陰惨な社会問題をバイオレンスとともに描く 『HUMINT/ヒューミント』を貫く哲学的テーマ

「ヒューミント(HUMINT)」という聞き慣れない言葉は、“Human(ヒューマン)”と“Intelligence(インテリジェンス)”を掛け合わせたもので、“人間を媒介させる諜報活動”という意味を持つらしい。つまり、人と接触して情報を聞き出したり、尋問や拷問をすることも「ヒューミント」にあたる。
Netflixで配信リリースされた韓国映画『HUMINT/ヒューミント』は、そんな生身の“人間”にかかわる韓国の諜報員の奮闘を描く一作だ。そしてそこで示唆される、“心の痛み”を感じるような陰惨な社会問題が、“身体的な痛み”を感じるバイオレンスとともに映し出されていく。
『密輸 1970』(2023年)などで知られるリュ・スンワン監督作としては、『ベルリンファイル』(2013年)、『モガディシュ 脱出までの14日間』(2021年)と併せ、海外ロケによる作品シリーズとなる。今回、主な舞台となっているのは、ロシアのウラジオストクだ。もちろん、現在の政情によりロシアでの撮影は難しく、撮影は旧ソ連文化圏としての共通項を持つラトビアのリガでおこなわれている。
ロシアの港湾都市ウラジオストクは、中国、韓国、北朝鮮、そして日本との距離が短く、地理的にはむしろ精神的な主柱である首都・モスクワよりも、東アジア地域に接近しているといえよう。だからこそ本作には、必然的にこの5つの国が登場することになる。韓国国家情報院に勤めるチョ(チョ・インソン)は、そんな国境付近で活動する国際犯罪組織の調査を命じられる。そこで北朝鮮国家安全保衛局のパク(パク・ジョンミン)と交錯。さらに、パクとは個人的な利害が衝突する北朝鮮総領事ファン(パク・ヘジュン)によって事態は複雑化していく。とくにチョ・インソン、パク・ジョンミンは、人気俳優であるとともに、リュ・スンワン監督作で力を発揮しているキャストでもある。
ショッキングなのは、国際的な麻薬ビジネスが捜査されるなかで、同じように国際的な売春ネットワークの存在に迫っていく部分だ。とくに北朝鮮から亡命した立場の弱い女性たちが、犯罪組織に利用され搾取される実態が示唆されているのである。現実の世界においても、国連や人権団体の報告書によれば、中国やロシアの国境付近で、脱北女性や外貨獲得のために送り出された女性が、人身売買組織によって中国の農村部へ嫁として売られたり、ロシアの売春宿で強制労働を強いられるといった事例が数多く報告されている。
そんな事実が含まれているからこそ、本作で映し出される状況は、娯楽映画としては、かなり陰惨で重いものに感じられ、やや不謹慎にすら感じる部分もある。女性たちが麻薬漬けにされるという設定は、ノワール映画としての衝撃を高める演出として機能している部分だ。しかし、そうしたケースもあるのだろうという説得力が、現実の状況にあることもまた事実なのだ。いずれにせよ北朝鮮への強制送還という恐怖を盾に、支配と搾取がおこなわれているのは確かなのである。






















