『オクトパストラベラー 大陸の覇者』:「課金」との接し方と物語への没入回路

『オクトパストラベラー 大陸の覇者』:「課金」との接し方と物語への没入回路

 スマートフォン用アプリ『オクトパストラベラー 大陸の覇者』が絶賛配信中だ。「ドラクエ」や「FF」シリーズで知られるスクウェア・エニックスの手がけた一人用RPGで、すでにダウンロード数は1000万を超えている。

 人気の秘訣は「レトロゲー」を彷彿とさせるビジュアルで、「HD-2D」と呼ばれる、ドット絵と3Dのいいとこ取りをしたようなグラフィック技術は、古きよきRPGの雰囲気を保ちながらも現役世代のゲーマーたちをうまく取り込むことに成功している。

 この魅力は、Nintendo Switch/PC版として発売された前作『オクトパストラベラー』から今作にも変わらず受け継がれているが、目立った変更点を挙げるとすれば、やはりプレイアブルキャラクターの大幅な増加だろう。前作では8人の主人公が設定されていたが、今作で操作可能なキャラクターの数は、(配信開始時点で)なんと64人。前作の8倍である。

 さらに一部のキャラクターには「トラベラーストーリー」という固有のシナリオが設定されており、ボリューム面では前作にも引けを取らない作品となっている(加えて、「トラベラーストーリー」やその他のシナリオはアップデートによって随時追加されていくという)。

キャラクターと「課金」を巡る現状

 そしてこのプレイアブルキャラクターの中には、前作の主人公の一人、ハンイットもアップデートによって配信後に追加された。これには前作ファンである筆者も喜びを隠せなかったし、多くのシリーズファンの方も同じ気持ちを味わったのではないだろうか。

 しかし一方で、このアップデートに対して「人気キャラが課金に利用された」として否定的な声を上げるプレイヤーも少なくなかった。というのも、今作で登場するプレイアブルキャラクターは、いわゆる「ガチャ」(※1)によって手に入れなければならず、無課金プレイヤーは「ガチャ」を引ける回数が限られていたからだ。そして人気キャラクターであるハンイットは、当然、出現率が低めに設定されていたため、そのマネタイズ手法への非難の声がSNSに投稿されることもあった。

※1 ゲーム内のアイテムやキャラクターがランダムに登場するシステム。一般的に、指定された料金に応じて利用可能回数が増え、無料で行う場合は利用回数が限定される。

 たしかに気持ちはわかる。なにせ、筆者が前作で最初に主人公として選んだキャラクターも、他でもないこのハンイットだったからだ。「おれのハンイットを金儲けに使いやがって」と思わないでもない。

 とはいえ、ゲームを市場に送り出す以上、どこかでマネタイズしなければ作品が成り立たない。そのためここでは、「課金」の手法の是非はひとまず置いておいて、別のことを考えようと思う。

 すなわち、「なぜ私たちはハンイット(たち前作の主人公)にここまで愛着を抱いてしまうのか」ということについて。

「オクトパストラベラー」における「キャラ愛」発生のメカニズム

 「なぜ前作『オクトパストラベラー』のプレイヤーがハンイットに愛着を抱いているのか」と言えば、もちろんそれはゲームのプレイを通じて彼女のことについて深く知っているからだ。彼女のビジュアルや声はもちろん、旅の動機や生真面目な性格(ゆえにちょっと頑固なところ)、バトルスタイルをよく知っているからである。

 そして「なぜそれらが魅力的に感じられるのか」と言えば、それは同シリーズにおいて「キャラクターを操作すること」自体が快楽となるよう設計されているからだ。

 開発陣が同シリーズについて「シナリオのためのゲームにしない。ゲームのためのシナリオであるべきだ」(「『オクトパストラベラー 大陸の覇者』開発者インタビュー。メインストーリーは2年先の分まで計画中! 1、2ヵ月のペースで新しい物語が楽しめる」https://www.famitsu.com/news/202010/26208273.htmlより)と語るように、「オクトパストラベラー」シリーズではシナリオや設定の妙よりも、あくまでもゲームプレイそのものの楽しみを追求できるよう、緻密な工夫がなされている。

 例えば前作のシナリオについて言えば、細かい伏線が高度に散りばめられているというようなことよりも、メインシナリオに関係ないダンジョンや、NPCとの何気ない会話(サブストーリー)などの断片的な物語を通じて全体の世界観への想像を駆り立てられること、それ自体に快楽を見出せるよう設計されている(※2)。

※2 前作のシナリオについては過去にも取り扱ったので、そちらも参照されたい(『オクトパストラベラー』が放棄したストーリーテリングは、レトロゲーが持つ魅力を増幅させた)。

 また今作について言えば、敵とのコマンドバトルにおける戦略性が増したことで、ゲームプレイ自体の快楽が高められている。例えば、前作ではプレイヤー側のパーティは4人編成だったのに対して、今作では8人のキャラクターが戦闘に参加する。そしてその8人は4人ずつ前列・後列に分かれ、敵の弱点に応じて隊列を入れ替えたり、また、後列に移動したキャラクターはその間体力が回復したりするといった形で、より戦略的なコマンドバトルが楽しめるのだ。

 このように同シリーズでは、シナリオの妙でプレイヤーを魅了するというよりは、「キャラクターを冒険させること」や「敵キャラクターと戦うこと」それ自体の楽しみが追求されている。

 したがってハンイットについて言えば、プレイヤーは彼女についてのシナリオを言語的に理解したから愛着を抱いたということよりも、たまたま選んだハンイットというキャラクターの「操作」を楽しんでいるうちに愛着を抱くようになった、という側面が最も強いはずである。というより、前述したようにそのような過程を楽しめることこそが同シリーズの魅力なはずだ。

 そうであれば、(前作プレイヤーであればなおさら)今作ではハンイットら前作キャラに固執することよりも、たまたま手に入れた新規キャラクターを操作することそれ自体を楽しむ方が、同作の魅力を引き出せていると言えないだろうか。

 例えば筆者のパーティにはナンナという剣士がいる。正直素早さが低く、ステータス的には恵まれていないキャラクターなのだが、使っているうちに気に入ってしまってメインシナリオをクリアするまでずっと使い続けてしまった(言ってしまうと、その中途半端な弱さが愛おしい)。ちなみにナンナの「トラベラーストーリー」は、彼女の「婚活」を描いた、メインシナリオにはまったく必要ないものだったが不思議と夢中になってしまう。

 これも同作において個々のキャラクターが「シナリオを進めるのに有利かどうか」とか「ステータスが優れているかどうか」ということは度外視して、「操作していて楽しいか」という基準で遊べるからこそ可能なことである。

 このように「オクトパストラベラー」においては、ゲーム体験自体の快楽が強調されることで、たとえそのキャラクターのステータスが未熟だったり、物語が単調であったりしたとしてもプレイしているうちにそのキャラクターや物語が魅力的に思えてくる、その過程自体を楽しめるわけだ。

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる