BTS、BLACKPINK……K-POPはテクノロジーをどう活用してきた? 気鋭のメディア研究者、金成玟氏に聞く

 BTS(防弾少年団)やBLACKPINKなどの活躍により、今やグローバルにその人気を拡大しているK-POP。その発展に、インターネットなど2000年代以降に浸透した新たなテクノロジーが大きく寄与していることは、もはや疑いのないところだろう。実際、どのような流れでK-POPはテクノロジーを活用してきたのか。K-POPを「新しいメディア空間」と捉え、その発展をあらゆる角度から検証した書籍『K-POP 新感覚のメディア』(岩波新書)の著者である金成玟氏に話を聞いた。

音楽は所有するものではなく共有するもの

『K-POP 新感覚のメディア』(岩波新書)

ーー本書ではK-POPを「メディア」として捉えることで、その特色や発展の経緯をこれまでにない俯瞰した視点から紐解いています。

金:K-POPのグローバル化がなぜ起こったのかを理解しようとしたとき、ひとつの音楽ジャンルとしてそれを捉えるだけでは不十分です。例えばファンダムのあり方ひとつ取っても、日本や欧米のそれとは明らかに違います。K-POPは日本や欧米のポップミュージックの影響を大いに受けながらも、真正性だけを求め続けるのではなく、韓国社会のあり方とともに常に変化してきた媒介のようなもので、メディア的な性格を持っているのが大きな特徴です。このメディア的な性格があったことも、新しいテクノロジーを有効に活用する一要因となり、K-POPが独自の発展を遂げる手助けとなりました。

ーー新しいテクノロジーがどのように受容されていったのか、その例を教えてください。

金:MP3を受容するのが早かったのは、その最たる例のひとつでしょうね。いろんな音が削られるMP3は、当然ながら理論的にも、圧縮される容量によってはわれわれの耳にも、CDより音質が低いのですが、その分データとして軽くて簡単に共有できます。それは言い換えると、音楽的に重要だと考えられていた部分を諦めているわけで、そこにはK-POPあるいは韓国社会が抱いている、音楽をはじめとしたコンテンツそのものに対する考え方の特異性を見いだすことができます。つまり、高いクオリティの音質を諦める代わりに、音楽は個人が所有するものではなく共有するものであって、インターネットに流れているものに対して自らアクセスするものである、という認識を、他の国や地域より早く形成することに繋がった。ストリーミングサービスやYouTubeの登場によって、今ではこうした認識は主流になりつつありますが、韓国ではファイル共有サービスのNapsterが大流行した2000年前後から、良くも悪くもそうした考え方が根付きつつあり、K-POPの作り手もまたそうした状況に対応してきました。それが結果的に、デジタル化によって大きく変わっていった音楽市場にマッチする戦略を生むことになりました。

ーー音楽を共有するという感覚を、日本のマーケットなどより柔軟に受け入れることができたわけですね。

金:そうですね。そこには市場規模の違いや、音楽業界とマスメディアとの関係性、著作権に対する考え方の違いなど、様々な要素が絡んでいますが、いずれにしても新たなものを受け入れることに対する抵抗があまり大きくないのは、韓国社会の特色のひとつかもしれません。90年代後半には、インターネットを全面的に受け入れて、それによってメディアのあり方やジャーナリズムのあり方もガラリと変わりました。様々なことを受け入れて、どんどん変容していくところが日本との大きな違いで、その姿勢はK-POPにも現れているのではないかと考えています。もちろん、インターネット産業の発展を国全体で推し進めたことは、当時の韓国の伝統的な音楽業界にダメージを与えることにもなったのですが、そこでどう生き残るかという危機感は、韓国音楽業界が海外の市場をターゲットにすることを結果的に後押しもしました。ひとつ指摘しておきたいのは、K-POPが国策によって発展した、といった誤解が一部にありますが、そうではなく、K-POPを発展させたのはアーティストやファンダムを始めとした韓国音楽シーン全体であって、国家は基本的にK-POPをめぐるひとつのアクターにすぎない、ということです。ときには音楽業界を法制度的にサポートしたりもするが、ときにはその成果を利用しようとして葛藤を起こしたりもする。K-POPそのものが国策である、と単純化して捉えると、K-POPを正しく理解することはできないでしょう。

ーーK-POPが、YouTubeとの相性が良いコンテンツだったことも、グローバル化の一因であると捉えられますか?

金:そうですね。K-POPのアーティストには日本的なアイドルの要素と、欧米的なアイドルの要素が混ざり合っていて、それを総合芸術的な表現として視覚的に見せることに力を注いでいるので、YouTubeとの相性はとても良かったと思います。加えて、ファンダムがYouTubeでの再生回数を組織的に増やすことで、応援するアーティストを目立たせようとする行為もまた、とてもK-POP的であり、注目すべきポイントです。つまり、インターネットによって作られたメディア空間の中で、アーティストとファン、あるいはファン同士によるコミュニケーションが生じ、それがマネジメントに影響を与えたり、セールスに直結したりする。だからこそ私はK-POPをメディアであると捉えているのです。このコミュニケーション、あるいはコミュニケーションを可能にしたメディア技術やメディア環境こそ、K-POPの主要な要素ですので。

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