ソニーミュージック、なぜYouTuber支援事業をスタート? キーマンに聞く“後発ならではの戦い方”
株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメントは、YouTubeやSNSを中心に活動する、ソーシャルクリエイター支援プロジェクト『Be』を始動させた。
ソニーミュージックは会社設立以来、多くの音楽アーティストの創作活動を支えて続けてきたが、『Be』は、同社が培ってきた育成・マネジメントのナレッジを、ネット動画での表現を中心に活動するソーシャルクリエイターに提供し、クリエイターの活躍を最大化することを目指していくという。
なぜ同社は、YouTuberやTikTokerなど、動画クリエイターの市場が成熟期に入りつつあるこのタイミングで事業を立ち上げたのか。プロジェクトのリーダーである三浦 紹氏にインタビューを行い、プロジェクト立ち上げの経緯や、同社ならではのクリエイター支援のやり方、オーディションの内容、今後の方向性について、じっくりと話を聞いた。(編集部)
「次の時代のエンタメを作る“YouTuber”をサポートするのは必然」
ーーまずは、ソニー・ミュージックエンタテインメントが動画クリエイターのサポート事業である『Be』を立ち上げた経緯について教えてください。
三浦:ソニーミュージックは音楽の会社と思われがちですが、会社全体としては、ミュージシャンに対してだけのサポートではなく、次の時代のエンタテインメントを創る人をサポートし続けるというミッションがあると思っています。もちろん、音楽を基幹事業として育ってきましたが、以前からアニメのビジネスを手掛けてもいますし、SMA(ソニー・ミュージックアーティスツ)には俳優・女優・お笑い芸人など様々なジャンルのタレントが所属しています。その一環として、次の時代のエンタメを作る“YouTuber”と呼ばれている人たちをサポートするのは必然ですし、今回このプロジェクトが立ち上がってなくても、遅かれ早かれ参入することにはなっていたと思います。
ーーでは、なぜこのタイミングに?
三浦:ここ数年では、芸能人の方もYouTubeに“進出”することが増えてきましたが、それを追いかけるように、テレビタレントさんと仕事をしていた会社も、YouTuberさんとの仕事を始めることになるはずだ、とも考えました。例えば、元々吉本にいた方(佐藤祥吾氏)がFIREBUGを始めたように。弊社はゼロからというわけではなく、社内にはYouTuberから女優を目指すめがねやVTuberの輝夜月が所属していたり、スカイピースやゲーム実況者わくわくバンドが〈ソニー・ミュージックレーベルズ〉からリリースしていました。
また、動画クリエイターを起用し、YouTubeを軸に番組を展開したオーディション「ONE in a Billion」やSNSを駆使したクリエイターがグランプリとなった「Feat.ソニーミュージックオーディション」があったりと、会社の中でもそういう感覚を持ち合わせた企画やスタッフが点在している状況でした。会社としてこれをいかにパッケージングし、事業として立ち上げるかを考えながら体制を整えていたらこのタイミングになりました。
ーー時間をかけて、ということですが、どれくらい前から構想していたんですか?
