FISHMANSがARライブで描き出した“ポストパンデミックの世界” 楽曲や演出から見えてきたもの

FISHMANS、ARライブレポ

 換気の時間を挟み、ZAKが「低音が大事なので、ヘッドフォンかイヤフォンで聴いてください」と呼びかけてから、後半がスタート。原田の歌とHAKASE-SUNのピアノで披露された「救われる気持ち」では無数の光の粒子が浮かび上がり、茂木の歌と木暮のギターで披露された「IN THE FLIGHT」ではネオンカラーの光が魚のように宙を泳ぐ、幻想的な世界が広がる。こちらも初期曲の「Future」を挟み、「I DUB FISH」の中盤ではオリジナルの音源にも参加している横尾實がサプライズで登場して、ポエトリーリーディングを披露。バンドとの共演は2011年の日比谷野音以来だそうで、「go on」と繰り返すこの曲が、2011年と2020年にオリジナルの形で披露されるというのは、必然のように感じられる。

 MCでは今回のセットリストについて、柏原が「よりルーツに近い」と話し、茂木は「無邪気」と表現。都立大のリンキィディンクスタジオで行った初めてのリハーサルで、佐藤伸治が演奏しながら飛び跳ねまくっていたというエピソードを披露した。初期曲中心のセットリストは、今このタイミングで価値観をもう一度アップデートし、それに対して恐れることなく、無邪気な気持ちで楽しもうという姿勢の表れなのかもしれない。

 「いかれたBaby」に続いて演奏された「ナイトクルージング」の間奏ではARで大輪の花火が打ち上げられ、〈窓は開けておくんだ いい声聞こえそうさ〉という歌詞とともに、先日新型コロナウィルス感染症の終息を祈願して全国各地で打ち上げられた花火の記憶がよみがえる。オレンジ色の照明が朝の訪れをイメージさせたラストナンバー「夜の想い」では、〈明日は何があるのかね あなたは誰に会うのかね 明日は何があるのかね あなたはどこにいるの?〉という歌詞が、空間を共有することの意味を、「会う」ということの尊さを改めて考えさせられる現在の状況とリンクして、印象的なエンディングとなった。

 ライブを終えると、「INVISIBILITY」というタイトルとともに、そこには「Dedicate to SHINJI SATO」の文字が。〈人はいつでも見えない力が 必要だったりしてるから 悲しい夜を見かけたら 君のことを思い出すのさ〉という、「いかれたBaby」の一節を思い出さずにはいられなかった。

■金子厚武
1979年生まれ。埼玉県熊谷市出身。インディーズのバンド活動、音楽出版社への勤務を経て、現在はフリーランスのライター。音楽を中心に、インタヴューやライティングを手がける。主な執筆媒体は『CINRA』『ナタリー』『Real Sound』『MUSICA』『ミュージック・マガジン』『bounce』など。『ポストロック・ディスク・ガイド』(シンコーミュージック)監修。

■関連リンク
SUPER DOMMUNE tuned by au5G
渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる