Maison book girl、ワンマンの世界観はどう作られる? 空間演出ユニットhuezの『Solitude HOTEL』作り方解説(前編)

ブクガワンマン、裏側徹底解説(前編)

技術屋とアーティストの間で空間を彩る

ーーMaison book girlのプロデューサーであるサクライさんが舞台演出についてジャッジをする一方で、現場の照明さんなんかは「Cueシートありき」みたいな面もあり、大変そうです。

としくに:現場での僕は翻訳家に近いです。照明に関してはYAMAGEが話してくれることが多くて、僕はおおむね舞台監督や大道具の方とやり取りしています。

YAVAO:4Fに関してはコショージさんとサクライさんが演出アイデアをたくさん持っていたので、僕らはそれを成立させることに徹してました。強いていえば後半、ノイズの中でメンバーの衣装がどんどん変わっていくシーンがあるんですけど、そこの演出がちょっと浮いていたので、「大量にストロボを設置して影が出るようにする」というプランを提案したくらいだったと思います。テクニカルとして全力で関わった印象ですね。

としくに:逆に言うと、ブクガが1~3Fの間で持っていた演出アイデアを僕らがテクニカルで表現した、というような関係性でした。ライブの内容に対してコミットすることは4Fの時点ではほぼなかったです。結構ノリもスタッフに近かったというか、業者っぽかったですね。僕が通訳担当で、YAMAGEとヤバでネタをたくさん作って追いつかせる、みたいな。

YAVAO:「時計」をね、成立させなきゃいけなかったので……。

ーーライブ後、ファンの方の反応などは見られましたか?

としくに:僕はエゴサをよくするので(笑)。4Fの時はサクライさんの作った仕掛けに対してお客さんがとても驚いていた印象ですね。きょとんとして、拍手していいのかもわからないような状態。で、お客さんの反応も賛否両論までは行かなかったですけど、びっくりしていて。あのライブ後から、「考察するファン」がとても増えたと思います。

YAVAO:のちのちになって、「4Fを超えた」とか「4Fと比べて〜〜」みたいな比較をよく目にするようになって、それくらいインパクトのある体験だったんだろうなと。ブクガのライブのフォーマットとしてああいう演劇的なアプローチがあるという。ライブの最後にコショージさんが「これがMaison book girlです」って締めたのも象徴的でした。

ーーその後、年が明けて2018年5月4日に「Solitude HOTEL 4.9F」が行われました。

YAVAO:4.9は「再演やります」みたいな形でお声がけいただいて、4Fの続きのような世界観で、引き続き演出に入ってます。

としくに:「今後もお願いします」って言ってもらえて。

YAVAO:信用してもらえたよね。

としくに:どんな現場でも相性って絶対あるし、ブクガはすごく特殊なアーティストで、例えば仮に僕らが全員ステージ演出を出来ない状態になった時に、「huezチームの代わりに演出できる人を紹介してください」って言われても、ブクガに関しては絶対無理です。やっていることが特殊すぎるし、かなり深いレイヤーで一緒に仕事をしているので。僕らはテクニカルに明るい技術屋的な面も持ちつつ、アーティストとして仕事をしている自負もあり、「一緒にいい作品を作る」というような、バンドメンバーと変わらないくらいの責任感で制作に携わってます。だから例えば「新しいバンドメンバーを募集します。合う人いますか?」って言われても答えられないですよね。「業者ならいるけど……」みたいな。

YAVAO:4Fで思ったこととしては、Maison book girlは解像度の高い質感を表現したいアーティストなんだろうなって。だから4.9FではVJにオーバーヘッドプロジェクター(OHP)という投影機材を使いました。透過素材に強い光を当てて、レンズで投影して像を作る、昔の学校の視聴覚室などにあった機材なんですが、その上にアクリルケースをのせて水を流す、みたいな表現を提案しています。

OHP。下部の台座が光源になっており、それを上部のレンズから壁に投影する

としくに:VJの世界に「OHP使い」っていう界隈があって、多分日本全国で20人くらいだと思うんですけど(笑)、そこにハラタアツシさんというOHP専門のVJプレイヤーが居て。

YAVAO:日本で5本指に入るくらいの方で。前々から知り合いだったんですけど、絶対ブクガにはハラタさんが合うなと思って4.9Fでアサインしてもらったんです。

としくに:OHPって、透過した物体をレンズで壁に投射する機材なので、「解像度」っていう概念が存在しないんですよね。フルハイビジョン投影とか、デジタル機材と像を並べてみるとよく分かるんですけど、もう質感が全然違う。その場にリアルなものが映っているっていう。お客さんには「今解像度が変わった」みたいには伝わらないと思うんですけど、でも「何か明らかに質感が変わった」って気づく。これはハラタさんしかできないことで。あと、水とかインクなんかを投射するんですけど、本当に現場で生でやっているので「同じ像」は撮影でもしない限り二度と見られない。でも撮影しちゃったら面白みも何もなくなっちゃうので。そういう意味で体験として強い。

YAVAO:それで、4.9Fのときはストーリーとか、一連のセットリストはサクライさんからもらったんですが、ライブ後半の演出はhuezで決める部分が多かったですね。

YAMAGE:4.9Fは2部構成だったんですよ。10曲目までが前回の4Fをなぞった構成になってて、そこから先は演出がガラッと変わる。その10曲目以降の演出を割と丸ごとやらせてもらえることになったので、レーザー入れる場所を決めたり、OHPをアンコールで入れたり、YAVAOがプランを詰めて行きました。「レインコートと首のない鳥」でハラタさんのOHPが初お披露目になって。あと、「言選り」にレーザーの演出を入れたのもこのライブが初めてで、割とhuezの色を出せたライブだったと思います。

としくに:「huezなりにブクガを表現してもいいよ」というようなパスを渡された印象です。だからハラタさんのOHPもご提案できました。「faithlessness」では「もしもブクガが普通のアイドルグループだったら」っていう照明プランも試して、だから超カラフルにしましたね。あとは「音ハメの限界値」みたいなのをずっと作ってました。

YAVAO:キネマ倶楽部がそこまで電源の容量がなくて、そんなに照明がつけられないよ、ちょっと困った!ってのもあったよね。

としくに:4Fから引き続いて課題だったのは、アーティストと舞台制作スタッフの翻訳の部分でした。アーティスト本人の言葉を生でスタッフさんに伝えても理解してもらえなかったり、スタッフさんの言葉はアーティストからするとネガティブな意見に聞こえたり、そこのコミュニケーションの齟齬を埋めるのは僕の仕事だな、と思っていて。今ではサクライさんにも「こういう言い方をしてくれれば分かりやすいです」とか、「僕はこういう伝え方しますね」って都度伝えていくことで齟齬はどんどん埋まって来ているんですが、それが4F〜4.9Fではすごく多かった。4.9が終わった段階で次(5F)の舞台が日本青年館だとは聞いていたので、「日本青年館のキャパでやるなら舞台監督入れないと無理です、回せません」ってお願いしたんです。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる