>  > アジカン後藤に聞く“バンドと低域の関係”

連載:音楽機材とテクノロジー(第二回)後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)

ASIAN KUNG-FU GENERATION 後藤正文に聞く ロックバンドは“低域”とどう向き合うべきか?

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「日本のエンジニアの方がこういう音を作るの得意なんじゃないか」 

ーーそうですね。それを踏まえてもう一回『ホームタウン』に関しての質問をしたいと思うんです。というのは、サウンドの構成、低域に関しての意識が変わったら、当然ソングライティングが変わってくるんじゃないかと思うんですね。90年代のパワーポップを今のサウンドメイキングでどうアップデートするかという発想以外にも、曲の作り方自体を変えてしまうという。たとえば「UCLA」という曲にはそういう発想を感じるんですけれど。

後藤:そうなんですよ。でも「UCLA」ってかなり最初のほうに作った曲で。だから、あの段階では、たとえば完全にトラップに行く選択肢もあったんです。簡単に言うと。あの曲はもともと僕がトラップみたいなハイハットを打ち込みで作っていて。でもそれをやめて、(伊地知)潔の生のハイハットをサンプリングして作ってる。あの時点ではまだ迷いがあったんですよ。そもそも最初はアジカンの新作は“プレイリスト”に向かってたんです。Rivers Cuomo(Weezer)ともやるし、Grant Nicholas(Feeder)ともやるし、いろんなロックの人と一緒にやって、プレイリストを作ろうと思ってたんですよね。

ーーじゃあ、いろんな紆余曲折があったんですね。

後藤:そう。最初のアイデアは全然違ってた。アルバムのタイトルも、そのまま「プレイリスト」だったんです。でも、そうしたかったのは、シングルワークをどうにかしなきゃいけないってのもあったんです。タイアップの仕事も引き受けてやっていて、それをアルバムに入れてくださいという話になると、コンセプトを絞れない。そうなると、プレイリストを作る以外にない。だからプレイリストに向かってたんだけど、『Wonder Future』を作り終わったときのファーストインプレッションでは、「次はパワーポップをやりたい」と思ったんです。だからそこの時点で引き裂かれてて。

ーーそれはベスト盤を出す前のことでした?

後藤:前ですね。そうしたらアルバムが間に合わなくて、ベストが出るということになって、シングル曲をベスト盤に入れることでその問題が片付いちゃったので、もう一回コンセプトを立て直して、そこから曲を書き直して『ホームタウン』を作ったんです。

ーーなるほど。ということは「UCLA」はむしろプレイリストを作ろうという発想で動いていた時点の曲だった。その後に「パワーポップをやりたい」という今回のアルバムのタームの原点に回帰したということだったんですね。

後藤:そう、それはサウンド的にローエンド問題がなんとかできるし、今までロックの人達が誰もやってないやり方でロック・アルバムが作れると思ったからなんです。もともとは、生音のドラムとベースを諦めるとか、ヒップホップのやり方を持ってくるか、とにかく今までのロックのやり方を一回全部捨てないと新しいロックはできない、みたいな考え方だったんですけど、それって、別に僕がソロでやればいいだけの話だなと。そうじゃなくて、アジカンの音が変わんないとダメだ、って思ったんです。

ーーあくまでバンドサウンドをアップデートすることを考えた。

後藤:アジカンのオーセンティックなやり方で音がアップデートできなかったら、もうどうやってアジカンを続けていっていいかわかんなくなるんじゃないか、という考えにもなったから。そういう意味で「ロックバンドを諦めない」っていうことを一回ブログにも書いたんですけど。今回はそれがテーマでしたね。このメンバーでどうやってサウンドをアップデートしようか、という。

ーーなるほど。そう考えると、こうやってアジカンが音のいいロックアルバムを作ったのは、下の世代に与える影響も大きいかもしれないですね。「音がいいってどういうことなんだろう」みたいに考えるきっかけになるかもしれないと思いました。

後藤:このアルバム以降が一つの区切りになるだろうと思って作ってました。2018年一番のアルバムを作ってるつもりでやってたんですよ。もちろん、曲に対する評価はいろんな視点があるから、何が1位かっていうのはそれぞれだけど。ロックバンドとして一番良いサウンドのアルバムを完成させたいという野心があった。で、今回のこのやり口は誰もやってないんじゃないかと思った。雑誌とかの年間ベストとか全部1位だろう、それくらい評価されるだろうなと思ってやってたけど。全然1位じゃなかったよね(笑)。

ーーこれは正直、すごく意味のある作品だと思うんです。アジカンがこれを作ったことによる日本のロックの土壌への貢献もあるかもしれないし、この音の出し方っていうのは、すごく面白いと思って。

後藤:そう、だから、柴さんに「針の穴を通す」って言ってもらって、軒並ランクに入ってなかった気持ちが報われたというか(笑)。やっぱりロックバンドでも音響を諦める必要はないしね。

ーー具体的には、どういう風に低域を出したんでしょう?

