BTS、BLACKPINK……K-POPはテクノロジーをどう活用してきた? 気鋭のメディア研究者、金成玟氏に聞く

J-POPとK-POPは比較し難い

ーーK-POPの方法論や、K-POPを取り巻くメディア環境から、J-POPが学べることにはどのようなものがあると考えていますか?

金:難しい質問ですね。というのも、J-POPとK-POPは同じ土俵の上で比較し難いところがあって。いま韓国の音楽市場は、K-POPのアイドルグループを中心に活発に動いていますが、全体的にみればJ-POPほど多様性のあるシーンではないんです。日本国内の音楽需要は、世界的に見ても非常に高くて、J-POPはそうした大きな市場をもとに独自の発展を遂げているため、そもそもそこまでグローバル化を求める必要はないのかもしれません。例えば、世界的にこれほどヒップホップが主流の音楽ジャンルになっているにもかかわらず、J-POPでは今なおロックバンドが数多く活躍している。これは捉えようによっては、とても貴重なことでもあるわけです。単にグローバル化を目指せばいい、とは言えない難しさがあります。

ーー日本では今なおパッケージされた商品が売れる傾向があって、市場構造も特殊ですよね。

金:音源を共有するのではなく、好きなアーティストの音源を購入して楽しむのも、日本の音楽文化の一部だと捉えると、簡単に変えることはできないと思います。YouTubeに丸ごと音源をアップするのであれば、音源販売に変わるマネタイズ方法が絶対に必要になってくるはずで、そのシステムはまだ十分に準備されているとは言い難いのではないでしょうか。逆にいうと、近年のK-POPはすべてネットに公開することを前提に、根本的なところから市場構造を変えてきたわけです。おそらく、表面的な特徴をいくつか取り入れるだけでは、J-POPがグローバル化していくのは難しいと思いますし、「K-POP VS J-POP」みたいな単純な構造に話を落としこんでしまうと、むしろ見失うものが多いのではないかと。K-POPとJ-POPでは求められていることが違うわけですし、もしかしたらしっかりと差別化することでこそ、J-POPはグローバルに発展していくのかもしれません。

ーーたしかに。本書の中でも指摘されていますが、たとえばブラジルにある日本や韓国のサブカルチャーを扱うお店で、以前は日韓の商品が一緒に売られていたのが、昨今では海外のユーザーも日韓の違いを意識して消費していると。

金:J-POPや漫画を流通消費してきたルートは、そのままK-POPのルートにもなっていますね。その中でちゃんと魅力的なコンテンツを選り分けて消費されるようになってきたのは、日本と韓国どちらにとってもプラスのことだと思います。ざっくりと東アジアのサブカルチャーではなく、アニメなら日本のものを楽しもう、ドラマなら韓国のものを楽しもうみたいな感じで、消費者がしっかり価値判断をしつつある状況になってきています。また、K-POPはもうわざわざ英語などにしなくても、そのまま韓国語のままで受容されつつあります。これは伝統的に我々が考えてきた文化的な境界、特に言語や他者に対する感覚の壁が、ネットやSNSの文化の発展によって低くなってきたことの現れだと考えています。翻訳もかつてよりずっと簡単だし、他の文化をそのままの形で理解しやすくなった。これもテクノロジーによる変化のひとつと言えるのではないでしょうか。

(取材・構成=松田広宣)

■商品情報
『K-POP 新感覚のメディア』(岩波新書)
著者:金 成玟 著
価格:840円+税
発売中
ISBN:9784004317302
体裁:新書、256頁
岩波書店HP:https://www.iwanami.co.jp/book/b371360.html

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