではない。カットシーンも全員共通のものとなっている。物語が取り上げる社会問題についても、あくまでテクノロジーが生み出すディストピアに終始しており、設定である「ブレクジット後のロンドン」を感じる場面すら殆どない。

 つまり、身も蓋もないことを言ってしまえば、本ゲームの戦闘要素を快適に進めたいのであれば、各NPCの人間性や個人情報は無視して「いかに魅力的な固有能力を持っているか」を注視してスカウトを進めた方が明らかに効率的だ。チーム編成が与える物語への影響はなく、かつミッション内容も過去作同様にほとんどが同じ要素の繰り返しとなるため、物語性を重視するプレイヤーであれば過去作と比較して、ストーリーが薄く、共感性のないものに感じてしまう可能性が非常に高い(過去2作の主人公が魅力的だっただけに、より一層そう感じる人が多いだろう)。さすがに全NPCに物語を割り当てるのは技術的にも相当厳しいものがあるというのは容易に想像できるため、やむを得ないところではあるが、折角このようなゲームシステムを作ったのだから、更に一歩踏み込んで、「誰にでも物語がある」というレベルまで作り上げてほしかったと思う。

 そこで、筆者個人としては、各キャラクターのバックグラウンドを「妄想」することで、その物足りなさを補うことでプレイを進めていた。アルビオンに潜入して重要データをハッキングする際には、前述のケイシーを筆頭にアルビオンに恨みを抱いている人物を向かわせ、ハッキングや警備員との戦闘を通して怒りを発散することにした。また、豪邸へ潜入し、悪事を働く権力者と対峙するミッションの際には、晴れてレジスタンスとなったカトリョーナを向かわせ、マシンガンで護衛を蜂の巣にしながら豪邸を荒らし、権力者を追い詰める。格闘家を使う際には、自分の中で「銃NG」と縛りを入れ、近接戦のみで強行突破を試みた。固有の能力を活用することが少ない、所謂「縛りプレイ」だが、本作の戦闘自体、(過去作と比較して)敵AIがこちらに気付きにくく、場所あたりの敵の数も少なくなっているため、非常にステルスでの襲撃がやりやすい。仮に際立った能力を持っていなかったとしても、ある程度自分の思う通りの戦闘を実現することができた(一部、特定のガジェットを使わないと通れない場所があるが、基本的にはどうにかすれば突破できるように作られている)。

 また、各キャラクターの情報を元にしたロールプレイも行い、例えばケイシーは序盤では過去のトラウマから外見を気にしているということでマスクを着用するようにしていたが、終盤ではデッドセックの活躍によって自信を取り戻したと「妄想」して、マスクを外して派手な格好に着替えるようにしている。他にもカトリョーナとラースが高齢者同士で仲が良いという「設定」にして、カトリョーナがミッションに失敗して負傷した際にはラースをリベンジに向かわせたり、酒好きのキャラクターには必ず一度バーなどで飲酒させてからミッションに挑ませ、終了後は同じバーに帰って締めの一杯を飲むようにしたり、ヌーディストの弁護士については原則として服装をパンツ一丁にした。こうすることで、各キャラクターへより深く感情移入し、更にゲームプレイについてもある程度の幅を広げることができたため、当初不満を感じていた作り込みの不足はある程度気にならなくなり、より魅力的に本作を楽しむことができた。勿論、だからといって本作への評価が上がるわけではないが、もし本作のゲームシステムを楽しむことができなかったという方には、是非RPGなどでのロールプレイと同様に「妄想」を試して頂きたいところである。これは明らかに本作でしかできない体験である。

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