空間演出ユニットhuez「3.5次元のライブ演出」 tofubeats『RUN』release partyの仕掛けを解説(後編)

 tofubeats『RUN』releas party 演出解説【後編】

 空間演出ユニットhuezによる連載「3.5次元のライブ演出」。テクノロジーの進化に伴い、発展を遂げるライブ演出は今後どのように変化していくのか。同ユニット・としくに(ステージディレクター・演出家)に、最新事例を通して、先端技術のその先にある、ライブ体験のより本質的なキー概念について語ってもらう。

 前編に引き続いてのケース・スタディ「tofubeats『RUN』release party」(恵比寿LIQUIDROOM)後半は、「14枚のディスプレイでのVJ環境」という高度なエンジニアリングから、「ゲームデザインとメディアアート」といったhuezのチームとしての特異な背景にまで、同ユニット・YAVAO(VJ・LJ・ステージエンジニア)の「Planning Note」を元に、さらに踏み込んでいく。

「tofubeats『RUN』release party」(恵比寿LIQUIDROOM)Photo by Jun Yokoyama

前例のないシステムを実装する

 今回の “14枚のモニターでVJをする” という環境は、huezでは初めての組んだシステムです。普段VJは映像作家さんと連携することもあるので、絵の力で見せることが基本なのですが、もちろん今回もグラフィックに力は入れてはいるのだけど、そうではなく、その絵を出す、出力先にこだわる、という意味で普段とは異なるやり方をしました。

  “VJ担当とエフェクト担当で分けてVJをしていた” とYAVAOの言葉にありました。VJ担当は、14枚あるディスプレイに出す映像をつくって選んでいる人間。エフェクト担当は、VJ担当が選んだ映像を、例えば14枚を大きな1枚として出すか、14枚それぞれに出すか、左から右に出すとか、ランダムに点滅させて出すとかを判断する人間です。

 投影する映像自体は、完パケした映像(完全に1曲に合わせてつくられた映像)と、5秒・10秒のループ映像(その場で素材を選んでVJをする)とを用意しています。いわゆる完パケした映像は、決まった曲で出す映像で、5秒・10秒のループ映像は、現場で音を聞いて、その瞬間々々に合わせて、いちばん良いものを出すための映像です。後者は、huezがクラブでVJをして培ってきた手法です。クラブってDJさんがどんな曲を流すか分からないから、素材の決め打ちができないんですね。今回は、その2つの手法を使い分けていました。

機材システム図

エンターテイメントとして舞台美術を仕立てる

 ライブ演出って、どうしても現場に入って、現場で出してみないと分からない、というのがあって、ある程度の臨機応変はつきものです。これはどんなに計算したところで、当日にやっぱりここは引いて、もっと押してとか、このネタは止めようとか、その場で合わせる、というのは必ず起きるんです。

 今回のライブで、tofubeatsはいろんな機材を扱っていて、いろんな楽器をいろんな形で演奏しています。かつ、YAVAOはこの機材や楽器の量に対して的確にやりとりができます。例えばその音から出る信号を使って効果を作るケースもあるのですが、それを使うかどうか、という判断がすぐにできる。tofubeats本人も、音楽という意味ではすごくエンジニアリング能力の高い人だから、今回のプランニングは、YAVAOを中心に組んだ方が技術的な知識の面でも噛み合うな、という判断がありました。

 例えば、YAVAOは、VJ・電飾・照明・レーザーという複数のシステムを、ひとつのシステムに連結する、というのを得意としています。今回で言うと、映像を出すVJとエフェクトのVJの2人が立っているけど、これは一つのシステムで回っているんです。また、14枚のモニターが出てて、そこにレーザーが当たると映像が出る、という前編で紹介したギミックがあるんですが、そのギミックも最終的に一つのシステムで管理されています。

 お客さんはどうしても演者の顔を追いがちですが、tofubeats自体はどちらかと言うと、そんなに自分が前に前に出る、というタイプのアーティストではないと思っています。なので、ずっとtofubeatsの姿を照明がピカピカ追いかけているというのではなく、オノマトペ大臣やPUNPEEといったゲストボーカルを迎えながら、音も含めた空間全体をtofubeatsだと捉えて、tofubeatsの顔を見せつつも、全体を見せるというのが、tofubeatsのアイコン性の見せ方なんだと思います。

舞台プラン図

他文化をライブ演出に応用する

 僕から見て、YAVAOは、特にゲームの ”体験感” から影響を受けているなと感じます。ゲームって、仮想空間にどれだけ臨場感があるか、つまり何もない場所、何もない空間に、新しいリアリティや体験をつくるもの、といえると思います。

 これをライブハウスに当てはめてみると、ライブハウスはただの箱なので、何もない場所。そこに音楽が重なって、光が重なって、お客さんが盛り上がる体験空間に切り替わる。これがYAVAOのなかでゲームと連動してるところなのかなと思っています。いま、音楽でも「音楽+その空間自体」を体験させるフェスの形式が増えていますよね。huezは光を使うクルーがたまたま多いのですが、もし火を使う人間とか、水を使う人間がいたら、YAVAOは平然と使うと思います。

 次に、メディアアートって、ありとあらゆるシステムやメディア、テクノロジーを使って、作品を作ったり、表現をする分野なんですね。だからメディアアートって、アウトプットの形が何も決まっていないんですよ。

 そういう意味で、huezの「フレームの変更」というコンセプトは、特にメディアアートの影響を受けてるのかなと思います。例えば出力の仕方を変えちゃおう、今回でいうと、モニターを14枚使おう、なんていう発想は、メディアアートをやってる人じゃないと出てこないものだと思いますね。ほかにも、これまでやった演出でいうと、照明灯体を小道具という扱いに切り替えて、アーティストに持たさせて振り回させる、みたいな。これって照明という道具の使い方の、出力の仕方を転換しているんですよね。

 YAVAOは、「モチベーション」という言葉を結構使ったりするんですけど、例えば、レーザーが出た瞬間、照明が出た瞬間、映像でも歌詞が出た瞬間とか、そのときに、お客さんのモチベーションが変わって、盛り上がったり、盛り下がったりするわけですよ。YAVAOは、自分が実施したプランによってお客さんが変動するのが楽しいんだと、よく言っていますね。

Photo by Jun Yokoyama

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