佐野晶哉の武器は“耳の良さ”にあり 『風、薫る』『おそ松さん』で証明した役作りの巧みさ

佐野晶哉の武器は“耳の良さ”にあり

 基本はウィスパーボイスで、ポツリポツリと言葉を置いていくように喋るシマケン。それらは単に聞き取りやすく、耳心地がいいというだけではなく、穏やかさ、知的さ、神経質さといったシマケンの持つ性格や気質を伝える大事な要素だ。一方で、言語についての知識を披露する際には声に力が入り、早口で捲し立てるような喋り方になる。普段との違いだけで、シマケンについての事前情報を何も持たない人であっても、「ああ、この人は本当に言葉が好きなんだな」と即座に理解できるのではないだろうか。

『風、薫る』写真提供=NHK

 友人の槇村(林裕太)に対しては強めの口調、かつ面倒くさそうに応答する一方、りんには恥じらいつつ丁寧に、彼女の娘・環(英茉)には優しさと愛情を滲ませながら語りかけるなど、シマケンと相手との間柄、その人に抱いている感情によっても、声に微妙な変化を持たせている佐野。また、りんに惹かれていくにつれ、最初は「誰にわかってもらえなくてもいい」というような投げやり感があった口ぶりに、相手に届けたい、伝えたいという意志が感じられるようになってきている。そうしたシマケンの心情の変化も、佐野の声から伝わってくるのだ。

 ここで特筆すべきは、佐野の“耳”のよさである。幼少期から劇団四季の子役として『ライオンキング』や『サウンド・オブ・ミュージック』などの舞台に立っていた経験に裏打ちされた歌のテクニックと表現力、音楽大学で2年間学んだ確かな知識を武器とする佐野。相対音感の持ち主であり、TBSの音楽番組『100点カラオケ音楽祭』では生歌唱で100点を獲得したことも。おそらくは、耳から受け取る情報も人より多いのではないか。視覚情報だけではなく、声のボリュームやトーン、声色、話すスピード、テンポ感、間の取り方などの“音”も、佐野の中では相手を知る重要な手がかりとなっていて、それがそのまま役づくりにも反映されているような気がする。

映画『おそ松さん 人類クズ化計画!!!!!?』©映画「おそ松さん」製作委員会2026

 そんな佐野の力は、本作でも大いに発揮されている。まず、アニメでチョロ松を演じている神谷浩史の声や演技をよく研究しているのが感じ取れた。特にチョロ松が初めて伊勢海老を食べて「うまーーーーい!」と叫ぶところは御本人登場かと思うほどで、原作ファンからも驚きと称賛の声が上がっているようだ。

 チョロ松は自称“唯一のまとも枠”で、たしかに他の兄弟よりも冷静で「俺たちヤバくない?」と自分たちのことを俯瞰している節がある。だが、決して無個性ではない。地下アイドルの橋本にゃー(野口衣織)をこよなく愛する推し活男子であり、踏まれて喜ぶ変態(?)。かつ、にゃーちゃんに突き放されるや否や、古参アピール&理詰めで対抗するクズ要素もしっかり兼ね備えているのだ。

映画『おそ松さん 人類クズ化計画!!!!!?』©映画「おそ松さん」製作委員会2026

 チョロ松のオタク気質が最も表れているのが、つらつらと一気に言葉を並び立てるシーン。原作再現度の高さはもちろんのこと、台詞が早口なのに聞き取りやすく、その滑舌の良さに感心させられた。関西出身の佐野にとっては難易度の高い標準語でのツッコミもキレッキレ。そんなふうに、佐野は緩急自在に言葉を操ってチョロ松のキャラクター性を豊かに表現している。

 劇中に登場する6つ子たちのイケメンバージョン“F6”のライブシーンも見逃せない。王子様衣装にメガネをかけ、知的なオーラとアイドルオーラ全開の笑顔を携えた佐野は破壊力抜群だ。その澄み切った天使のような歌声は、ぜひとも映画館の音響で聴いてほしいところ。また、佐野はオタ芸協会からレクチャーを受けた上で完璧なまでのオタ芸を披露しており、オールマイティーぶりが炸裂している。『おそ松さん』の世界に初めて触れる人はチョロ松が好きに、またチョロ松推しの人もさらに愛が深まる作品になっているのではないだろうか。

参照
※ https://www.kogyotsushin.com/archives/topics/t8/202606/15153645.php

■放送情報
2026年度前期 NHK連続テレビ小説『風、薫る』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:見上愛、上坂樹里
脚本:吉澤智子
原案:田中ひかる『明治のナイチンゲール 大関和物語』
制作統括:松園武大
プロデューサー:川口俊介
演出:佐々木善春、橋本万葉ほか
写真提供=NHK

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