『ストII』楽曲も手がけた下村陽子が語る 『ハイスコアガール』の劇伴で表現した“バランス感”

『ハイスコアガール』下村陽子インタビュー

 本日9月28日、テレビアニメ『ハイスコアガール』(TOKYO MXほか)がいよいよ最終回を迎える。押切蓮介の人気コミックを原作に、90年代のゲームセンター、格闘ゲームを軸に描かれる異色のラブコメディは、終盤で舞台を高校に移し、ロマンスもゲームの進化も加速するばかり。リアルサウンドでは、制作統括を務めるアニメプロデューサー・松倉友二氏のインタビューに続き、劇伴を担当した下村陽子氏を取材。『ストリートファイターII』の音楽を手がけた彼女が、同作が多く登場する『ハイスコアガール』の劇伴を担当するまでの話や、楽曲で表現したラブロマンスの要素などについて、じっくりと話を聞いた。

 「ゲーム好きにとっては夢のようなシチュエーション」

ーー下村さんはどういった経緯で『ハイスコアガール』の音楽を担当することになったのでしょうか?

下村陽子(以下、下村):今回は〈ワーナー・ブラザース〉の担当者さんと松倉(友二/同作総合プロデューサー)さんから、ほぼ同時期にお話をいただきました。最初は「なんか似たようなお話だなあ」と思っていたんですけど、それが同じ作品のことだったんです(笑)。ワーナーさんには『ひるね姫 〜知らないワタシの物語〜』(2017年)という映画の音楽でお世話になっていましたし、松倉さんとは昔に『極上生徒会』(2005年)というアニメの音楽を担当させていただいた際にご一緒したことがありまして。『ハイスコアガール』には私が音楽を作った『ストII(ストリートファイターII)』がたくさん出てくるので、私のことを思い出していただいたみたいです。

ーー『ハイスコアガール』という作品自体の印象はいかがでしたか。

(C)押切蓮介/SQUARE ENIX・ハイスコアガール製作委員会 (C)BNEI (C)CAPCOM CO., LTD. (C)CAPCOM U.S.A., INC. (C)KONAMI (C)SEGA (C)SNK (C)TAITO 1986

下村:原作のマンガは有名な作品ですし、出版元がスクウェア・エニックスさんということもあって、存在自体は知っていたんですけど、私はもともと古いタイプの少女マンガしか読まない人間なので、読んだことはなかったんですよ。なので、今回のお話をいただいてから早速読んでみたんですが、その後は新しい巻が出るたびに発売日に買いに行くぐらい楽しみにしてます。先日9巻を買ったときに、次が最終巻になるということを知って、すごくショックを受けましたから(笑)。

ーーどんなところに魅力を感じたのでしょうか?

下村:私はひとつのマンガを何度も読み返すタイプなんですが、『ハイスコアガール』はまず、サラッと読んでしまったんですね。でも、読み返したときに「この作品はけっこう少女マンガ的な展開なんじゃないかな?」と気づいたら、キュンキュンしてしまいまして。〈好きなのに気づいてない〉とか〈好きなのにわざとそれを認めない〉〈好きだけど言えない〉みたいな展開に「何だこの青春は!?」と思いました(笑)。

ーー少女マンガ好きとしての視点でも刺さる内容だったと。

下村:しかも、ゲームをやってるときだけは素直になれるなんて、ゲーム好きにとっては夢のようなシチュエーションですよね。最初に読んだときは、ヒロインの大野(晶)は無口だし、何を考えてるかわからないなと思ってましたけど、2回目にはかわいくて仕方なくなりましたから(笑)。主人公の春雄もいわゆるのび太君的なキャラに見せておいて、実はひとつの方向に突き抜けたスーパーヒーローみたいなところがあって、女泣かせですよね。冴えないように見えて、実はすごいイケメンという感じがあります。

(C)押切蓮介/SQUARE ENIX・ハイスコアガール製作委員会 (C)BNEI (C)CAPCOM CO., LTD. (C)CAPCOM U.S.A., INC. (C)KONAMI (C)SEGA (C)SNK (C)TAITO 1986

ーーそんな作品の音楽を作るにあたって、まずどんなことを意識されましたか?

