永瀬廉のカリスマ性と映像美が光る 映画『鬼の花嫁』が提示する実写化の現在地と道標

映画『鬼の花嫁』が提示する実写化の道標

 クレハによる大ヒット和風恋愛ファンタジーを、池田千尋監督が実写映画化した映画『鬼の花嫁』が劇場公開中。「あやかしと人間が共存する世界」という、一歩間違えればチープなコスプレ映画に陥りかねない難易度の高い設定は、実写化において大きなハードルになりがちだ。加えて、ストーリーやキャラクターにおいて、どれだけ原作に沿った物語を描くのかも問われる。  

 本作は、手放しに「映画としての完全な成功例」と呼ぶには課題も残る作品である。しかし、恋愛系ラノベ/少女漫画系作品の実写化という視点で見ると、卓越したビジュアライゼーションや役者陣の好演など、注目すべき独自の魅力的な要素を備えた一作となっている。

テンポの悪さを抱えつつも、美しさを追求したビジュアライゼーション

 本作を映画としてフラットに評価した際、ネックとなるのはその“テンポ”だろう。全体的にゆったりとしたペースで平坦に物語が進むため、122分という上映時間は少々長く、間延びしている印象を受ける。一つのカットが長すぎるという冗長な場面も散見され、中盤にかけて退屈さを感じてしまう観客もいるはずだ。また、あやかしの世界観でありながら、彼らの力を使ったバトルなど視覚的なカタルシスを得られる見せ場が少ないことも、作品の平坦さを際立たせてしまっている。

 しかし、そうした冗長な撮影やテンポの悪さを抱えつつも、「美しいものを撮ることへの余念がない」という点において、本作は確かな評価に値する。恋愛系ラノベ/少女漫画やファンタジーの実写化において重要なビジュアライゼーションに対する力点の置き方は非常に強く、精緻なビジュアル構築がファンタジー世界を地に足のついたものにしている。  

 その映像美に貢献しているのが、衣装やヘアメイクの妙だ。キャラクターデザインおよび衣装デザインには、Babymixが参加。スタイリストの須藤藍里とともに作り上げた鬼龍院玲夜(永瀬廉)のスタイリングは、日本の伝統的な和のモチーフを現代のテーラードに落とし込んでおり、人ならざる者のカリスマ性と現代社会に溶け込む権力者の雰囲気を見事に成立させている。  

 また、CGにあまり頼らず、物理的な造形とメイクによって「人ならざる者」の異様さを表現しているヘアメイクチームの功績も大きい。とりわけ九尾の妖狐を演じた尾野真千子の顔を赤い紐で亀甲縛りのようにするメイクアプローチや、烏天狗を演じた嶋田久作の黒リップなど、モダンで妖艶なルックが目を引く。画面の隅々にまでこだわることで、ファンタジー世界を美しい映像作品として構築しているのだ。

永瀬廉の存在そのものが持つ“説得力”

 映画としてのテンポの悪さを補って余りあるのが、役者陣の確かな演技力だ。なかでも、最大の立役者と言えるのが鬼龍院玲夜を演じた永瀬廉の存在感である。

 和風ファンタジーにおける“最強のあやかし”というキャラクターは、役者自身の持つオーラが伴わなければ途端に現実味を失ってしまう。しかし永瀬は、玲夜の強さや地位に対して「静」の芝居でアプローチした。声を張り上げるのではなく、低く落ち着いた声色と揺るぎない美しい佇まいだけで、あやかしの頂点にふさわしいカリスマ性をスクリーンに体現している。  

 特に印象的なのが、その“眼差し”の演技だ。他者を寄せ付けない冷涼な瞳が、ヒロインの柚子に向けられる瞬間にだけふっと温度を上げ、不器用ながらも深い愛情を帯びる。恋愛系ラノベ/少女漫画的な「溺愛」の表現を、実写のリアリティラインに沿って品良く体現してみせた。そこに立っているだけで「この世界は本物なのだ」と思わせる永瀬の存在感は、本作における大きな見どころと言っていいだろう。

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