血飛沫と肉塊の“逆ホラー”『CARRION』は、とことん人間向けのゲームだった ゲームにしか描けない「触手人生」とは
『CARRION』は成長物語でもある。小さな肉塊に過ぎなかった存在が、植物園や軍事施設を巡り、巨大な存在となって生まれ故郷の研究所へと帰ってくる。ここで奇妙な感慨を覚えることができたなら、それは本作がうまくプレイヤーと肉塊との間に絆を繋いだことの証左ともいえるだろう。画面を這い回る触手の塊に「感情」移入することは困難だ。
しかし、その身体を縦横無尽に動かし、「自分の意思で」扉を開け閉めする瞬間があったなら、そのとき確かにプレイヤーと触手は重なっている。それは小説や映画で語られるのとは異なる同化体験だ。言葉による語りとは違う、体験によってキャラクターの追体験を実現するゲームだからこそ、「逆ホラー」をいう本作のコンセプトは成り立ったのである。そしてそれを裏打ちするのは、同化体験の障害となりうる要素を注意深く取り除いた丁寧なゲーム設計だったといえる。
『CARRION』PC/Mac/Linux(Steam)およびNintendo Switch/Xbox Oneで、2050円で配信中で、日本語字幕にも対応している。
■Yuki Kurosawa
フリーライター。ゲーム系の記事を中心に執筆している。海外のインディー作品をよく好む。何度も死んで覚えるゲームが得意(一手先が読めないため)。
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