陰惨な社会問題をバイオレンスとともに描く 『HUMINT/ヒューミント』を貫く哲学的テーマ

『HUMINT/ヒューミント』の哲学的テーマ

 チョが葛藤するのは、あくまで違法な麻薬ビジネスを追う上で、こうした陰惨な状況を看過することを求められるからだ。北朝鮮と韓国で同じ民族が長年分断されている状況において、分断された女性たちが犠牲になっているという、重い現実。そんな女性たちをも情報源とする「ヒューミント」を描く本作の物語では、そうした心理的な圧迫こそが、主人公を押し潰していくのだ。それは韓国人を含めたアジア人や、または女性や社会的な公平性を重視する人々が常に感じている“痛み”そのものでもある。

 だからこそ、こうしたケースを放っておくことができないチョの選択は、主人公が主人公たり得る理由となっている。そしてそれが、売春ビジネスを壊そうとする、本作の大きなカタルシスへとつながっていくこととなるだろう。また、この構造は、ガンアクションを封印させた序盤と、長尺のガンアクションが炸裂する終盤とも同期している。こうした推進力が本作を力強いものにしていることは間違いない。

 しかし、そのバイオレンス描写は単に気持ちのいいものではなく、身体的な“痛み”をダークに描いているところが特徴的なのだ。これは監督のリュ・スンワンが、「復讐三部作」でも知られる巨匠パク・チャヌク監督に多大な影響を受けている部分であるといえよう。こうした韓国映画の連続性もまた、本作を味わう理由となるだろう。

 本作の登場人物たちは、国家という巨大な機械の歯車であり、情報収集の道具として生きることを強いられている。人間が意志を尊重されずに人間として扱われていない状況を映し出すことで、それが脱北女性が搾取される状況と重ね合わされている。しかし、極限状態において彼らがシステムの手を離れるときに、本作は凍えるような世界に熱を与えるのだ。それはパク・ジョンミンと、シン・セギョンが演じる女性の間の愛情の表現とも連動する。

 人間性を失わせる冷たいシステムや、暴力的に人間を従わせる陰惨な社会……。それを象徴する寒々しい景色のなかで、人間の体温を熱気として対比させることが、本作を貫く哲学的なテーマの表出である。スタイリッシュな映像を撮るだけではなく、それ自体に観客の心情を乗せようとしていく。こうした映像へのアプローチは、アクション映画にとって非常に重要だということを、本作『HUMINT/ヒューミント』は思い出させてくれるのである。

■配信情報
『HUMINT/ヒューミント』
Netflixにて独占配信中
出演:チョ・インソン、パク・ジョンミン、パク・ヘジュン、シン・セギョン、ロバート・マーザー
監督:リュ・スンワン

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