FISHMANSがARライブで描き出した“ポストパンデミックの世界” 楽曲や演出から見えてきたもの

FISHMANS、ARライブレポ

 6月14日、FISHMANSが渋谷PARCO・9Fにリニューアルオープンした5G時代の配信型スタジオ「SUPER DOMMUNE tuned by au5G」で、無観客ARライブ「INVISIBILITY」を開催した。これはポストパンデミックの世界をイメージするための実験的プログラム「み・え・な・い・も・の」の一環として行われたもので、第一部ではDOMMUNEの宇川直宏や、IAF(International Art Front)を立ち上げたZAKらがトークセッションを展開。その第二部として、DOMMUNEと渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト(au 5G)がタッグを組み、AR技術を駆使した配信ライブが披露された。

 渋谷5Gエンターテイメントプロジェクトが5月に立ち上げた「バーチャル渋谷」は、仮想空間の中に渋谷の街を構築するというコンセプトだったのに対し、今回のライブはリモートカメラを使い、現実世界の中に仮想空間を創出するというもの。ARチームとしては、近年「紅白歌合戦」の演出も手掛けるクリエイティブカンパニーのstu inc.が参加。ARカメラが技術進歩で手頃&コンパクトになり、機動力を持って活用できるようになったことによって、「紅白」のような国民規模のイベントでなくとも、同様の試みが行えるようになったことを、SUPER DOMMUNEが実践で示した形だと言える。

 そもそも今回のライブは、3月頭にZAKが宇川に提案し、構想3か月で開催にこぎつけたとのこと。「ポストパンデミックの世界をイメージする」というのはつまり、「新しい生活様式」が必要とされる中にあって、5GやARといった最新技術を使い、持続可能な次のモデルを模索していくということである。6月19日からライブハウスは営業を再開できるようになったが、政府が示したガイドラインでは、すぐに以前のようなライブを行うことは難しい。一方、現在多くのアーティストが行っている配信ライブは、基本的に「リアルの代替」であり、場合によっては、「プロモーションの一環」という印象も否めない。

 しかし、宇川が「わかりやすく言えば、『ポケモンGO』と東方神起のARライブを俯瞰して、もっとカジュアルに展開した世界。現実世界ではみえないが、オンライン上に立ち現れるイコン。まるで現在のFISHMANSのよう。佐藤伸治の身体こそ見えないが、その存在は魂をむき出して、FISHMANSの精神的支柱としていまここに存在する」 と表現する今回のライブは、決して「リアルの代替」ではなく、別の価値を持った新たな体験を提供するもの。いずれライブが以前と同じように開催できるようになったとしても、別軸で進化し続け、やがて違う形でリアルと融合することもあり得るような、先を見据えた試みだと捉えられる。

 当初予定されていたスタート時刻を30分ほど過ぎた頃、茂木欣一(ドラム/ボーカル)、柏原譲(ベース)、HAKASE-SUN(キーボード)、木暮晋也(ギター)、dARTs(ギター)、原田郁子(ボーカル)、ZAK(エンジニア)の7人は、ソーシャルディスタンシングに配慮して、円になって立ち位置につく。撮影はリモートで操作ができるPTZカメラが用いられ、リアルタイムにARを組み合わせた高画質映像を無線(au 5G回線)で全世界に配信。FISHMANSは近年、海外での評価も高く、その意味でも今回の試みには適任だ。また、最新技術の一方で、ZAKが使うのはこだわりのアナログ卓という対比も意味深いように思う。

 「音楽は見えないもの、言葉にならないもの、それを今からやっていきます」というZAKの一言を皮切りに、一曲目の「チャンス」からライブがスタート。AR技術によって、球体や立体のプリズムが画面上に浮かび上がり、七色の光が飛び交う、特別な空間が立ち現れていく。背景にはLEDスクリーンにサイケデリックな映像が映し出され、その手前でメンバーが演奏し、その頭上にARによる映像が浮かぶ三層構造だが、LEDスクリーンに映る映像はカメラ映像にも投影され、四層構造と言ってもいいかもしれない。

 「みんなで合奏するっていいなあ」と話した茂木を筆頭に、メンバーはそれぞれ久しぶりのライブに対する喜びをエネルギッシュな演奏で表現。序盤のセットリストは初期曲が中心で、デビュー曲の「ひこうき」ではトマトが、「なんてったの」では鉛筆が、プリズムとともに現れて、不思議な空間を作り出す。中でも松明を掲げる天使の彫像が現れた「頼りない天使」は、前半のクライマックスとなった。

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