『落下の王国』リバイバル上映はなぜ異例の大ヒットとなったのか ソフト化を機に振り返る

『落下の王国』リバイバル上映大ヒットの理由

 2008年に一般公開されて以来、数多くの熱心な映画ファンに支持されてきた、ファンタジー映画の金字塔『落下の王国』。“唯一無二”といえる、大スケールでありながら繊細な映像の数々と、絶望と救済を描く深みのある物語が、この一作を孤高の存在へと押し上げている。

 それだけに2025年のリバイバル上映は、大きな反響を呼び起こした。凄まじく壮観な映像の数々が4Kに対応する現在の映画館にて上映されることで本来のポテンシャルが発揮されたことも、注目を集めた理由だろう。さらに、オリジナルの劇場公開版でカットされた約2分間のシーンが新たに追加されてもいる。

 そんな『落下の王国』4Kデジタルリマスター版が、UHDおよびBlu-rayという、家庭用の決定版として、新たに発売される。ここでは、そんな映画ファン垂涎といえるリリースのタイミングで、もう一度本作『落下の王国』の魅力と特異性を振り返ってみたい。

 本作を手がけたのは、「映像の魔術師」と呼ばれる、インド出身のターセム(ターセム・シン)監督。ミュージックビデオやCMでキャリアを積み、人間の潜在意識の世界を美麗かつダークに描いたデビュー作『ザ・セル』(2000年)で、世界に衝撃を与えたクリエイターだ。この度肝を抜かれる鮮烈な一作だけで当時、ターセム監督は映画界で一気に最も注目される存在に躍り出た。

 とはいえ、本作『落下の王国』のような、巨大でアーティスティックな自主製作映画に取り掛かっていたのは、常識的に考えれば無謀なことだといえるだろう。私財を投入しながら映画の販売に苦労することになったターセム監督は、絶体絶命のピンチに陥ったのだ。しかし、ここで同様に“映像派”監督であるデヴィッド・フィンチャーとスパイク・ジョーンズが登場する。彼らは、そんなターセム監督の志をサポートし、作品を大々的に推薦したのである。この両巨頭が心を動かされるほどに、本作は映画文化にとって重要な一作だったということだ。

 映画の舞台となるのは、1915年ロサンゼルスの病院だ。無声映画のスタントマンだったロイ・ウォーカー(リー・ペイス)は、映画の撮影中に橋から落ちたことで大怪我を負い、半身不随となってしまう。病室のベッドで自暴自棄になっていたロイの前に現れたのは、木から落ちて腕を骨折し入院していた5才の少女アレクサンドリア(カティンカ・アンタルー)だった。深い絶望のなか自殺しようとしていたロイは、アレクサンドリアを利用し、自殺するための薬を薬剤室から持って来させようとする。彼女を思い通りに動かそうと、ロイは思いついた冒険物語を聞かせ始めるのだった……。

 こうした趣向は、口から出まかせの痛快な冒険小説『ほら吹き男爵の冒険』のダークな解釈といえるかもしれない。ターセム監督が本作を売るのに苦戦したのは、この入れ子構造で物語が進んでいくところにあるだろう。大スペクタクルの冒険をストレートに描くのでなく、思いつきの物語というかたちで提出されることで、映像自体の完成度に変わりはなくとも、観客はそれを二次的なものとして認識するため、訴求力が落ちてしまう場合がある。しかしそんなことを、ターセム監督が分からないはずがない。彼は、あえてこの難しい枠組みで、“ある真理”を描こうとするのである。

 そんな、病院の一室で語られる思いつきの物語を、13の世界遺産、24カ国以上のロケーションを辿って、“本物”の映像を見せていく趣向は、本作ならではの逆説的な試みだ。巨大な壁のようなナミブ砂漠の砂の層や、幾何学的で壮大なチャンド・バオリの階段井戸など、地理的条件を気にせず、次々と圧倒されるような世界中の光景が連続していく。このような試みの映画が、他にあるだろうか。こうした圧倒的な映像体験のために、本作は“思いつきの物語”という設定を最大限に利用しているのである。

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