Netflixオリジナル『ハイスコア:ゲーム黄金時代』にみた、「キャラクター」の侵略的広がり

『ハイスコア:ゲーム黄金時代』レビュー

 はじめてゲームを手にしたとき、何に惹かれていたのかを思い返している。

 Netflixオリジナル作品、『ハイスコア:ゲーム黄金時代』が絶賛配信中だ。ゲームの歴史を開発者へのインタビューなどを交えながら振り返ったドキュメンタリー番組で、『パックマン』の誕生秘話やカービィ(『星のカービィ』)の名前の由来など、少しでもこれらのゲーム作品に触れたことがある方なら、思わず感心してしまうエピソードがたくさん紹介されている。

 同作は基本的にアメリカの視点から語られた番組ではあるものの、日本人のゲームプログラマーも多数取り上げられており、ゲーム産業における日本の影響力の高さもうかがえる。

 例えば第1話では『スペースインベーダー』(1978)が大きく取り上げられるが、このゲームを開発したのは他でもない日本人の西角友宏という人物だ。『スペースインベーダー』は史上初めて社会現象を巻き起こしたアーケードビデオゲームで、「ビデオゲームの革命」として番組内では紹介されている。その影響力の大きさを物語るエピソードと言えば、当時の日本政府が100円玉不足を宣言しただとか、集金に来た4トントラックが100円玉の重みで曲がってしまっただとか、集客のためにほぼすべてのテーブルを『スペースインベーダー』の筐体に変更した喫茶店が出現していただとか、枚挙にいとまがない。

 「インベーダーブーム」の立役者となった西角の革新的だったところは、ゲームに「インベーダー(エイリアン)」というキャラクターを持ち込み、物語性を与えたことだ。つまりそれまでは『ブロックくずし』と呼ばれる、単に的やボールを画面上に再現するに留まっていたシューティングゲームが主流だったところに、的を「エイリアン」に、ボールの反射板を「宇宙船」に見立てたことで、ゲーム内の空間を、(架空の)生命が存在する世界に変容させたのだ。

 この革新が、ヒトのシンボル化能力(ある概念を言語や視聴覚イメージとして定義する認知能力)を刺激したことで『スペースインベーダー』は広く普及したと、評論家の中川大地は著書『現代ゲーム全史』にて指摘している。つまり、従来はほとんど記号しか存在していなかったゲームの空間に、シンボルとしての生命(キャラクター)を吹き込むことで、普遍的な認知の広がりをもたらしたのである。

 

 このような、物質や動植物をキャラクター化(擬人化)する想像力は人類に普遍のものではある。しかし、古くから万物に魂が宿るとする八百万の神を信仰していたり、平安期にはすでに動物を擬人化するサブカルチャーとして『鳥獣戯画』が誕生していたりすることから、特に日本人に馴染み深い認知領域であるといっても差し支えはないだろう。

 実際、『スペースインベーダー』より後に登場するパックマンやマリオも、それぞれ日本人の岩谷徹、宮本茂が発明したキャラクターであり、「ゲームにシンボルとしてのキャラクターを設定する」という発想はそれ以降テンプレート化している。現在ではプレイヤーの間では常識どころか、(意識すらされない)前提となっている発想だ。

 また、当時からもゲーム開発者の間ではシンボルキャラクターの重要性は認識されており、第4話で登場するセガの経営者トム・カリンスキーもそのことを指摘していた。80年代後半にはゲーム市場の98%のシェアを占めていた任天堂を超えるため、シンボルとしてのキャラクターを生み出すことが不可欠であると述べていたのだ(そうして生まれたのが「セガの顔」となる音速のハリネズミ・ソニックである)。

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