mabanuaが古賀健一&村田研治と考える“スタジオの音作りに欠かせない要素”「身体で感じるローの部分が重要」

mabanuaと考える“郊外スタジオ”の利点

「理詰めである程度のところまで行って、最後に印象で決めるのはいい」(古賀)

――mabanuaさんが手掛けた音楽だと、まさに今回のOvallのアルバムがこのスタジオに移って以降の作品ですよね。

mabanua:そうですね。シングルカットの曲含め、このスタジオが出来てから完パケしていて、Mixは全部ここでやりました。

Ovall『Ovall』

――コンポーズとMixをやるときでは、音の聴き方や気を付けるポイントが違うと思うんですが、Mixをやってみて初めて気づいたことは?

mabanua:しいて言うと、オーディオ的な気持ちいい音で、「あーいい音でドラムが録れた!」なんて聴いている部分も、実はこっちでいい音が鳴っているだけで、実音はもうちょっと淡白な音だったりするのが難しかったです。エンジニアの方は、そこをうまくバランスとってやってるんだな、と改めて勉強になりましたし。

村田:今の話って、たとえばカーテンをひけるようにしておけばベストです。ドラムスの音を録るときはカーテンをたたんで楽しい響きごと音を録る、ミックスするときはカーテンを広げて少しつまんない音にして楽しい音を追求する。

古賀:高域特性に対してはそれで大丈夫だと思います。先日作った渋谷のスタジオは、ブースの壁近くに全部カーテンをひいて、歌のときは閉めて、ドラムの時は開けて、管楽器の時は開けてと、調整できるようにしました。基本的に設計が絡んでくる部分は、一度作っちゃうとなかなか変えられないですから、あとで調整出来るようにします。

村田:カーテンの厚さで落とす周波数を変えられますからね。オーガンジー素材(透明で薄く、ハリのある平織綿布)みたいなものを使えば、7000Hzみたいな高い所だけを落とせるし、厚地にすればもっと下から効くから、それを2枚くらい入れておいてもいいかもしれない。

Ovall - Come Together [Official Music Video]

――逆に吸音すると、ハイが落ちていくじゃないですか。それがデメリットになってしまうことはあるんですか?

村田:まず楽しさが減るでしょ。オーディオ再生にはデメリットですね。Mixは逆で楽しい音にしようと努力できる。楽しい音は楽器の実音の周波数特性より楽器の音にまとわりつく反射音や残響音の周波数特性に支配力があります。6000~7000Hzの響きを増やすと楽器の音に躍動感が付くので、オーガンジー素材でそこを減らしてMixする手があるでしょうね。

古賀:一つだけ注意しなきゃいけないのは、ハイ上がりのMixになることです。でも、デッドにすることで空間がタイトになるから、Mix的にはある程度デッドな方が多少空間系の音作りをしやすいんです。

村田:実音のハイ上がりEQは注意した方がいい、響きはハイ上がりの方が気持ちいい。

村田研治氏

ーーそうやって議論しながら、スタジオをアップデートしているわけですね。

mabanua:最初の調整が終わった後は「すごくいい!」って思ってたんですけど、耳が慣れてきたのか、色んなリクエストが出るようになって(笑)。

古賀:最初にmabanuaさんには「多分、この辺が気になってくると思う」と伝えていて、まさにその通りになりました。でも、それってmabanuaさんにエンジニア的視点があるから気づけるポイントだと思います。

――詳しく教えてください。

mabanua:前の家だと、スピーカーに近いところで聴いてたんですよ。今はスピーカーも大きくなったこともあって、距離を取るようになったんですけど、可能なら直接音を聴いているくらいの音の近さを感じたいな、とか。

古賀:中域より上の音をどう感じるか、というところでしょうね。

mabanua:だいぶデッドにしたんですが、反射が少しばかりあるので、そのせいじゃないかという結論になっています。でも、都内の別のスタジオに行ってみたら、全然こっちのスタジオの方がよかった(笑)。卓の机が鳴っちゃってるなーとか、いろんな部分が気になるようになって。

古賀:ディレクターデスクも卓のデスクも振動しますからね。それに、利便性のために机を大きくすると、どうしても天井との反射も出てきたりしますし。

村田:そういうテーブルって表面が一枚板だと思うんだけど、あれに割りを入れたらどうなんだろう。

古賀:スリットを入れるのはありですね。でも、音楽作家だと鍵盤がどうしても必要ですからね……。ハードウェア多めのスタジオもありますし、エンジニアでも音を突き詰めるために最小限でいいという方と、カッコいいスタジオがいいという方の二つに分かれるので、基本的にはメリットとデメリットを説明して選んでもらいたいところですね。

古賀健一氏

mabanua:お二人は、こうやって選択肢を与えてくれるのが良いんですよ。

村田:エンジニア同士だったら、自分の頭の中にイメージがあるから話せるけど、建築屋さんは分からないよね。

古賀:できた後も微調整をすることは中々ないですし。高いお金を払えば、大工さんを呼んで、壁を引っぺがして、もう一回やりなおす、みたいなことになるんですけど、今はその予算もないので。村田さんのSALogicのパネルが良いなと思うのは、そういう部分をフレキシブルに変えられるからなんですよ。「ここに置いたらどうなる?」とか、逐一考えて置いてみて、良かったら採用するし、違ったらやめるということができる。

mabanua:僕がSALogicに惹かれているのは、パネル一つひとつの使用目的や意図が明確だからなんです。他のメーカーだと「高域をのびやかに鳴らします」みたいなものが多いんですけど、SALogicは「200Hzから下に効きます」みたいな書き方をしていて。印象であっても良いとは思うんですけど、個人的には数値としてしっかり見ていきたいんですよ。

村田:印象でいくと、時間が掛かってしょうがないですよね。理詰めでいかないと。

古賀:理詰めである程度のところまで行って、最後に印象で決めるのはいいんですけどね。

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