バーチャルリアリティは“現実の再現”ではないーー映像演出家がVR活用例とともに、その実力を解説

“バーチャル”は“リアル”の対義語ではない

 VR = Virtual Reality = 仮想現実 という訳が日本では定着していますが、Virtual という単語の本来の意味は『実質的な』『事実上の』といったニュアンスの方が強いという説も根強くあります。

 オックスフォード辞書でVirtualを調べてみると面白いことが書いてあります。第一に「完全ではないが、ほぼそれに近いもの」、第二に「【コンピューター用語として】物理的には存在していないが、同じように機能するようにソフトウェアで制作されたもの」とあるのです。

 日本語で「仮想」と言うと、実際には存在しなが、あると仮定したもの、という意味合いが強く、いつか消えてなくなる虚像のように感じてしまいます。しかし、Virtualの英語でのニュアンスとしては、「物理的には存在しないけれど、電子的に構築された、物理空間とほぼ同じように機能するもの」という意味合いが強い。

 同じく「Virtual」つながりで思い出されるのは、「Virtual Shopping Store」。今でこそECという名称で落ち着きましたが、1994年にアマゾンが起業した当初は「オンラインストアなんて仮想店舗だから実店舗には勝てない」と当時の批評家から散々な言われようでした。それから24年たった今、アマゾンはGAFA(全世界に影響を及ぼす巨大IT企業Google Apple Facebook Amazonの頭文字をまとめたもの)の一角として世界中に名をはせる大企業に成長しました。

 こんなにも力強く世界中を席巻しているパワーには、仮想という単語から感じる、いつ消えるか分からない儚さなど微塵も感じません。緻密に作りこまれていったサーバー群やソフトウェア群、顧客情報といった様々な電子的なアセットは、物理空間のインフラ以上に強固なインフラとして企業に力を与え、ついには物理空間上でしか展開できないビジネスを凌駕しはじめています。

 そんなデジタル空間と物理空間の力関係の逆転現象の中で現れたのが、VRの衝撃でした。実はOculusRiftやHTCviveの以前からもVR用ゲームやVR機器というものは存在していましたが、最近になって急に普及し始めた大きな理由は、「機器の低価格、高性能化」、「YouTubeやfacebook等の配信プラットフォームの成立」、「インターネットの高速化」といった、電子世界の環境の整備が整ったからです。

 VR業界がこれから起こす本質的なインパクトというのは、ただ単に物理世界を再現するのではなく、電子空間上にすでに着々と出来上がっているインフラを、人間の五感で把握できる形に翻訳することです。そうして、インターネット上のアセットがいかに巨大で、強力になったかが一般にも明るみになるにつれて、電子的なもの=仮想というイメージは消えていくのかもしれません。

■VJyou
高校時代よりベーシストとしてバンド活動や作曲活動を開始。2006年、しばし滞在していたドイツで出会った光景をきっかけに、映像と照明を掛け合わせた空間演出家VJyouとして活動を開始。2008年にベルギーのArkaos社よりGrandVJ Artistとして登録されたのをきっかけに、アップルストアなどでVJセミナー講師も行うようになる。 「いつも歩く道からほんの少し違った世界」をテーマに、実写素材とプログラミング素材を掛け合わせたインタラクティブで有機的な表現を続けた結果、ダンスと画を融合させたLiveCinemaという作品作りを開始。2014年にはCID ユネスコ WORLD DANCE CONGRESS 2014 にてLiveCinema 『Awake』を上演するなど、国内外問わず精力的に活動を続けている。
http://vjyou.com/

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる