空間演出ユニットhuez「3.5次元のライブ演出」第三回(mae 編)
Maison book girl、ワンマンの世界観はどう作られる? 空間演出ユニットhuezの『Solitude HOTEL』作り方解説(前編)
ホール公演の可能性を探った5F
ーーひと月後の6月24日に日本青年館で「Solitude HOTEL 5F」が行われました。
としくに:僕の5Fのテーマは「ブクガなりのホール公演」でした。4Fとか4.9Fはストーリーが強かったから、極論ライブハウスでもホールでも同じことができるんですよ。でも「5F」ではせっかくホールでやるんだからというところにフォーカスして作りました。もちろんとんがってる演出も一部入れつつですが、ブクガの範囲内でホールライブをやろうと。セトリをみて、曲の盛り上がりを考えて……っていうベタな考えで作ってます。
YAMAGE:特に2ブロック目はコショージさんから「huezゾーン」って呼ばれてた記憶があります。「お試し演出しまくってください」みたいなことを言われた。
としくに:ステージ上の色味とかは暗いし、照明も「もろブクガ」なんですけど、作り方としてはかなりベタベタの構成だったと思います。途中で変化球を投げて、MCで喋って、アンコールやって終わり、みたいな。5Fでは前述のとおり初めて舞台監督の方が入ってくださったんですけど、アーティストから要望をヒヤリングして、実現可能性を見て舞台監督に返事をするのが僕なので、舞台監督からすると「演出家」は僕になるんですよね。結構勉強することが多かったです。
YAVAO:サクライさんが、4.9Fでうちから紹介したハラタさんのOHPをすごく気に入ってくださったんですよ。それで5Fの最初のブロックは全部OHPでやることになりました。OHPゾーン、huezゾーン、オチが照明、とゾーン別にまとまってる綺麗な公演でした。「huezゾーン」では「sin morning」と「rooms」で背景映像を使ってモーショングラフィックを使った音ハメをやってます。
としくに:これもhuezならではの演出なんですが、細かい音ハメをするために、専用のクリック音が入った音源をサクライさんに用意してもらってます。それをTouch Designerっていうソフトウェアで解析して、クリック音をトリガーにして背景の白線が切り替わっていく、というVJを作りました。実はhuezでVJ素材をゼロから作ったのは「5F」が初めてなんです。
YAVAO:それまでは既存の映像をサンプリングしてVJしていたんですけど、この時Touch Designerっていうソフトのパワーに気づいて、ゼロから作りました。このソフト、一度ざっくりビジュアルを組んだら、そこから音に反応する速度を変えたり、表示する図形を四角から線にしたり、その場でザクザク組んでいけるのがすごく便利で、「5F」以降は ブクガ以外のLiveでもこの技法を使ってます。リアルタイムで出力できるので、その場で映像を取り込んでエフェクトをかけて表示する、とかもできます。
先端技術への造詣をもって全く新しいライブ演出の可能性を提示しつつ、現場での緻密なやり取りによって舞台を成立させていく。huezの真摯な姿勢が制作シークエンスにも現れていることがわかる取材となった。Solitude Hotelはhuezの可動域を使い切ったワンマンライブだといえるだろう。後半では、追加公演を含めたら異例の3公演開催となった2018年12月開催の「Solitude Hotel 6F hiru/yoru・yume」、そして2019年4月に人見記念講堂で行われた「Solitude Hotel 7F」の事例に迫る。
(取材・文=白石倖介/画像提供=huez)
〈huez紹介〉
■としくに
ステージディレクター・演出家。渋都市株式会社代表取締役市長。演劇領域での舞台監督や、メディアパフォーマンスの「インターネットおじさん」などの活動を経て、2016年に渋都市株式会社を設立し、代表取締役に就任。「笑い」と「ホラー」をテーマとして、既存の枠組みを越えた映像・空間演出のディレクションを手掛ける。
■ YAVAO / 小池将樹
VJ・LJ・ステージエンジニア。「身体的感覚の混乱」をキーワードに、デジタルデバイスやゲームシステムの企画・制作をおこなう。2011年にhuezを立ち上げた人物でもあり、現在は、huezのライブ演出の中心人物として、レーザーやLEDなどの特殊照明のプランニングおよびエンジニアリングを担当している。
■YAMAGE
テクニカルディレクター・オペレーター。2015年よりアーティストユニット・huezおよび渋都市株式会社に所属し、レーザーデザインおよびオペレーションを主軸に活動。「目に見える音」を表現し楽曲の世界観を拡張したレーザープログラミングと精密なオペレーションを得意とする。