『オクトパストラベラー』が放棄したストーリーテリングは、レトロゲーが持つ魅力を増幅させた

『オクトパストラベラー』が放棄したストーリーテリングは、レトロゲーが持つ魅力を増幅させた

 スマートフォン専用ゲーム『オクトパストラベラー 大陸の覇者』が、10月28日より配信される。同作の配信に先駆けて、前作『オクトパストラベラー』がどのような物語だったか振り返ってみよう。

 と言いたいところだが、『オクトパストラベラー』のあらすじを一言で紹介するのは難しい。というのも、8人いる主人公はそれぞれが異なる動機で旅をし、ゲーム全体に統一された結末というものも(メインストーリー上には)ないからだ。例えば主人公の一人、オルベリクは、かつて仕えていた王国が滅ぼされてしまったため、剣士としての生きがいを見つけるために旅に出発し、トレサは一人前の商人になるために旅に出る、といった具合に、旅の動機も目的もバラバラな8人がたまたま合流し、それぞれ異なる結末を迎えるという設定がなされている。

 また、それぞれの旅の目的は極めて個人的なもので、いわゆる大作映画のような凝ったシナリオ構成や、衝撃的な結末というようなものは存在しない。例えばオルベリクにしても物語の序盤では剣をふるう意味を見出せずにいたが、旅を通して「自分を頼りにしてくれる身近な人々や、道中で出会った者たちを守るために剣をふるう」といった、(悪く言えば)ありきたりな結論を導き出して物語は収束する。このような、ある種の予定調和的で単調なシナリオは同作の欠点として指摘されることもある。

 しかし、『オクトパストラベラー』におけるシナリオの単調さは、欠点であるよりもむしろ、この作品を特徴づける魅力として語られるべきだろう。

 たしかに同作は、例えば『ファイナルファンタジー』や『The Last of Us』シリーズに見られるような、シナリオの複雑性やメッセージ性といった点では劣るかもしれない。しかしこのような大作ゲームの、高度なシナリオを写実的/映画的に描写するのが「ストーリーテリング」の魅力だとすれば、『オクトパストラベラー』は断片的な情報を積み重ねることによって全体の世界観を想像させる、「ナラティヴ」の魅力に溢れている。

『オクトパストラベラー』におけるナラティヴの魅力

 ナラティヴとは、SFシューティングの名作『ゼビウス』を生み出した遠藤雅伸によれば、いわば民話のような「おはなし」である(中沢新一、遠藤雅伸、中川大地『ゲームする人類:新しいゲーム額の射程』明治大学出版会 2018年より)。つまりストーリーテリングという手法が、ある結末(メッセージ)を強調するために過程となる話題を論理的に積み上げていくものであるのに対して、ナラティヴとは単に「こういう話があった」と提示することで、受け手側にその話に対する解釈や想像の余地が与えられるものであるというふうに、大雑把にではあるが区別できる。

 例えば筆者が最初に主人公として選んだハンイットという狩人は、行方不明の師匠・ザンターを探すという個人的な事情で旅に出る。そこには何か教訓となるようなメッセージや複雑な展開が用意されているわけではなく、単に当初の目的を果たして彼女の物語は幕を閉じる。他の7人のキャラクターも同様で、それぞれの事情で旅に出て、それぞれの目的を果たして終了する、といった具合だ。

 しかし、プレイヤーはそれぞれの「旅」について、背景では一つの世界観の元に統一した物語があるのではないかと想像を膨らませてしまう。例えば、今作にはメインストーリーには一切関係ないダンジョンがいくつも登場する。強力なボスを倒すためでも、主人公たちの成長を促すためでもなく、ただそこにダンジョンがある。このような断片的な情報(=ナラティヴ)が提示されることで、そこから受け取った物語をプレイヤーが好意的に結びつける想像の余地が生まれるわけだ。

 あるいはプレイヤーはゲームを進めていくうちに「主人公たちそれぞれの物語には何か関連性があるんじゃないか」や、NPCとの会話を繰り広げる中で「(ゲーム世界の舞台である)オルステラ大陸に生きる人々の生活はこうなっているんじゃないか」といったように、能動的かつ自由に想像を膨らませ、その脳内二次創作自体を楽しむことができる。シナリオが高度であるかどうかとは関係なく、ハンイットたちを操作すること自体を楽しめる。つまり何か感動的な結末や製作者の意図するメッセージを受け取るためではなく、プレイヤーの想像力がかき立てられる「旅」そのものを楽しめるようにゲームが設計されているわけだ。

 この「旅」そのものをゲーム体験として楽しめるのは、HDー2Dという特徴的なグラフィック、洗練されたコマンドバトルシステムによるところが大きい。グラフィックにおいてはドット絵を基調としながらも、随所に3Dの写実的な風景描写が混ざっていることで、記号で表されたキャラクターや、魔物たちが実在するときの姿を思わず想像してしまう。

 また、戦闘では、敵の弱点への攻撃を特定回数行うことで行動不能にさせる「ブレイク」システム、攻撃の順番が可視化されている演出などが、単調なコマンドバトルに高度な戦略性をもたらしており、「レベル上げ」が苦痛に感じないぐらいには通常戦闘が楽しいゲームでもある(ゲームシステムに関しては同メディアでも過去にも取り上げたので、詳しくは以下の記事を参照されたい)。

参考:「スマホ版配信決定の『オクトパストラベラー』 なぜ傑作と言えるのか?」

 このように『オクトパストラベラー』は高度なシナリオを描写することには力点を置かず、むしろシナリオは極力単純化し、RPGにおける「戦闘」や「移動」、「会話」といった基本的なゲーム体験そのものを楽しめるように設計されていたところに魅力がある。

※次ページより、『オクトパストラベラー』終盤についてのを重要な要素、エンディング以降についてのネタバレを含みます。本作を既にクリアしている人々、に向けた文章となっておりますので、未プレイの方はご注意下さい。

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