プロゲーマー・ときどが語る、“自己表現”の重要性 「僕らが空っぽな人間だと、eスポーツはブームで終わる」
「ライバルとどこまで踏み込んで議論できるか」
――本書はゲームという絶えず変化する舞台で活躍するための思考法としてまとめられており、その特殊性も強調されていますが、5GにAIの進化と、旧来の“仕事”が大きく変わっていく分野も増えていくと思いますので、その意味ではビジネスパーソンが今後直面する悩みを先取りしているようにも思えます。
ときど:そうだとうれしいですね。僕は社会人経験もありませんし、どこまで参考になるかわかりませんが、確かに社会全体で変化が大きくなってきていると思いますので、何か参考にしていただける部分があればと。
――また、本書の中で興味深かったのは、ときどさんがリアルのコミュニケーションを重視していることです。一般に、eスポーツという最先端の分野で活躍しているプロゲーマーのイメージと、少し違っているのではと。
ときど:プロゲーマーという新しい道を突き詰めていくなかでは、高め合うべき相手と顔を合わせて、お互いどこまで踏み込んで議論できるか、ということが非常に大切だと思います。お互いの懐をえぐりあいながら議論していかなければいけない場面もありますし、例えばメールだけのやりとりだと、当たり障りのないところで終わってしまったり。また、トッププレイヤーで実際に集まって対戦をするのも重要で、対戦を見ている第三者の意見で気づかされることも多いんですよね。三人寄れば文殊の知恵じゃないですけど、多様な意見を取り入れることができるので、オンラインの簡単なコミュニケーションでは得られないものが確実にあります。
――かつてゲームセンターで自然と行われていたことかもしれませんね。実際に顔を合わせて対戦すれば、ある種の摩擦やストレスも生じると思いますが、だからこそ鍛えられる部分もあると。
ときど:そうですね。自分に何の負荷もない状態だと、僕はどんどん弱くなっていっちゃうと思うんです。自分に適した負荷やストレスを常にかける。もちろん、無理をすると潰れてしまうので、自分の許容範囲を見極めて、そういう環境に身を置くことが大事ですね。いわゆる「血の滲むような努力」を重ねたり、心に強い負荷をかけなくても、適切な環境を作ることで自然と鍛えられていきます。
あとは、自分だけが成功することを求めるより、集団で情報を共有した方が強い、というのも近年で気づいたことで。「この大会だけ勝てばいい」という状況だったら、周囲のプレイヤーとコミュニケーションを取らず、仕込んできたネタ一発で倒しきるという短期的な戦略もあり得ますが、いまの格闘ゲームは通年で活躍する必要があるので、より地力が問われます。地力を上げるには、バレたら終わりのネタを見つけようと必死になるより、オープンな環境で切磋琢磨した方がいい。これはゲームだけでなく、社会全体にも言えることなんじゃないかと思います。つまり、「ネタ一発で、周りにキャッチアップされたら終わり」というビジネスモデルでは、長く続かないことが多いというか。
――本のなかで「ライバルは『敵ではない』」という言葉で示されていることですね。ときどさんが行き詰まったときに、その都度「やり方が間違っていた」ことに気づけているのがすごいと思うのですが、何が要因でしょうか。
ときど:僕は周りの人に助けられたと思いますね。だって、大会で負けたときに、ボン(ボンちゃん)とかにめちゃくちゃキレられましたもん(笑)。プレイヤー同士で、そんなことまで言う?というくらい、踏み込んだことを言ってくれて。この年になると本気で怒ってくれる人はなかなかいないですし、そういう人が周りにいるのは本当に大きいなと。気づくというより、気づかされる、というか。
――ボンちゃんさんもそうだと思いますが、ご自身とはまた違う考え方で競技に臨んでいるプレイヤーで、尊敬する人を挙げてもらえますか。
ときど:たくさんいますよ。例えば、かずのこ(※Burning Core所属のプロゲーマー。『ギルティギア』『ブレイブルー』、『ストリートファイター』など、多くのシリーズでトップクラスの実力を持つ)。すごいセンスの持ち主で、攻略が早いし、僕はマルチタイトルから『ストリートファイター』一本に絞ったのですが、彼はずっと多くのタイトルをプレイしながら、トップに食らいついていて。eスポーツ化という流れのなかで、各タイトルにスペシャリストが出てきているなかで、本当にすごいことです。
あとは、ももち(※プロゲーマーで、株式会社忍ism代表取締役。妻はプロゲーマーのチョコブランカ)も僕とはまったく違う方法論で、真似できないなと思います。オフの練習会には全然来ずに、頭の中でプレイを構築するんですよね。さらに、オンラインであまり密にコミュニケーションを取らないプレイヤーを相手にそれを試して、磨き上げて、実戦に投入する。それであそこまでの結果を残すんだから、やっぱりすごいです。
こうやってそれぞれのスタイルがあるので、僕のやり方だけが正しいとはまったく思っていなくて。ももちの例でいうと、僕は単純に対戦会が楽しいんですよね。仕事とは言え、楽しくないと続かないので。
――さて、“eスポーツ元年”と言われた2018年を経て、2019年は大きな動きがいくつもありました。ときどさんにとって、どんな年でしたか?
ときど:格闘ゲームのシーンで、「盛り上がりが来るぞ」と言われて3~4年経っていたなかで、「いよいよ来たな!」と思ったのが2018年でした。それを引き継いだのが2019年で、いろんなことが起こりましたね。業界団体もできていって、ただ盛り上がるだけではなく、環境が整備されていくのを感じました。いろんな議論がありましたし、立場や考え方の違いで摩擦もあったと思うんですけど、次のステップのために必要なことだと思っています。
――白熱した試合が展開された『ストリートファイターリーグ』や、2020年の東京五輪に合わせて開催される「Intel World Open In Tokyo 2020」も含めて、ファンとしては楽しみなチーム戦への関心も高まっているように思います。この点についてはいかがでしょうか?
ときど:『ストリートファイターリーグ』でいうと、ただ強いプレイヤーを集めてチームを組むのではなく、ドラフト制という一味を加えてくれたおかげで、考えさせられることが多かったですね。おかげさまで、僕がチーム戦に向いていないことも分かったというか(笑)。(※ときど・ガチくん・はくの3プレイヤーによる『トキドフレイム』は、善戦しながらも6チーム中最下位の結果だった)僕も含めて、各チームのリーダーはゲームセンターで叩き上げられた世代で、僕らはドラフトで選ぶプレイヤーに対して、実は教えられることが山ほどあるんだということに、負けて気づかされました。成績がいいチームの若手は、リーダーやチームメイトから学んで、のびのびプレイすることができていましたし、大会中に成長していて。その差が出たように思います。僕たちがちゃんと経験を伝えないと、結果として前に進めないという、シーンを活性化させる上でも、とてもいいルールだったと思います。上から強い人を3人選ぶ、という形ではこうはならないと思うので。