三浦:構想は2年前からありました。グループ横断のプロジェクトとして立ち上がり、新人発掘セクションからこの人、SMAからこの人、レーベルからこの人、という形で、各社にいるYouTuber周りに明るくて興味のある人たちを集めて意見交換し、ビジネスプランを考えていきました。
ーーこうしてお話ししている三浦さんが、どのようなキャリアを経て今回の事業立ち上げに関わったか、ということも知りたいです。
三浦:大学時代は中古レコード屋に通って、レーベル買いやプロデューサー買いをしたり、ほとんどのバイト代を音楽に注ぎ込む音楽マニアでしたが、心のどこかで「自分の好きな音楽はマニアックすぎて、仕事にはならないだろう」と思っていたんです。そんななかでも、CSの音楽専門チャンネル「エムオン」(当時はViewsic)で『OUR FAVOURITE SHOP』『pbs(ピーター・バラカン・ショー)』といったマニアックな音楽番組を見て「アフリカのミュージックビデオがテレビで見られるのか!」と興奮したりと、CSに一番新しい音楽メディアとしての可能性を感じ、2004年に新卒でエムオン・エンタテインメントに入社しました。最初は対音楽レーベルや一般クライアント向けの広告営業をやっていたのですが、新規事業の部門に移ったり、SHOWROOMに出向しながらメディア事業の編集長を兼務した経験を糧に、現在はSMEヘッドクオーターの新規事業担当として働いています。
ーー過去のインタビューを読む限り、エムオン・エンタテインメントでは「ソーシャル×音楽」をテーマにした動画配信プラットフォーム『JAMBORiii STATION』や、ジャパンカルチャーの海外向けメディア『YATTAR JAPAN』、『リスアニ!APP』といった事業を手掛けていたんですよね。いずれも今の時代にマッチした施策ですが、これらを2012年段階で実行していたことに驚きました。
三浦:この頃から「個人の時代が来る」とは感覚的にわかっていたのですが、会社としては“メディア企業”なので、事業体の枠に紐づくものとして「個人の力だけでできないものをやれないか」と考えていたんです。Webメディアにおいても、どれだけ書き手の名前を表に出すかという価値観がここ数年でも変わってきているじゃないですか。そのバランスをメディアの内側にいる人間として考えていたんですが、今回はソニーミュージックのヘッドクオーターとして新規ビジネスを立ち上げることになったので、メディアという制約を外した時に、クリエイター側に立つ事業をやってみたいなと思ったんです。
ーー三浦さんに「個人の時代が来る」と感じさせた出来事とは?
三浦:2008年にTwitterが始まったことが大きいかもしれません。いままでメディアを通さないと届きづらかったアーティストの声が、一気に可視化されて、普段は何をしているのか、どういう思いで曲や作品が作られているのかが、ダイレクトに届くようになったので。これに関しては、僕自身が音楽メディアをやっていたのでわかるんですが、雑誌だと、新人には1/4ページしか割けなくて、予算的にもアーティスト写真をもらうしかなくて、1時間インタビューしたのに、大幅に字数を削って誌面に載せて……という制約がありました。その枠組みがWebメディアで外れたものの、TwitterのようなSNSが登場したことによって、メディアはアーティストのつぶやきが持つリアリティに、どれだけ付加価値を持たせることができているのかと考えさせられましたし、だからこそ、企画力やメディアごとの切り口の強さ、編集者とライターの技量が問われる時代が来たなと思っていて、その辺りから“個人の時代”を意識し始めました。
ーー動画を活用したクリエイターと関わるという意味では、SHOWROOMでの経験も大きかった?
三浦:そうですね。DeNAとソニーミュージックが業務提携した2014年のタイミングで、ほぼ立ち上げ期のSHOWROOMに関わることになりました。そこで配信者の方々と仕事をして、直接的なユーザーとのコミュニケーションで価値が生まれる現場を目の当たりにしたことや、それをマネージャーやA&R的な人がサポートするのではなく、テックカンパニーとしてテクノロジーで解決・サポートする人たちと仕事をしたことで、どちら側の気持ちもわかるようになったので。あと、単純に人と人や技術をつなげるだけではなく、クリエイター側に寄り添う人も必要なんだということもそこで学びました。伸びる配信者の後ろには優秀なマネージャーさんやスタッフさんがいるということもわかって、「この本質的な構造は変わらない」と確信したのも大きいです。
ーープラットフォーム側での経験ができたことで、価値観はかなりアップデートされたと。新規事業系の部署にいた経験が長いようですが、新しいものをゼロイチで作るのが好きなんですか?
三浦:いや、新しいものを作っているつもりはあまりないのかもしれません。感覚的には、ビジネスマンとして世の中に価値が出そうなところを見極めている、という感覚ですね。この事業って、UUUMさんを筆頭に数ある企業さんが参入していて、事業として成熟期に入りかけているものなので、社内でのベンチャーマインドはありますけど、外の人からしたら全然ベンチャーでもないし、スタートアップ的なものでもないなと。今ソニーミュージックが持っているアセットで、より価値が高いものを提供するという意識で作っています。