後藤:これはまず、単にローを上げても出るわけじゃないから。ちゃんと整理してますね。

ーー音域をちゃんと整理する。

後藤:そう、コントロールしないといけない。ただボリュームを上げるんじゃなくて、音が被るのを避けてる。

ーーモニター環境も整えたということですけど、モニタースピーカーはどういう機材を使っているんでしょうか?

後藤:GENELECの『8040A』と、BAREFOOT SOUND『MicroMain 27 Gen2』ですね。

ーー加えて、スタジオの吸音材(SALOGICの音場調整パネル)にも徹底的にこだわった。それ以外の、いわゆるハード面での工夫はどうでしょう?

後藤:ハード面は、卓( Mixwave『API 1608』/アナログコンソール)を入れたぐらいで。低音を足すのはプラグインがすごい助けてくれましたね。いわゆるサブハーモニックシンセにドラムの音を通すんです。生音を加工してローを稼ぐ。でも、そうすると暴れる音も出てくるから、EQを細かく調整したりコントロールする。そういうところで日本のエンジニアの細かいオートメーションの書き込み、膨らんでるところを見つけて整理するやり方はさすがだなと思いました。だから、Post Maloneとかを聴いてると、もしかしたら日本のエンジニアの方がこういう音を作るの得意なんじゃないか、って思ったりもしたし。技術は高い人が多いから、面白いものが出てくる気がする。

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ーーこれを作れたことで、次の課題が明確に見えてきたというのもありますよね。このアップデートされたサウンドの上で今度はどういうソングライティングをしようか、という。

後藤:いやあ、これはすごく難しいですよ。そういうこと言いながら、また次の仕事が入ってきたりするわけだから。今回は正直言うと曲のことはそんなに考えてなかったんですよね。考えてるとしたらテンポを落とそうというくらいだったかな。次にはこのサウンドのためにどういう曲がいるか、どういう良い曲を書かなきゃいけないかという問題が出てくる。

ーーでも、これはきっとありそうな気がするんですよ。というのも、トラップ以降起こっている低域のイノベーションと同じく、ここ数年、Robert GlasperやKamasi Washingtonなど、ジャズの領域のプレイヤーが演奏という分野で起こしているイノベーションがある。

後藤:この間、NYでChris Daveのドラムを至近距離で見ました。

ーーそういうことを踏まえたソングライティングやリズムとメロディの関係性の更新はまだまだできそうだし、それをアジカンらしい形でやることも全然可能だと思うんです。

後藤:そうですね。今ちょうどそういう話をしています。たとえばこの音で、『サイレン』とかでやったような実験的なプロダクションに向かっていくような試みをやっても面白いと思うし。他にはサイケデリック寄り、ギターでしか鳴らせない陶酔感のある音を乗せるのもいいなと考えることもあるし、まだまだアイデアはあると思います。

ーーChris Daveのプレイにも刺激は受けました?

後藤:潔が隣でめちゃくちゃ驚いてました。特にショットスピードに驚いてた。叩いてる時、どのぐらいのスピードでショットを振り下ろしてるかを見ていて「キックもスネアもスピードが全部違う。やっぱりショットスピードが速いからいいんだ、自分の見立てが合ってた」って。どうやらショットスピードを速くするためのトレーニングをずっとしてたらしくて。そういうところもドラマーとしては面白いと思うし。

ーー機材のイノベーションもあるし、それに対抗するために人間の方も進化している。

後藤:そうですね。あとはAIとの戦いが始まりますよ、これから。もはやプラグインにもAIが入ってきて、自動的にピークのEQを追いかけて削ってくれる時代ですからね。誰でも使い方を理解したら、あとは自動的にコンピューターが演算してくれる時代がくる。だからジャズドラマーたちがあれだけ上手くなってるのは、早い反応だと思いますよ。あれだけ上手かったら仕事がなくならないですからね。今のところAIが入ってきてないのはメロディメイクの部分だけれど、そこにもいずれ来ると思うし。

ーー話がさまざまに広がりましたが、全般的に、今はサウンドのあり方がドラスティックに変わっている時期だということですね。新しいルール、新しいゲームが始まっているんだから、新しいプレイをしないといけない。

後藤:単純にそっちのほうがいい音に聴こえはじめちゃったっていうことなんですけどね。「やっぱ気持ちいいもんな、この低い音」って。もちろん何が正解か、っていうのはわからないですよ。たとえば「俺たちはこのチープな音が好きなんだ」とか「アナログのテープで録った音が好きなんだ」っていうのはもちろん正解だと思うし。それぞれの美しさがあるから、低音があるからいいとか悪いとかではないと思うんですけど。ただやっぱり、俺としては、ローの重心が下がった音が出せることにワクワクしてるんですよ。なぜかと言うと、明らかにギターの音が良くなったから。ギターのおいしい帯域を他の楽器がマスキングしなくなったんですよね。それだけで、ギター好きとしては親指立てたいくらいの気持ちだったんで。そういう変化に対応したいっていう気持ちがすごい強かったし、実際に作ってみて、これはユニークな音だと思った。そこはすごく目指したところでしたね。

(取材・文=柴 那典/画像= @gotch_akg instagramより)

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