誰でも主人公になれる『ウォッチドッグス レギオン』は、大量告発に揺れるUbisoftの現在ともリンクする

誰でも主人公になれる『ウォッチドッグス レギオン』は、大量告発に揺れるUbisoftの現在ともリンクする

 『アサシン クリード』や『レインボーシックス』などの人気シリーズで知られ、世界中に40以上の開発スタジオを設け、グループ全体の合計従業員数は18,000人を超える(2020年3月時点)巨大ゲーム企業であるユービーアイソフト。数年に一度のペースで大作をリリースする他の企業とは異なり、毎年数本ベースでAAA級の大作をリリースすることに定評のある同企業だが、2020年は相次ぐ内部告発により、最も厳しい局面を迎えた一年となった。

相次ぐ告発と、重役の辞任が続く2020年のユービーアイソフト

 ユービーアイソフトのVice Presidentであり、Ubisoft Torontoの共同設立者であるMaxime Béland氏が、同社の女性従業員の首を絞めたり、セクハラ行為を行っていた過去が告発された。同氏は即座に辞任したものの、告発は止まることなく、パリ本社の上級社員であり『アサシン クリード』や『ファークライ』など多くの人気シリーズの舵取りを行ってきたTommy Francois氏も従業員からセクハラや暴行の告発を受けて退社。Ubisoft Montrealのベテランであり新作『アサシン クリード ヴァルハラ』のクリエイティブ・ディレクターを務めていたAshraf Ismail氏も不倫問題や自身の立場の悪用による問題行為で解雇され、この問題を受けて内部調査を実施した結果、グローバルヘッドの Cécile Cornet氏、チーフクリエイティブオフィサーであるSerge Hascoet氏も辞任し、Ubisoft Canadian Studiosで15年に渡ってCEOを務めたYannis Mallat氏もこれらの問題の責任を取る形で退社することに。これまで数多くの人気シリーズを手掛け、今では重役となったクリエイターが相次いで業界を追放されていった。

 これらの調査の中で、前述のUbisoft Torontoの従業員は、女性の貢献が過小評価され、性差別やハラスメントを常態化させ、それをやった人物については言い訳をしている一方で、女性に対する苦情は無視されているという職場文化全体の問題を指摘している。また、従業員からは次のような声明が発表された(参考:https://kotaku.com/ubisoft-employees-have-grave-concerns-over-toronto-stud-1844277486)。

「我々、Ubisoft Torontoの従業員は、既に報じられているハラスメントや、私たちのスタジオで安心することも、守られていると感じることもできないことに重大な懸念を抱いている。(“We, the undersigned employees of Ubisoft Toronto, are coming to you with grave concerns about ongoing reported harassment and an inability to feel safe or protected within our own studio,”)」

 その後、夏に実施された調査では、回答したユービーアイソフトの従業員のうち、25%が不正行為を直接目撃したり経験したことがあると答えている。また、回答者の5人に1人が “職場環境で十分に尊重されていない、安全だと感じていない “とも答えており、多くの重役の辞任を経た今でも、環境が完全に改善されたわけではない(参考:https://kotaku.com/one-in-four-ubisoft-employees-witnessed-or-experienced-1845256218)。あくまでユービーアイソフトは巨大な企業であり、長年に渡って構築されてきた職場文化は会社の膿として今も様々な場所に点在していることだろう。

 これらの問題の主な背景には「権力の悪用」があるだろう。そして、この騒動後、ユービーアイソフトが送る初めての作品であり、さらに渦中のUbisoft Torontoがメインの制作を手掛ける『ウォッチドッグス レギオン』のテーマが「一般市民による権力への反抗」であることに奇妙な因果を感じてしまうのは私だけだろうか。

誰もが主人公になれるし、誰もが権力に立ち向かうことができる

 ”番犬”や”監視者”を意味する言葉をタイトルに冠した『ウォッチドッグス』シリーズは、近未来を舞台に、テクノロジーが世界を支配し、様々な権力者がテクノロジーと自身の力を悪用する社会に対して、ハッキングやガジェットを駆使して抵抗し、巨悪へと挑むオープンワールド型アクションゲームである。シリーズ3作目となる『ウォッチドッグス レギオン』では、制作がこれまでのUbisoft Montrealから前述のUbisoft Torontoに変わり、主要スタッフもほぼ一新している。だが、作品の世界観についてはこれまでの2作品から大きく変わっておらず、引き続きハッカーによる自警団である”デッドセック”を中心に物語が動いていく。今回の舞台はブレクジット後のロンドンであり、プレイヤーは丁寧に再現されたロンドンの町並みを自由に動き回ることができる。

