ゲームをやり続けることに意味はあるのか? 『レディ・プレイヤー1』が問いかけるもの

ゲームをやり続けることに意味はあるのか? 『レディ・プレイヤー1』が問いかけるもの

伝説的ヒーロー、スティーヴン・スピルバーグ

 そんな大衆的ヒーローのなかに、 本作の監督スティーヴン・スピルバーグもいる。1980年代はもちろん、いくつもの世代で映像を革新する伝説的な映画を生み出し、「ドリームワークス」や「アンブリン・エンターテインメント」という、自分自身が王として映画を撮ることができる城を築いた映画界のヒーローその人が、本作で大衆から生まれる英雄伝説を描くのだ。劇中ではスタンリー・キューブリックの映画作品が印象的に登場するが、そんな伝説的先人の薫陶を受けて、自身も伝説になっていったという意味では、本作は監督の自伝的な要素をも持っているといえる。それは、本作の物語の下敷きになっているだろう、「聖杯伝説」を描いたリヒャルト・ワーグナーの楽劇『パルジファル』という英雄譚の存在にて荘厳さが強化されている。

 まさに“レジェンド”といえるスピルバーグが本作を監督するというのは、著作権ある膨大なキャラクターたちを登場させるのに大きく貢献しているだろう。多くの著作権保有者は、「スピルバーグなら」と信頼して、大事なキャラクターを貸し出すことができるのだ。

 また劇中で、ゲーム内ゲームとして家庭用ゲーム機「アタリ 2600」が登場するが、じつはスピルバーグ監督は、自身の監督作『E.T.』のゲーム版である「アタリ 2600」用ソフト『E.T. The Extra-Terrestrial(ジ・エクストラ・テレストリアル)』開発において、開発者を指名するなど、部分的にこの企画に関わっていた。だが開発期間の短さが要因となり、このソフトは予想販売数を大きく下回り、アタリが倒産する原因となってしまったのだ。その意味では、スピルバーグとTVゲームは苦いイメージで結ばれている。そんなスピルバーグ監督が、本作で「アタリ 2600」を印象深く描くというのは感慨深いところがある。

 本作の描写でもう一つ面白いのは、ボディースーツ型のギアを利用した、ラブシーンがあるという点だ。触覚による他プレイヤーとの交流は、ゲームを超えて、VRによる新たなコミュニケーションの可能性を示唆する。一方で、アダルト系のアバターはイースター・エッグの関門では除外されることが言及されるなど、エンターテインメントにおけるセックスは、本作のなかで一定の距離をとって扱われているように感じる。それはスピルバーグ監督の作家性にもつながっている部分だろう。

「ゲームをやってて意味があるの?」

 ゲーマーにとって、いや、それだけでなく映画や漫画、アニメ、音楽などの多くのカルチャーにおける熱狂的なファンが直面している問題が、「そんなことやってて時間の無駄なんじゃないの?」という、他人の声や自分自身の内側からの疑問の声に、どう向き合うかということである。息抜きの域を超えて、ポップカルチャーに人生の貴重な時間を吸い取られてしまうことに対して、多くの人はどこかで立ち止まって考えるときが来る。

 本作は、その疑問に一定の答えを出している。例えば、OASIS内のパーシヴァルの親友“エイチ”は、ゲーム内でクリエイティブにものづくりをして、巨大ロボ「アイアン・ジャイアント」を自作して動かすという、プレイヤーとしてクリエイターの域にまで達するなど、現実へとつながる技能を得ている。また、必ずしもものを作る人間だけでなく、多くのプレイヤーたちが友情や愛情を育み、ときに自分たちの世界を恐怖支配から守るため、共闘して民主化を勝ち取る戦いに参加し得るということも示唆している。もちろん、それは同時に支配者のプロパガンダに利用されるリスクも含むことも意味する。

 RPGで貯めた経験値は現実世界に持ち帰ることはできないし、アクションゲームで鍛えたスキルは、ゲーム外ではほとんど役に立つことはないかもしれない。しかしそこで得た無形の経験は、やり方によって現実に活かすことができないわけではない。それは、プレイヤー自身の感性と信念に委ねられている。ポップカルチャーを、現実からの一時的な逃げ場にしてもいい。でもただそこに逃避し続けるのではなく、架空の何かを現実に持ち帰って、自分の夢や幸福につなげる道を発見できれば、それは真に価値のある宝になってゆくはずなのだ。

 かつてゲーム会社「ハドソン」に所属し、ファミコンの名人としてゲームの楽しさをアピールし親しまれた「高橋名人」が、子どもたちに良く言っていたメッセージが、「ゲームは一日一時間」だった。ゲームは楽しい。VRも楽しい。でも現実に目を向け、そこで生きることこそが、仮想現実から与えられた経験を輝かせ、その真の可能性を引き出すことになる。『レディ・プレイヤー1』のラストに示されたのは、まさにその哲学である。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■公開情報
『レディ・プレイヤー1』
4月20日(金)全国ロードショー
監督:スティーヴン・スピルバーグ
脚本:ザック・ペン
原作:アーネスト・クライン著『ゲームウォーズ』(SB文庫)
出演:タイ・シェリダン、オリヴィア・クック、マーク・ライランス、サイモン・ペッグ、T・J・ミラー、ベン・メンデルソーン、森崎ウィン
(c)2018WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. ALL RIGHTS RESERVED
公式サイト:http://wwws.warnerbros.co.jp/readyplayerone/

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