下村:今回は音楽のリストに〈日常の曲〉が多かったので、まず、そんなに濃いものではなくて、サラッとした音楽がいいかなと思ったんです。それと同時に『ハイスコアガール』は90年代が舞台になるので、昔のレトロ感が必要かなと思いまして。例えば昭和の時代のドラマの音楽は、サスペンスで事件が起こるときはオーケストラ系の音楽でわかりやすく盛り上げたりするじゃないですか。そういう昭和の音楽みたいな大袈裟感と、なんでもない日常に合う薄い音楽をいかに同居させるか、ということを考えて作っていきました。

ーー最初に下村さんが『ハイスコアガール』の音楽を担当されると知ったときは、当時のゲーム音楽のような劇伴になると想像したんですが、実際にアニメを観るとその逆というか、生楽器がメインになっています。

下村:今回はゲームをテーマにした作品で、劇中に実際のゲーム音楽もたくさん使われるというお話だったので、劇伴ではそれを邪魔することなく、上手に棲み分けられるものを意識したんです。作ってる最中にも、制作の方に「もっとシンセを使わないんですか?」とお話をいただいたんですけど、あえてトラック数は少なめにして、ピアノやストリングスといったアコースティックの生楽器をメインにすることで、劇中のゲーム音楽との差別化をしたいという思いがありまして。おそらくもっとコテコテのゲーム音楽みたいなBGMになることを想像されてた方も多いと思うんですけど、そういう方にも自然で耳馴染みの良い、だけどチラッと濃いところも見え隠れする音楽を狙ったつもりです。

ーー普段はゲーム音楽をメインに作られている下村さんだからこそ、そこのバランス感を掴みやすいところもあったのでは?

下村:どうなんでしょうね。私は古い世代の人間なので、春雄や大野の時代のゲームの音を聴くと懐かしい気持ちになるんですよ。それこそ自分が担当した作品とかも関係なくて、作中に『源平討魔伝』とか『ダライアス』が出てきたら「そうそう、『ダライアス』は3画面だったんだよねー」と思いますし(笑)。自分はその頃すでに作り手側ではありましたが、同時にユーザーでもあったので、最初にマンガを読んだときに感じた懐かしい気持ち、忘れていた思い出がよみがえる感覚を大切にしたいなと思いながら音楽を作っていました。

(C)押切蓮介/SQUARE ENIX・ハイスコアガール製作委員会 (C)BNEI (C)CAPCOM CO., LTD. (C)CAPCOM U.S.A., INC. (C)KONAMI (C)SEGA (C)SNK (C)TAITO 1986

ーーメニュー表を拝見すると40曲中19曲が日常曲ということで、これだけの日常曲を作るのは苦労されたのではないでしょうか。

下村:そうなんですよ。私は普段、日常の曲を作ることがあまりなくて、大抵が大ごとの起こりそうな雰囲気だったり、歩いててもボスが出そうな感じの曲ばかり作ってるので(笑)、ファンタジーな世界観とは違った大袈裟な曲というのは、私も最初に行き詰った部分ではあります。自分ではフラットで当り障りのない日常曲のつもりで書いていても、どうしても切なさや嫉妬みたいに、心の動きを表したような曲になってしまうんですよ。今回はいろんなアレンジャーさんに編曲を担当していただいたのですが、アレンジャーのみなさんにも「曲は盛り上がろうとしてますけど、そんなに盛り上がらなくていいです」と無理なお願いをしまして(笑)。たぶん私ひとりでこれだけの数の日常曲を作ろうと思ったら、バリエーション的に厳しかったと思います。

ーー今回の劇伴には、下村さん以外にも、多田彰文さん、松尾早人さん、石塚玲依さん、西村真吾さんという方々がアレンジャーとして参加されていますね。

下村:私ひとりではなく、たくさんの方に参加していただくことで楽曲のバリエーションが豊富になるんですね。私の中には曲に対するアレンジのイメージが何となくあるのですが、私が「このアレンジャーさんが向いてるんじゃないかな?」と思った方に手掛けていただけましたし、その人それぞれのアレンジャーさんの個性も出たと思いますので、結果としてすごく良かったと思います。

ーーご自身のなかでアレンジが上がってきて印象深かった楽曲はありますか?

下村:春雄が空港に向かうシーンで使われた「M-36」ですね。この曲はもともとイントロがピアノだったんですけど、今回はピアノを使った曲が多いこともあって、「アコギにするのはどうですか?」とご提案いただいたんです。私はもともとアコギの音が好きなのでよく使うんですけど、今回はなぜかあまり使ってなかったんですね。それでお願いしましたら、私の好きなスパニッシュギター風のすごくカッコいいものにしていただいて、これを聴いた瞬間に「もっとアコギを使っておけばよかったかな?」と思ったぐらいでした(笑)。でも、逆にアコギをあまり使ってなかったからこそ、この曲のイントロが映えたんだと思います。

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