 本作の最も大きな特徴であり、シリーズのみならずAAA級タイトル全体としても異例となる試みとして、”Play as Anyone.(誰にでもなれる)”というコンセプトが挙げられるだろう。1のエイデン・ピアース、2のマーカス・ホロウェイのような固定の主人公は本作には存在しておらず、物語がスタートした時点でロンドンのデッドセックは壊滅状態にある。そこで、ロンドンの街中で暮らしているNPCを一人ずつスカウトして、「自分だけのデッドセック」を作り上げるところからゲームが始まっていく。つまり、「これまでオープンワールドゲームの背景として存在してきたNPCのモブキャラ」が本作の主人公である。

 『ウォッチドッグス』シリーズでは、全NPCに対して固有の情報が割り当てられており、ハッキングを行うことでそのNPCがどんな人物なのかを知ることができたり、送信しているメッセージの中身を盗み見ることができた。あくまで「テクノロジーが世の中を支配し、誰かが監視している」ことを印象づけるためのエッセンスとして用いられていたこの要素が、本作では大幅にパワーアップし、全てのNPCに固有の能力と性格や人間性を示すメタデータが割り当てられている。また、全員に固有の生活習慣が存在し、例えば「19時にはバーに向かう」といった行動特性も存在している。これらを使い、街中を探索しながら気になった人物に声をかけ、デッドセックにスカウトすることで、そのNPCをプレイアブルキャラクターとして使うことができるようになる。スカウトしたNPCはチームの一員となり、その気になれば数十人規模のチームを作ることも可能だ。また、NPCの情報は(恐らく)セーブデータごとにランダムで割り振られているため、本作のプレイヤーは一人として同じ主人公を操作していることはないだろう。

 スカウトできるNPCは見た目・性別・職業・国籍・人種・年収・家族構成・信仰・支持政党・性的嗜好に至るまで非常に多様に割り当てられており、同じ人物は一人も存在しない。ある程度探索すれば誰もが自分が共感を抱いたり、魅力を感じられるキャラクターを見つけることができるだろう。筆者が最初のメンバーに選んだケイシー・ベッキンセールは、イギリス出身で未払いの学生ローンを抱え、モッシュピットで怪我するほどのライブ好きで、過去にリアリティ番組に出演していた事があるが、「ブサイクすぎる」という理由で投票で除外された苦い過去を持っており、現在はバリスタとして働きながらもスマホでは「誰とも関わらない方法」と検索してしまう性格の持ち主である。だが、警備会社としてロンドンを監視し、実質的に全てを支配しているアルビオンには強い敵対意識を持っており、警備員の股間を膝で蹴るという荒業に及んだことがある(恐らく怒りが相当強いのか、アルビオンの警備員に対するダメージ増加という固有能力まで持っている)。あらゆる意味で強い共感を抱き、かつ前述の背景や本作の物語においても適任であろうと考えた筆者は、彼女を最初のメンバーに抜擢し、結果として本作のラストミッションまで頻繁に起用していた。

 その後も、近くの建設現場で働いていた建設作業員のおじさんであるティモシー(アイルランド生まれの悪魔崇拝主義者)や、レジスタンスに関心を抱きながら路上で過ごしていたホームレスのお婆さんのカトリョーナ(アンティークな銃の収集と改造が趣味で、ライトマシンガンを持っている)、高齢のウェブ開発者であるラース(ゲームはLinuxでしかプレイしないという強いこだわりを持つ)といった、気になるメンバーを次々と集めていった。スカウトをするためには、簡単な採用ミッション(5~15分程度のボリューム)を行う必要があるが、街中を歩きながらNPCを見て回り、気になった人を見つけては採用ミッションに取り組み、次は新メンバーに切り替えて勧誘を再開する、というループだけで非常に楽しく、メインミッションクリアまでに要した約50時間の内、10~15時間程度はこの時間に使っていたほどである。

 このように、「特に強い才能を持たずとも、誰でも主人公になれるし、そこで集まったメンバーが世界を救う」というのは、筆者個人としてはこのコンセプトだけでも評価したくなるほどに嬉しく、ワクワクし、何より励まされるものだった。また、現状のユービーアイソフトの状況に対する、一つの「内部からの回答」としてもある程度は効果的に機能しているように感じている。これまで何度も議論になってきた、ゲーム内キャラクターの多様性について、本作の場合は大部分がユーザ側に委ねられているのだ。デッドセックのメンバー構成は、ある意味ではプレイヤー自身の考え方の投影であるとも言えるだろう。

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