プロゲーマー・ときどが語る、“自己表現”の重要性 「僕らが空っぽな人間だと、eスポーツはブームで終わる」

プロゲーマー・ときどインタビュー

 東大卒プロゲーマーとして、日本のeスポーツシーンを牽引する「ときど」がこの12月、2冊目の著書となる『世界一のプロゲーマーがやっている 努力2.0』(ダイヤモンド社)を上梓した。順調だったプロゲーマー生活で大きな壁にぶつかり、それまでの考え方を一新したときど。「誰よりも早く正解を見つけて、先行者利益で勝利を重ねる」という従来の手法はなぜ行き詰まり、そのなかで自身をどう変化させていったかが詳述されており、プロゲーマーを目指すプレイヤーはもちろん、ビジネスパーソンにも参考になる知恵が詰まった一冊だ。

 リアルサウンド テックでは、そんなときどを直撃。本書を書き上げた経緯から、eスポーツがブームから一歩進んだ2019年の振り返り、そしてさまざまな意味で節目の年となる2020年の展望まで、じっくり話を聞いた。(編集部) 

【※記事の最後に、ときどさんのサイン入りチェキプレゼントあり】

「プロゲーマーが空っぽな人間だと、eスポーツはブームで終わる」


――ドキュメンタリー番組『情熱大陸』(TBS系)でも、空手の稽古や周辺視野トレーニングに通う様子、ベッドしか置いていない部屋の光景が取り上げられましたが、ときどさんにはストイックなイメージがついて回ります。そのなかで、「努力」というものを論理的に分解し、“苦しいもの”というイメージを刷新する内容にインパクトがありました。あらためて、なぜいま「努力」というテーマを設定したのか、というところから教えてください。

『世界一のプロゲーマーがやっている 努力2.0』

ときど:前作の『東大卒プロゲーマー 論理は結局、情熱にかなわない』を出したときは、自分を客観的に見る余裕がなかったので、自分が生きてきた経験をとにかく全て詰め込んだんです。ただ、本を出す、という機会をいただけたことで、それが自分を見つめ直すきっかけになって。そのなかで、周りの人にも「ときどというのはどういう人間なのか」ということを聞いてみると、おっしゃるように「努力している」とか「ストイックだ」というイメージが強かったんですよね。

 それで、今回執筆のオファーをいただいたときに、「努力」というものをテーマにすると自分らしく表現することができるのかなと。ただ、“うさぎ跳び”のような苦しい努力は時流に合いませんし、僕自身も無理してやっているという感覚はないので、それを「無理せず努力する」というノウハウとしてまとめられればと考えました。

――配信などで断片的にお話しされていたことが、無理なくメソッドに落とし込まれていて、説得力がありました。前作と比較しても編集が利いていて、ゲームに関心がない人も参考になる一冊になっていますね。

ときど:そうですね。編集さんとのやりとりは貴重な経験でした。自分自身の意見、伝えたいことは持っているんですが、表現力が豊かな方ではないので、助けてもらいながらうまく整理できたと思います。

――本の中でも「人に説明すること」の重要性が示されていましたが、執筆に向けた話し合いの中で、考え方が整理された部分もあったと。

ときど:そうなんですよ。前作も、あまり語りたくない過去も全部吐き出したことで、自分を見つめ直すいいきっかけになりました。それまで本当に真剣にゲームに取り組んできた人たちがいて、自分はまったくそこに及んでいなかったんだ、という気づきがあって。やっぱり、本を出すというのは本当に貴重な経験になるんだなとあらためて実感しています。今回、自分の考えをきちんと言葉にできてよかったなと。


――本作では、かつてのときどさんが考えていたことと、「失敗」を受けて大きく変化した現在の考え方が詳述されています。前作の刊行から5年、格闘ゲーム/eスポーツというシーンも大きく変わりましたが、それを受けて変化した部分もありましたか?

ときど:ありますね。僕はどちらかと言うと、環境の変化にさらされてから、そこに対応する対処療法的な性格なんです。でも、本当はそれでは遅いくらいで、もっと昔からこの業界を見ている人たちのなかには、いまの状況を予見していた人もいて。「今後、対戦ゲームはより社会的に認知される流れになる。そのとき、トッププレイヤーに何も主張がなくて、空っぽな人間だったら、ブームで終わってしまうだろう」と。そのときのために準備しておいたほうがいい、というのは、直接でなくても言ってもらっていたんですよね。よく当時から、そんなことが予想できたなって。僕はもともと特に主張とかはなく、ただ「ゲームに勝てれば楽しい」というだけだったんですけど、そういう観点があるんだということを気づかせてもらっていたので、準備することができていたのが大きかったと思います。

――プロゲーマーのパイオニア・梅原大吾さんもそうですし、“見られる仕事”だということを念頭に体を絞った2019年EVO(※ラスベガスで行われる世界最大規模の格闘ゲーム大会)覇者のボンちゃんさんもそうですが、“ゲーマー”についてまわりがちなネガティブなイメージを払拭しようと努力してきた経緯がありますね。

ときど:そうですね。そんななかで注目していただく機会が増えて、なんとか「間に合った」かなと思います。一方で、ただクリーンなだけでなく、ゲーマーらしい面白おかしい経験もしっかり活かしていかなければと。いまは若手にいいプレイヤーがたくさんいますが、彼らはゲームセンターで揉まれた経験がなく、ゲームをやっていることを隠しながら、それでも熱中していたような青春時代を過ごしたわけでもないので、自分がプロゲーマーとしてどうあるべきか、ゲームとどう向き合うべきか、ということについて深く考えるための材料が少ないと思うんです。僕にアドバイスをくれた上の世代の人たちは、格闘ゲームが冬の時代にそれでもプレイを続けていて、だからこそ「シーンがもっとこういう状況だったら、自分はこうするのにな」って、理想的な未来とそのなかにいる自分を想像したんじゃないかと。自分はまさにその未来にいるので、きちんとゲーム/ゲーマーの面白さを発信していかなければと思います。

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