ファン・ジョンミンの“渋み”が絶妙 『ベテラン 凶悪犯罪捜査班』は“韓国娯楽活劇”新たな傑作

あのド根性熱血刑事が10年ぶりに帰ってきた! 『ベテラン 凶悪犯罪捜査班』(2024年)は、『ベテラン』(2015年)の続編であり、前作に勝るとも劣らない痛快娯楽活劇に仕上がっている。
ベテラン刑事のソ・ドチョル(ファン・ジョンミン)は、チームの仲間たちと共に犯罪と戦う日々を送っていた。生傷が耐えず、その割には薄給で、おまけに妻や息子とも向き合えず……それでもドチョルは現場で犯罪と戦い続ける。そんなある日、法律で裁かれなかった悪人を狙う連続殺人事件が発生。しかし殺される人間が総じて悪党なので、世論は殺人鬼に熱狂し、“ヘチ”(悪人を倒す伝説の存在)と呼んで英雄視していた。そしてドチョルはヘチの連続殺人を追うのだが……。
前作は当時非常にホットだったナッツリターン事件にインスパイアされた作品で、「富裕層/財閥の身勝手は許せねぇぜ!」がテーマだった。それから10年が経った今回のテーマは、ずばり「迷惑配信者と私刑にぶっとい釘を刺す!」である。本作には、それはまぁ現代的な良くない人々が盛り沢山だ。自称ジャーナリストのYouTuberは警察を無能だと罵り、殺人鬼“ヘチ”を礼賛する。ここにバットマンやパニッシャー的な根性や気合があれば話は変わってくるが、そんな信念や狂気はなく、再生数と投げ銭(金儲け)にしか興味がない。インターネットの悪くて軽薄な部分がこれでもかと描かれる。迷惑系とか言うな。渋谷系じゃないんだから。ちゃんと迷惑と言っていこう。
閑話休題。しょっぱいインタネッターに対して、メインの悪役のヘチは、一筋縄ではいかない殺人鬼だ。彼が手にかける標的は、観客から見ても「死んで当然」と納得できる相手ばかり。実際、映画を観ていてヘチの行動に好感を持つ人もいるだろう。それは主人公のドチョルも一緒だ。ドチョルは熱血刑事と言えば聞こえはいいが、冷静に突っ込まれたら普通に暴力刑事である。普段から「あいつ死ねばいいのに」と悪態をついて、現場では犯人をブン殴る……そんな法律より上に正義が胸の中にある男なのだ。己の信念と正義に忠実なドチョルは、法を無視して私刑を行うヘチと同種と言えるのではないか? 本作はそんな問いかけが話のメインにどっしりと通っている。この問題を前にドチョルがどのような答えを出すのか、それは劇場で是非目撃してほしい。ドチョルのナイスガイっぷりと、やっぱ筋を通すのが正義だなと高速で頷きたくなること必至である。
そんな人情熱血刑事ドチョルの魅力はそのままに、ものすごくパワーアップしている部分がある。アクションだ。前作も高いレベルだったが、映画の技術は日進月歩、今回はさらにキレのいいアクションが揃っている。韓国映画お得意の乱闘シーンは、今回も迫力抜群。『ソウルの春』(2023年)で完全な老け役をやってのけたファン・ジョンミンだが、本作では腕っぷしの強い中年にカムバック。パンチ、キック、体当たりを主体とした現場仕込みの荒々しいファイトスタイルで魅せてくれる。