『君の好きは無敵』は『西園寺さん』から何を受け継いだ? “好き”を巡る現代の物語に

『君の好きは無敵』は好きを巡る現代の物語

 松本若菜が主演を務め、佐野勇斗が共演する『君の好きは無敵』(TBS系)が、9月15日に最終回を迎える。本作は、若くしてFIREを果たした元経営コンサルタントの草壁杏奈(松本若菜)と、偏屈で変わり者なキャラクターデザイナーの瀬尾深月(佐野勇斗)が、世界中から愛されるキャラクターを生み出すべく奮闘するラブコメディだ。

 “推し活”が定着し、人の「好き」が巨大な市場を生み出す現代。その時代を象徴するヒットの一つが、瀬尾役の佐野が所属するM!LKの「好きすぎて滅!」だ。M!LKからファンへの愛を歌った同曲は、反対にファンから推しへの歌としても受け取れることから、“推し活ソング”として話題を集めた。キャッチーなサウンドはもちろん、推しを愛でる文化と重なったことも、累積再生数3億回を突破する大ヒットにつながったのではないだろうか。

 さらに放送期間中には、『映画ちいかわ 人魚の島のひみつ』が公開3日間で興行収入22億円を超える大ヒットを記録した。ぬいぐるみや文房具、菓子、化粧品、衣料品など関連グッズは多岐にわたり、企業とのコラボでは商品が品切れになることも珍しくない。『ちいかわ』はいまや、キャラクターへの「好き」が巨大な経済圏を築くことを象徴する存在といえるだろう。そんな時代に、キャラクタービジネスを題材とした本作が登場したのは非常にタイムリーだった。

 また、このドラマを手がけたのは、2024年に大きな反響を呼んだ『西園寺さんは家事をしない』(TBS系)の制作チーム。主題歌には星野源の「好き」が起用され、第1話のエンディングでは松本と佐野がパペットダンスを披露した。星野の「恋」と出演者による“恋ダンス”が社会現象になった『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)を思わせる演出にも、ヒットの可能性を感じた人は少なくなかっただろう。

 もっとも、『西園寺さんは家事をしない』とのつながりは、制作陣だけではない。同作は家事を入り口に、「母親なら家事を完璧にこなして家庭を守るべき」「家族は一緒に暮らすべき」「家族の問題は家族だけで解決すべき」といった固定観念から登場人物たちを解き放つ物語だった。そのチームが今回、丁寧にひも解いたのが「好き」という感情である。

 当初は「好き」も「かわいい」もよく分からなかった杏奈が、瀬尾の生み出したキャラクター・チュチュチュエラに出会い、初めて損得や合理性では制御できないほど強い感情を知る。その「好き」は彼女の毎日を鮮やかに変えたが、同時に、麦(金田哲)からの連絡を後回しにし、報酬も保証されない仕事へ自分のお金まで投じさせた。クリエイターの情熱につけ込む相手を「好きの悪用は罪です!」(これも『逃げ恥』の名台詞「“愛情”の搾取に断固として反対します」を彷彿させる)と一喝した杏奈でさえ、自らの「好き」には冷静でいられない。本作が誠実だったのは、「好き」を無条件に賛美せず、その功罪を描いたことだ。

 また、好きな気持ちは強いほど価値があるのか、という問いも投げかけた。周囲と比べて自分の「好き」を小さく見積もってきた大三島(本郷奏多)の姿を通して、人生を懸けるほどの熱量も、ささやかな好意も、同じように大切なのだと伝えている。

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